『シカゴ』シリーズ、ディック・ウルフは何故シカゴの街を選んだのか?

全米大ヒット海外ドラマ『シカゴ・ファイア』『シカゴ P.D.』『シカゴ・メッド』。アメリカTV界の重鎮ディック・ウルフが2012年よりスタートさせた『シカゴ』シリーズは、すでに日本上陸を果たしている3作品に、2017年に米NBCで放送されたリーガル・ドラマである『Chicago Justice(原題)』を加えた4作品がラインナップされており、現在最も注目の海外ドラマと言っても過言ではない。ニューヨークを舞台に『LAW & ORDER』シリーズを手がけてきたディック・ウルフは、そもそも何故、シカゴの街を選んだのだろうか。そこにはシカゴという街が歩んできた長い歴史が関係しているようだ。

まずはディック・ウルフという男を紹介しよう

彼は1946年12月20日ニューヨーク生まれ。ウォーク・オブ・フェイムに名を刻み、ハリウッドの殿堂入りも果たしている人物だ。

20191120-chicago_0000009-dramanavi-1-00-view.jpg意外にもキャリアのスタートは32歳と比較的遅めであった。映画『ノーマンズ・ランド』、TVドラマ『ヒルストリート・ブルース』『マイアミ・バイス』などの脚本を手がけ、着実にキャリアを積んだウルフは、1990年、革新的な作品を世に送り出す。『LAW & ORDER ロー&オーダー』だ。

20191120-chicago_2-dramanavi-1-00-view.jpg当時のTVドラマは60分1話の作品を作るには難しい状況であり、ならばとウルフは30分構成の作品を2本作ろうと考えつく。その内容は前半部と後半部を異なる日に放送し、物語を完結させようというものだった。しかし、このアイディアでは視聴率に問題が生じてくるということから却下されてしまう。そこでウルフが思いついた革新的なアイディアが、60分ドラマの中で警察と検察のパートを分割しようというものだった。

ニューヨークを舞台に、前半で事件発生から犯人逮捕までを描き、後半で検察が登場し、容疑者に判決を下すという2パートから成る構成が視聴者の心を掴み、エミー賞を初めとした数々の賞を受賞。20年もの間続いたロングランシリーズとなった。

さらにオリジナル以外にも『LAW & ORDER: 性犯罪特捜班』などスピンオフシリーズが5作品製作され、一大フランチャイズとして、アメリカTV界を代表する屈指の名作として知られるようになる。そんなウルフがホームタウンであるニューヨークを飛び出し、次なる舞台として選んだのが、アメリカ第3の都市シカゴだった。

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ディック・ウルフが次なる舞台としてシカゴを選んだ理由

2012年より放送を開始した『シカゴ』シリーズ第1作『シカゴ・ファイア』は、シカゴ51分署の消防士たちの熱き人間ドラマを中心にシカゴという街の歴史や文化も同時に映し出している作品である。ディック・ウルフがシカゴの街を次なる舞台として選んだ理由は、シカゴという街の歴史を紐解いていくと、自ずとハッキリしてくるのだ。

シカゴはニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ、アメリカ第3の都市として知られ、面積は東京23区とほぼ同じ。名前の由来は野生のタマネギ=Shikaakwaから来ていると言われている。ジャズ文化発祥の地としても知られる街であるが、実は"消防"とは切っても切り離せない関係性なのだ。

1871年10月8日。この日はシカゴ市民にとって、忘れられない一日となった。この日から3日間に渡り、シカゴの街は炎に包まれた。のちに言う「シカゴ大火」である。

この年シカゴは、強い日照りが続き、とても乾燥した状態だった。「シカゴ大火」は街の小さな納屋から小さな火災が発生し、強い強風に煽られ、見る見るうちに炎が広がっていった。すぐに鎮火できるものだと思われたが、その後、3日もの間、シカゴの街を焼き尽くし、壊滅的ダメージを与えたのだ。

当時、シカゴの街に建てられていた建造物のほとんどが木造であったことから、1万5000棟もの建物が消失。19世紀にアメリカが経験した最大の惨事となってしまう。辺り一面瓦礫になってしまう中、唯一生き残ったのが、ミシガン湖から家庭用に水を供給するために建てられていたウォータータワーだ。このウォータータワーは石灰石を用いて建造されていたために大火を生き延び、強さの象徴としてシカゴ市民たちの復興のシンボルとなった。

20191120-chicago_4-dramanavi-1-00-view.jpg大火後、シカゴは防災システムを見直し、新たな火災予防条例を作る。可能性を信じるシカゴ市民たちとの賢明な復興作業とひたむきな努力により、街を立て直したシカゴの消防士たちは今では全米を代表する規模と水準を誇る。つまり壊滅状態をもたらした「シカゴ大火」は消防の街シカゴを生んだのだ。

ディック・ウルフが作品で描く事件や題材は新聞に踊る見出しから着想を得ているというが、こういった炎の歴史を背景に抱えるシカゴだからこそ、海外ドラマではあまり描かれることのなかった"消防"という題材の作品を製作できたのかもしれない。

シカゴでは街のそこかしこに撮影を告知する貼り紙がされており、『シカゴ・ファイア』自体も好意的に受け入れられている。ドラマでも描かれているように、シカゴ市民にとって消防士たちは英雄であり、誇りなのだ。

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全米有数の犯罪都市としての顔

ウルフがシカゴを選んだ理由と考えられる事実がもう一つある。それはシカゴが、全米有数の犯罪都市であるということだ。

シカゴの人口は全米最大の都市ニューヨークのおよそ3分の1であるのに対し、年に発生する殺人事件の数が2倍以上と言われており、アメリカ全土の中でも、あまり治安が良いとは言えないのだ。"狂騒の20年代"と呼ばれる1920年代には悪名高いアル・カポネが犯罪帝国を築き上げた地としても認識され、1929年の「聖バレンタインデーの虐殺」、1886年の「ヘイマーケット事件」、1893年にはシカゴ万博最中のH・H・ホームズによる殺人ホテルなど、アメリカの犯罪史においても欠くことのできない街でもある。

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こういった多くのバックグラウンドを抱えているというところも、ウルフがシカゴを選んだ理由なのではないかと推察できるのだ。

経済や物流の中心で、世界一の摩天楼を誇る、シカゴ。この街の様々な表情を垣間見ることのできる海外ドラマ『シカゴ』シリーズから目が離せない!! そしてディック・ウルフの今後の活躍にも注目だ。

Photo:『シカゴ・ファイア×シカゴ P.D.×LAW & ORDER_クロスオーバー』/ テイラー・キニー(『シカゴ・ファイア』)、マリスカ・ハージティ(『LAW & ORDER: 性犯罪特捜班』、ディック・ウルフ、ジェイソン・ベギー(『シカゴ P.D.』)©FAM008/FAMOUS/ LAW & ORDER ロー&オーダー』(C) Universal Television Distribution./ 『LAW & ORDER: 性犯罪特捜班』シーズン20 © 2018 Universal Network Television LLC. All Rights Reserved./ 『シカゴ・ファイア』シーズン5 (c) 2017 OPEN 4 BUSINESS PRODUCTIONS LLC. All Rights Reserved. /『シカゴ P.D.』シーズン3 (c) 2017 Universal Television LLC. All Rights Reserved.