閉鎖から3ヶ月...エンターテイメント業界は、永遠に変わるのか?

2020年。東京ではオリンピックが開催されるはずだったこの年は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、世界が大きく変わった。日常生活はままならない状態となり、それはエンターテイメント業界にも多大な影響を与えた。ハリウッドをはじめ、各国で撮影されていた映画やドラマの製作は中断を余儀なくされ、俳優やスタッフも仕事をなくし自己隔離をすることになった。閉鎖から3ヶ月。徐々に明るい兆しも見え始めてきているが、これまでのエンターテイメント業界の動向、そして今後の展望に注目してみたい。

現在の米国エンタメ界の状況は...

この記事の執筆時点(2020年5月28日)では、米国やその他の国でも撮影は中断したままだ。ロサンゼルスにおいては、2020年の第1四半期(1月~3月)は昨年比で18%減少。第2四半期(4月~6月)においては昨年比100%ダウンにもなると言われている。当然それによって仕事を失った製作関係者たちは、もはや失業状態にありロケが再開しない限り収入も見込めない。またニューヨークでは現在もブロードウェイは閉鎖されており、スポーツ関係の試合も全てストップしている。映像でも生の舞台でも、コンテンツが生み出されないため、それをお披露目するテレビ局、配信サービス、映画館、舞台など全てのエンターテイメント業界に影響が出た。

絶好調なのは?

だが、そんな状態でも意外な収益を得た企業もある。米Netflixは2ヶ月ほどで、予想の2倍以上もの加入者数である1600万人を獲得。家に引きこもっていた全世界の人々は、好きなコンテンツを好きな時間に好きなだけ見るという娯楽に走ったのだ。またDisney+は、昨年12月から2800万人もの会員数増という結果に。米New York Timesによると、アメリカ全世帯で最低でも1つ以上配信サービスに加入している家は今年第一四半期だけで74%増の250万世帯を記録したという。

一方、有料ケーブルテレビにおいては逆に解約する人が増加。すでに完成しており永遠に見られるコンテンツがあまりない従来のテレビ局の魅力が薄れたことが原因の一つだろう。

テレビ局は何を放送しているのか

スポーツ系チャンネルでは過去の試合を流し、無観客で行っているプロレス中継などをかろうじて放送しているテレビ局もある。米国では早い段階から、朝のニュース番組も、ウェブ会議・ビデオ会議システムを利用し自己隔離中のアナウンサーたちが遠隔で毎日集合。日本でいうお笑い番組のような米NBCの長寿コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』においては、コメディアンが自宅でそれぞれのパートをレコーディングし、編集され放送している。

『アメリカン・アイドル』のようなリアリティ番組やトーク番組も、セレブや司会者が自宅から出演。それぞれの自宅のインテリアや家族の登場と、日頃見られないものが見られて楽しい部分もあるが、各テレビ局、苦肉の策で何とかやりくりしている状態だ。

配信サービスの競争はさらに激化

昨今、もともとアメリカではApple TV+、Amazon Prime Video、CBS All Access、HBO Maxなど配信サービスが乱立しつつあり、どれだけのコンテンツで視聴者を魅了できるかを競う"配信サービス戦国時代"に突入していた。よって、上記のような各社でさえも充実したコンテンツがなければ当然競合に負ける。売れる製品がないメーカーがどれだけ頑張っても、売上が上がらないのと同じだ。

HBO Maxは本国で5月27日(水)よりサービス開始中

そんななか、Netflixの最高コンテンツ責任者であるテッド・サランドスは、4月の株主総会で余裕のスピーチをして我々を驚かせた。同社は2020年分の作品撮影はほぼ終了しており、世界の各拠点で200以上もの作品をリモートワークで仕上げている段階であり、2021年用コンテンツも十分にあるというのだ。同社は、シーズン丸ごとの製作を早い段階で決断するため、撮影も配信のかなり前から行っており、今回のような事態でもそれほど困ることがないのだという。

このように、毎週の視聴率に頼って作品の存続を決めるスポンサー付きの従来型テレビ局よりも、独自のコンテンツと物差しで早い決断のできる配信サービスの躍進が、今回のことでより顕著になった。

映画館と製作会社が衝突

劇場公開映画についても過去にないような出来事があった。

米国の大手映画チェーン3社(AMC、リーガル、シネマーク)は3月より映画館を閉鎖している。そのため、4月10日(金)に全米公開される予定だった米ユニバーサル・ピクチャーズのアニメ映画『トロールズ ミュージック★パワー』は、急遽同日にオンデマンドでリリースされた。だがなんと本作は、レンタル配信から3週間の間に、北米だけで予想をはるかに超えた約1億ドルを売り上げた。2016年の第一作目オリジナル版が3週間の米国劇場公開で1億1600万ドルの興行収益だったが、それとほぼ変わらない成績となった。そのため、ユニバーサル側は今後もオンデマンドと劇場の両方で公開していくと発言した。

 

ちなみに筆者の家にも『トロールズ』世代の子どもがおり、公開後の週末はオンデマンドレンタル視聴(48時間で19.99ドル)をした。米国では映画館のチケットは非常に安いので、レンタルでこれは少々お高いと思ったが、気に入ったシーンを2日間何度も視聴する子どもにとっては、むしろお得だったのかもしれない。

だが、そんなユニバーサルの浮かれた発言に映画館側は真っ向から衝突。オンデマンドでも公開するなら、今後ユニバーサル作品は劇場で一切上映しないと強気に宣言したのだ。その後、この2社の関係がどうなっているか現時点ではわかっていない。

今回の閉鎖期間で少なからず痛手を負った大手映画チェーンは、6、7月を目安に再開を予定している。米CNBCが報じているアンケートによると、再開後、34%が「1ヶ月以内に映画館に行く」、25%が「即行く」、21%が「ワクチンの完成まで行かない」、18%が「2ヶ月以上行かない」、1%が「絶対行かない」と言う。再開後の入場者数は当然制限されるが、シネマークCEOは、20-30%の入場者数でも利益を出せる計算になっていると語っている。映画好き1500人によるアンケートでは、「座席の間を空けて映画鑑賞するのが感染予防に良い」と考える人が42%と多く、次に「劇場内の消毒徹底」「スタッフのマスク義務化」「ロビーなどでの密を避ける」、そして「入り口での体温検査」と続き、劇場側も全てではないにしろ、新たな対応に備える必要があるようだ。

ハリウッドで働く人たちは?

打撃を食らったハリウッドだが、実は5月22日(金)に、 カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事は、「週明けにでも映画やテレビの撮影を許可する」と発言した。だが、これに対し業界のユニオン(組合)は猛反発。16万人の俳優を抱えるSAG-AFTRAも撮影再開に反対した。米SF Gateによると、あるプロデューサーは「知事が何と言おうと早くて7月だ。(スタッフなど仕事がなくて)困っているのもわかるが、皆耐えてくれ。スタッフやキャストの命を危険にさらすことはできない」と話したという。

きらびやかなイメージの強いハリウッドだが、その中にいる人たちは実に慎重で、現実的だ。そして何よりも、アメリカでスローガンになっている「We are all in this together(皆で一丸となり乗りきろう)」の精神を貫いている。

ブロードウェイの状況は?

状況が好転すれば9月にオープンできると言われているブロードウェイはどうだろうか。ブロードウェイリーグのシャーロット・セント・マーティン社長は、「9月ではなく2021年1月に再開できるのではないか」と話す。年末年始に観光客が戻ってくることに期待も寄せているようだが、2020年内は、41ある劇場のカーテンが降りたままだとすると、その損害額は15億ドルにも及ぶという。また、再開するにあたってのオーディションや稽古も、従来のとおりではないやり方で始めることも計画されており、ベテラン俳優たちにとっても経験のないやり方で、今後はプロダクションが進んでいくかもしれない。

エンターテイメント業界にも大きな爪痕を残した2020年のパンデミック。このまま映画館から足が遠のき家でオンデマンドや配信サービスで満足する人。たとえマスク着用でも、従来のように映画は映画館で楽しみたい思う人。コマーシャルを含め今までどおりニュース番組などもあるテレビがやっぱり落ち着くと感じる人...など。

徐々に日常が戻りつつあるが、それまで私たちが当たり前に思っていたエンターテイメントの形は、どこかしら未来永劫に変わるのかもしれない。「ニューノーマル(新たな日常)」がどうなっているか。数年後、数十年後に自らの目で確かめてみたい。

(文/Erina Austen)

Photo:All Studios Everythingより©ART404 2020/テッド・サランドス©Netflix/米ロサンゼルス・ウエストハリウッドにあるNetflix本社©Netflix/『トロールズ ミュージック★パワー』/ニューヨーク市内の写真(2020年3月21日撮影)©NYKC/レニー・ゼルウィガー、ホアキン・フェニックス、ブラッド・ピット©NYZ20/Famous