歴史小説家バーナード・コーンウェル原作の「The Saxon Stories(原題・日本では未訳)」を映像化した歴史ドラマ『ラスト・キングダム』が面白い。このドラマは、9世紀のイングランドを舞台に、サクソン人ながらデーン人として育った主人公ウートレッドの紆余曲折な運命、そしてウェセックス王国とヴァイキングの戦いを描いたものだ。当初は英BBCで製作・放送されていたが、シリーズ3からNetflixに移り、Netflixオリジナルドラマとしてシリーズ4まで製作・配信されている。
迫力ある戦闘シーンや男気溢れるブロマンス、そして独特の世界観が『ゲーム・オブ・スローンズ(以下『GOT』)』を彷彿とさせ、ウートレッド(アレクサンダー・ドレイマン)がジョン・スノウ(キット・ハリントン)と大変似ていることもあり、「『GOT』好きがはまるドラマ」として、じわじわと人気を集めている。そこで今回は、ウートレッドとジョン・スノウを比較しながら、『ラスト・キングダム』の面白さの秘密を探ってみよう。
まずは、『ラスト・キングダム』の時代背景を簡単に説明したい。現在のイングランドにあたるグレートブリテン島南部には、5世紀頃からアングロ・サクソン人が定住し、ノーサンブリア、マーシア、イースト・アングリア、ウェセックス、ケント、エセックス、サセックスという七つの王国が覇権を競っていた。この頃は七王国時代と呼ばれる。ここで、『GOT』の舞台がウェスタロス大陸の七王国だったのを思い出す人も多いだろう。
やがて、8世紀末頃に新たな敵、ヴァイキングのデーン人がやってくる。デーン人による度々の侵攻に七王国は次々と倒れ、残るウェセックス王国のアルフレッド王は、デーン人と和平条約を結んだり戦争をしながら、イングランド統一を目指す。
ジョン・スノウ対ウートレッド
それでは、ふたりのキャラクターを比べてみよう。
◆育った環境
ジョン・スノウは、北部の貴族スターク家にて、ウィンターフェル城主・北部総督であるエダードの私生児として育てられ、冥夜の守人(ナイツウォッチ)に参加。その後ナイツウォッチの総督、北の王になる。正義と名誉を重んじ誠実だが、頑固で融通が利かない一面もある。
ウートレッドは、ノーサンブリア王国北部にあるベバンバーグのエアルドルマン(太守)の子に生まれ、幼い頃デーン人の襲撃で父親が殺されて奴隷になるが、勇敢さを見込まれてデーン人の養子として育てられる。内紛で養父が殺されデーン人から追われる身になると、ウェセックス王国のアルフレッド王のもとに身を寄せる。自分はサクソン人なのかデーン人なのかというアイデンティティに悩みながらも祖国のために戦うが、自信過剰で傲慢なあまり、周りの意見を聞かずに暴走するところもある。
このふたり、本当は高貴な身分なのに複雑な環境で育ち、その不遇にもめげず、強く逞しく成長するというところがそっくり。ふたりともイケメンで、風貌や雰囲気も似ている。
◆しょっちゅう戦いをしている
ジョン・スノウは、ホワイト・ウォーカーとの戦い、落とし子の戦い、ドラゴンを率いての死者の軍団との戦いなど、どんな敵に対しても最前線で軍を率いて戦う。
ウートレッドも百戦錬磨の強者で、果敢に戦うウォリアー(戦士)である。『GOT』と異なり、戦う相手は常に人間だが、この時代の戦争は銃や大砲などはなく、弓や斧、剣を使った肉弾戦なので、戦争シーンは残虐で血生臭い。ヴァイキングは勇敢に戦って死ぬと神の国アスガルドにあるヴァルハラ宮殿(北欧神話の天国)に行けると信じていたため、死を厭わぬ戦いをすることで知られるが、デーン人に育てられたウートレッドも同様の戦い方をし、ヴァイキングの戦術も熟知し、作戦能力も高いとあって、強敵をどんどん倒していく。
◆男たちから慕われている
ジョン・スノウはナイツウォッチの仲間や野人、北部の諸侯から支持を得ており、サムウェル・ターリーやトアマンドらと固い友情で結ばれる。彼自身は出世欲がないが、自分の意思に関わらず、周囲の力によって総督や王に選ばれる。
ウートレッドは、生まれながらのリーダーであり、自身も太守になる野望を持つ。抜群の統率力とカリスマ性があるので、絶対的な忠誠を誓った男たちがどんどん彼についてくる。アイルランド出身の戦士フィナンとデーン人の戦士シトリックは、ウートレッドのためなら、火の中水の中でも共に戦うという心強い仲間だ。無鉄砲なウートレッドを導く父親的存在なのがベオッカ神父。聖職者ながら斧を持って戦に参加する。また、アルフレッド王も密かにウートレッドを頼りにしている。アルフレッドは王という立場と信仰心からウートレッドに厳しい態度を取るが、ふたりは反発しあいながらも見えない絆で結ばれており、イングランド統一という理想を掲げて共に戦う。
◆出会いがあっても悲惨な運命をたどる
ジョン・スノウは恋愛経験が少ない。ナイツウォッチに参加するまで女性との性体験はなし。野人のイグリットと恋に落ちるが、ナイツウォッチの義務との狭間で悩み、結局イグリットと死別。デナーリスと出会って幸せを見つけたと思いきや、ふたりの出自に関わる真実が発覚する。女性に慣れていないせいか、恋愛に関して優柔不断な面もある。
一方のウートレッドは、恋多き男。好きな女性には積極的に攻め、女性の扱いも上手い。次に何をするかわからない予測不能な危なっかしさに女性本能がくすぐられるのか、女性関係が途切れることがないほどのモテぶりだ。しかし彼の幸せは長続きしない。シリーズ4までに6人の女性が関わるが、そのうちの3人が死亡。結婚は2回とも悲劇に終わっている。ウートレッドが愛した女性は不幸になるという法則でもあるのかというくらいの悲惨さだ。はたして彼は幸せになれるのか見守りたい。
このようにジョン・スノウとウートレッドは何かと共通点が多い。さらに、『GOT』ほど登場人物は多くないものの各キャラが魅力的であり、導入は少々スローだが回を追うごとにテンポも良くなり、一度見始めたら止まらなくなるほどのスリル溢れる展開になっているのが『ラスト・キングダム』の面白さである。
『ゲーム・オブ・スローンズ』好きなら必ずはまるという説の理由がこれでおわかりだろう。歴史上の史実とフィクションを融合し、9世紀イングランドの世界観を壮大なスケールで描いた『ラスト・キングダム』、ぜひ一度見ていただきたいシリーズだ。
『ラスト・キングダム』シーズン1~4はNetflixにて配信中。シーズン5の製作も決定している。
(文/Yoshie Natori)
Photo:『ラスト・キングダム』 (C)Kata Vermes/Joe Alblas/ Adrienn Szabo/ 『ゲーム・オブ・スローンズ』(C) 2016 Home Box Office, Inc.