FBIをクビになり、ニューヨーク市警で働くことになったプロファイラーのマルコム・ブライト。犯罪者の心理が手に取るように分かり、優秀だがどこか陰のある彼の秘密は、"外科医"と呼ばれた悪名高いシリアルキラー、マーティン・ホイットリーを父に持つことだった...。凶悪犯罪に立ち向かうプロファイラーの活躍と、彼の家族を取り巻く異様な状況を緊張感たっぷりに描く異色のクライムスリラー『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』が、11月10日(火)よりWOWOWプライムにて日本初放送。2019年9月に米FOXで放送されると、開始2週間でフルシーズン製作が決まり、シーズン2へも更新された話題作だ。豪華キャスト共演の本作で主人公マルコムを演じるのは、『ウォーキング・デッド』のポール・"ジーザス"・ロビア役で知られるトム・ペイン。彼を直撃し、本作の魅力や『ウォーキング・デッド』で学んだことを語ってもらった。
――精神的に不安定なマルコムは時々凶行に走ることがありますが、その時の表情が父親役のマイケル・シーン(『グッド・オーメンズ』『グッド・ファイト』)の演技と重なる部分がありました。どこか意識した点はありますか?
シーズン1は全20話と大量の撮影だったからスケジュール的に厳しく、マイケルと事前に打ち合わせをすることはできなかったけど、実際に共演を重ねるようになってから、どこか瞬間的に似せた方がいいと思うようになった。何よりも、マルコムとは何者で、父親とどこまで似ているかがこのドラマの軸だからね。なので父の影が感じられ、そんな自分に驚く瞬間を見せるのが僕自身面白いと思ったし、脚本チームも次第にそういう場面を描いてくれるようになって、マルコムがちょっと目を見開いたり、普通の人ならしないようなリアクションをするといった描写がある。効果的な描写であり、演じていても面白い。本当はもっと掘り下げたいけど、最終的にマルコムがどうなっていくのかは見ものだね。
――第1話で連続殺人鬼の父親がマルコムに「我々は同じだ」と言いますが、この意味をあなた自身はどう捉えていますか?
その言葉こそがマルコムを描く軸であり、彼の抱える最大の恐怖でもある。具体的な暗示はないとしても、マルコムは自分がどこかで豹変し、父のようにならないとも限らないと身構えているんだ。そもそも父親が殺人者としての性向を見せ始めたのが何歳の時かも分からないし、父親に「我々は同じだ」と言われると、マルコムの中で何かの引き金が引かれる。もちろん、父親が人を操ることに長けていることもちゃんと分かっている。シーズン1ではある箱の中身が重要なストーリーラインになるわけだけど、その謎の断片がシーズンの中でたびたび明かされたり、マルコムの記憶の断片が呼び覚まされたりするんだ。
僕自身、10歳以前のことはあまり覚えていないけど、親が覚えていたりする。これはみんなも一緒だと思う。自分が葬った記憶の中に何か恐ろしい種があり、かつそれを自分以外の誰かが知っていたら気になるものだ。
――"現代版のハンニバル・レクター"とも言える知的な連続殺人鬼のマーティンを演じるマイケルとの共演は? 初めて共演したシーンで彼を目の前にしていかがでした?
素晴らしかった。FOXのTVシリーズで主役をもらえたことや、素晴らしいスタッフと一緒に仕事できることが嬉しかったのは言うまでもないけど、一番嬉しかったのはマイケル・シーンと共演できることだったんだ。知らせを聞いた時はリビングルームの中で飛び跳ねたよ。素晴らしい共演相手と感情をぶつけ合うことができるなんて役者としてこれ以上望むことはないわけで、ましてや共演相手がマイケル・シーンだったというのは、この上なくラッキーなことだった。密室で二人っきりになるシーンなど、特に第1話の撮影はワクワクしたね。
あの独房へ向かう廊下を歩くと、自分の中でテンションが変わっていく。独房へ入ると、鎖に繋がれたマーティンがいて、一定以上の距離を動くことができないようになっているが、こちらがその「(鎖が届かない安全圏を示す)境界線」を踏み越えると、部屋の中のエネルギーがガラリと変わる。俳優としては、この「境界線」をうまく使い、掴み合いをしたりするなど、身体や言葉を使ってあれこれ工夫できる。演技がどこへ向かうのか分からないまま走るのが楽しいんだ。
マイケルみたいな名優が相手だと、安心して取り組める。名優なら支離滅裂なことはしないから。お互いがそこで描かれている世界を生き、きちんと演技を乗せればとても面白いことになる。マイケルとこれだけ贅沢な共演ができるのは幸運なことだよ。
――この作品の、ほかとは違う魅力とは?
このシリーズがほかとどう差別化できているかについて話すと、登場人物それぞれに歴史があり、人間関係がある面白さと、名優マイケル・シーンが演じるシリアルキラーに不思議な魅力があるところが際立っていると思う。視聴者を集めたテストスクリーニングでは、マーティンが虐げられるシーンが不評だった。どういうわけか視聴者は彼が傷つくのを観たくないようで、連続殺人者を応援したくなるという摩訶不思議なことになっている。当然ながら本編には凶悪な殺人シーンも散りばめられているのだけど、どこか笑える要素もある。マーティンはしょっちゅうユーモアを武器にする。マルコムと同じチームで働くイドリサとの関係も面白いし、ベラミー・ヤング(『スキャンダル 託された秘密』)演じる母ジェシカも本当に大胆なキャラクターだから面白い。だから、落ち込まずに楽しく見ることできるシリーズになっている。視聴者の皆さんには没入できるエンターテイメントを贈るべきなのだと思う。
これは『ウォーキング・デッド』で学んだことなのだけど、見た人たちの間で話題になり、繋がりが広がるようなシリーズがいい。『プロディガル・サン』でも、「昨夜のエピソード見た!?」と人が話題にするようなものを目指したい。人々を楽しませ、その世界に引き込むことができれば、感情も自然とついてくる。このシリーズでもそういうことを意識して、独特の世界観を作ろうとしているよ。
――マルコムとご自身に共通点はありますか?
どんな役柄を演じていても自分との共通点は出てくるもので、自分の中にある一面を引き出してそれをいささか大袈裟に演じることができる楽しさがある。僕は、周りとの関係の中で垣間見えるマルコムの遊び心が好きだ。彼には真心もある。また、マルコムの父親への思いを演じるにあたり、自分の親に対する感情を活かすことがある。親に対するわだかまりは誰しもが持っているものだと思うけど、どんなに自分の父親のことを理解しようとしても完全にはできないもどかしさを、僕はマルコムとマーティンの関係に持ち込んでいて、あれこれ問い詰めたいけれど同時に「お父さん」でいてほしいという自分自身の父親に対する相反する気持ちを活かしている。僕の父はシリアルキラーではないけどね(笑) 少なくとも僕の知る限りでは...。
妹のエインズリーを演じるハルストン・セイジ(『宇宙探査艦オーヴィル』)とも本当の兄妹のような仲で、それがそのまま撮影に生きてくる。こういう巡り合わせは運もあるけれど、今回はとてもラッキーだった。フランク・ハーツ(『THE PATH/ザ・パス』)演じるJTやオーロラ・ペリノー(『ボクらを見る目』)演じるダニとマルコムとが交わす冗談も好きだね。
――銃やキックを使ったアクションは『ウォーキング・デッド』でもありましたが、本作で難しかったアクションシーンがあれば教えてください。
『プロディガル・サン』は僕が想像していた以上にアクションの多いシリーズだ。『ウォーキング・デッド』ではマーシャルアーツをやったりして楽しかったけど、本作のマルコムは、身体は引き締まっているにしても、毎日マーシャルアーツをやっているような役柄ではない。でも、窓を突き破って飛び降りることはあった! 特に難しかったのが、リグ(バランスを取るための装置)を装着してのアクションシーンかな。スタントダブルを起用してのシーンもあった。
『ウォーキング・デッド』では、「はい、乱闘が始まるよー」の一声で(リック役の)アンドリュー・リンカーンがすぐさま群衆の中へ飛び込んでアクションが始まるという具合だったから驚いたし、初めて出演した時、「え、スタントマン使わないの?」とびっくりしたことがあった。でも『プロディガル・サン』では自分でできそうなアクションもやらせてもらえなかった。ただ、ひっきりなしに撮影しているし、僕がケガをしたら撮影スケジュールが大変なことになるので、僕としてはその方がありがたい。出演シーンは『ウォーキング・デッド』のアンドリューよりも多いかもしれない(笑) 可能な限り自分でできることはやるようにしたいけどね。
僕としては、アクションよりも感情的になるシーンの方が難しかった。泣いたり、叫んだり、大声をあげたり、笑ったりと、いろいろなシーンがあって、すごくエネルギーを使うんだ。毎週マラソンを走っているような気分だったよ。
――TVシリーズに主演するのはこれが初めてですが、『ウォーキング・デッド』で主演していたアンドリュー・リンカーンをお手本にされたそうですね。 彼から具体的にどんなことを学んだのか教えてもらえますか?
僕は映画の主役を演じたことはあったけど、長く続くTVシリーズとは勝手が違う。アンドリューとは前にも共演したことがあるので昔から知り合いなのだけど、素晴らしい人だ。『ウォーキング・デッド』のアンドリューは、ゲスト出演する俳優に「ウェルカム!」などと歓迎の言葉をかけていたし、自分の出番がなくても、ゲストを務めるキャストや監督の初日には必ず顔を出していた。シリーズを背負う主役がそういう態度を見せてくれるとキャストやスタッフの士気がぐんと上がる。僕は幸いにも、態度の酷い主役を抱えたものに出演したことはないけど、いろいろな話を耳にしたことはある。そういうのは現場にいるみんなが辛いと思う。『ウォーキング・デッド』には家族のような雰囲気があって、みんなが楽しそうに取り組んでいたけど、それはトップに立つ人たちがそういう雰囲気を作ってくれたからだ。
僕はこの仕事が好きだし、楽しい雰囲気の現場が好きだ。だから自分が先頭を切ってそのような雰囲気作りができる立場にいられるのはとてもラッキーなことだと思っているし、みんなも口々に感謝の言葉をかけてくれる。気難しかったり、人にきつく当たったりする俳優の話を聞くと、"だったらやらなければいいのに"と思うよ。人生は短いのだから、この幸運に感謝した方がいいに決まっている。そういう意味でアンドリューは素晴らしかったし、同じ『ウォーキング・デッド』シリーズでいえば、(サシャ役の)ソネクア・マーティン=グリーンも現在『スター・トレック:ディスカバリー』で主役を張っていて、アンドリューに見習っているようだ。誰よりも働いている主役がお手本を示せば、悪い態度を許さない雰囲気になる。逆に主役の態度が悪いと、みんなの態度も悪くなるという話をたびたび聞く。『プロディガル・サン』ではそういうことは避けたいと思っているよ。
――犯罪プロファイラーとシリアルキラーを題材にした犯罪ドラマは常に人気の高いジャンルです。そんな中、本作が人気を獲得できた理由はどこにあると思われますか?
シリアルキラーをフィーチャーするシリーズはたくさんあれど、その家族背景まで見せてくれるものは少ない。シリアルキラーの家族についてじっくり考えることはあまりないけど、そこが本作のフックとなった。父や母とのわだかまりや、両親の離婚など、家族の問題は誰だって抱えているから、共感しやすい。とあるエピソードで、独房の中で両親と長男の3人が集まるシーンがあるのだけど、マルコムは両親が顔を合わせるのを見るのが随分久しぶりだったりする。そういう複雑な家族関係が描かれていて、視聴者は引き込まれる。連続殺人犯であるマーティンが、それでも父親らしく振る舞おうとするところなんて、とても面白いよ。
それにこの作品にはユーモアがふんだんに散りばめられている。ドタバタ的なところもあるし、犯罪シーンもバラエティに富んでいて飽きない。マルコムのみんなとの関係もそれぞれに特徴があって面白い。絶妙なバランスが成立しているシリーズで、見ていて楽しく、繰り返し見たくなる。そもそもシリアルキラーと1時間をともに過ごして"楽しい"と思ってもらえたのなら、その時点でショーとして成功と言えるだろう。
――印象的だった舞台裏のエピソードを教えてください。
キャストのみんなとの関係は、まったく同じとは言えないまでも、シリーズの中で繰り広げられる人間関係とどことなく似ているんだ。ただ、オーロラ演じるダニはマルコムに相当キツく当たるけれど、オーロラ自身はそんな人ではない。一方(ギル役の)ルー・ダイアモンド・フィリップス(『戦火の勇気』)は、(捜査チームのリーダーという)役の通り、現場でも父親的な存在で、みんなで彼の家に集まってディナーをしたりするんだ。ドラマの中ではルーと僕は上司と部下の関係だけど、そもそも彼を先輩俳優として尊敬しているので、それがそのまま役に反映されている。ルーは何でもジョークの種にできる人で、突然ベタなダジャレを言ったりするから現場の雰囲気は明るいね。
1シーズンで20話も撮るとなると、頭が混乱してきて、まるで一つのエピソードを延々と撮っている感じになるので、それこそ自粛生活のような感じなんだ。だから舞台裏の具体的なエピソードは思いつかないな。とにかく毎日が驚きや楽しいの連続だった。マイケルとの共演も楽しかったね。こういう重たいシリーズはあえて楽しい現場にしないといけない。
そうだ、一つ大変だったエピソードを思い出した! 僕が血のりにべったり染まるシーンがあるのだけど、血のりには砂糖が含まれているので、乾くと固まるんだ。だから休憩を挟んで撮影を再開した頃には、衣装に張りついた血のりが一枚板のようになっているから、それをバキバキ割って、霧吹きで吹かなければならない。すごくやりにくかった。見た目には良かったけど。
これからは現場で面白いことがあったら、こういうところで語れるようにちゃんとメモしておかないとね(笑)
――第1話の冒頭でマルコムに説得された犯人が銃を下ろして彼と話をしようとした瞬間、現場に駆けつけた保安官に撃たれますが、マルコムは犯人を撃った保安官を責めます。彼はたとえ殺人犯でも救ってあげたい気持ちが強いのでしょうか? それとも父親のような殺人犯の気持ちを少しでも理解したいという思いゆえなのでしょうか?
マルコムは、"人は生まれながらにして悪人なわけではない"と思いたいのだろうね。そう考えることで自分が救われる。あのシーンでマルコムは「人殺しは生まれながらにして壊れた人間なのではなく、誰かに壊されるんだ」と言うけど、それは自分の父親についても、"後天的に何かがあって、あのようになった"と思いたいからだろう。マルコムが連続殺人犯のプロファイラーを務めているのは、殺人者の根本に迫りたいからであり、それは父親を、ひいては自分を理解する手がかりになるからだと思う。
あのセリフはマルコムについて多くを語っている。犯人を撃ったことに対する怒りゆえに相手の保安官に殴りかかってFBIから追い出されてしまうわけだけど、それは連続殺人犯に対して共鳴するものがあるからだろう。同じように視聴者もまたマーティンに惹かれるわけだけど、それは心の奥底で人は生まれながらにして悪人なわけではなく、何か外的な要因があってそうなると信じたいからなのだと思う。僕もそう信じているかな。
本作の役作りのために"ハッピー・フェイス・キラー"という異名を持つ連続殺人犯のことをフィーチャーしているポッドキャストを聴いたのだけど、その中ではこの犯人が幼少の頃に父親から受けた虐待について語られていた。僕が演じるマルコムが抱える一番の痛みは、「父親には父親らしくいてほしい」という願いなのだと思う。彼は、父親が殺人鬼であるという事実を受け入れられないでいる。だから父親を悪人にした外的要因を突き止めたくて、贖罪を求めているんだ。
■『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』(全20話)放送情報
WOWOWプライムにて11月10日(火)スタート(第1話無料放送)
[二]毎週火曜 23:00~
[字]毎週水曜 22:00~
Photo:
『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』
© Warner Bros. Entertainment Inc.
『ウォーキング・デッド』
©Gene Page/AMC