YouTube PremiumからNetflixへとプラットフォームを移行し、2020年8月に配信されるや否や、大人気ドラマ『LUCIFER/ルシファー』を抜いて一気に視聴率トップに躍り出た話題のアクションドラマ『コブラ会』。映画『ベスト・キッド』シリーズ(1984~89)の30年後を描く続編として描かれ、現在シーズン3も好調だが、果たして中高年のノスタルジーだけで、ここまでの盛り上がりを見せただろうか? かくいう筆者もバリバリのド真ん中世代、過ぎし日の思い出とともにどっぷりハマっている口ではあるが、ここは一つ冷静に、ヒットの要因を探ってみたい。(※『コブラ会』シーズン3のネタバレを含みますのでご注意ください)
目次
『コブラ会』あらすじ
高校時代、地元の空手選手権で、ダニエル(ラルフ・マッチオ)に屈辱的な敗北を喫したジョニー(ウィリアム・ザブカ)。あれから30年、中年になった彼は、定職にもつかず、家族にも見捨てられ、酒浸りの毎日を送っていた。そんなある日、隣に住むいじめられっ子の少年から格闘技術を伝授してほしいと懇願され、ジョニーはかつて所属していた空手道場"コブラ会"を復活させる。
昔のような「情け無用」のやり方を改善し、自分なりに正しい空手道を教えようと努力するが、ジュニア世代の弟子たちが様々な問題に直面し、なかなかうまくいかない。一方、カーディーラーの社長として成功を収めたダニエルは、コブラ会復活に恐れを感じ、平和な秩序を壊されまいと自身も昔学んだ"ミヤギ道場"を復活させる。そんな矢先に、コブラ会の元鬼コーチ・クリース(マーティン・コーヴ)が再び姿を現し、空手の流儀をめぐる三つ巴の戦いが勃発するのだ。
世代を超えて愛される4つの理由
1.コブラ会の負け犬ジョニーにフォーカスした意外性
『コブラ会』というドラマが始まると聞いて、「え? まさか!」と驚いたコアなファンも多かったと思うが、負けたジョニーのその後の人生にスポットを当てるという超意外性が、なんとも言えない磁力を持っていた。通常は『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』のような主役の前・後日譚、あるいは『SHERLOCK シャーロック』のような完全オリジナル化で勝負してくる作品が大半を占めるが、安易に焼き直しなどせず、敗者、それも最低の負け方(コーチの命令で怪我をしたダニエルの足を攻めるも、一発のキック<伝説の鶴の技>で逆転負け)をしたクズ男の"人生再生物語"にフォーカスしたところが、まずはオールドファンが大いに興味を持った要因ではないだろうか。
ただし、それは入り口だけ。ジョニーの人生再生をきっかけに、かつてのライバル、仲間、コーチ、ガールフレンド、そして新たな弟子たちが次々と加勢し、物語がいろんな方向へと転がっていくのだが、単なるノスタルジーで終わらない"新たな世界観"をしっかり構築できているところが、映画を知らない若者層も取り込んで、新シーズンの更新に大きく貢献していると言えるだろう。
2.主要メンバー全員が揃った奇跡のキャスティング
実はこれが1番の成功要因かもしれないが、2005年に亡くなったノリユキ・パット・モリタ氏(ミヤギ先生役)以外の主要メンバーがほぼ全員集結するという奇跡! 壮大なる同窓会とも言えるのだが、全員とてもいい歳の重ね方をしており、男性陣は渋く、女性陣はより美しく、ファンの期待を裏切らない姿で登場してくれているのが、なんともうれしい。
特に映画のパート1でジョニーとダニエルの狭間で揺れ動いたマドンナ、アリ役のエリザベス・シュー(『The Boys/ザ・ボーイズ』)、パート2の沖縄旅行でダニエルと愛を育んだクミコ役のタムリン・トミタ(『グッド・ドクター 名医の条件』)は、30年の時を刻んだ現在の方が女性として、人間として、より魅力を増している。
■ジョニー・ローレンス(ウィリアム・ザブカ/55歳)
邪悪な空手道場「コブラ会」のエースだったが、ダニエルに負けて破門に。今、改めて思うが、こうして見るとなかなかのイケメンだった
人生再生を誓うが不器用すぎてうまくいかないダメ男。そんな役はともかく中年になったウィリアム、渋さが増して、また違った魅力が溢れ出している
■ダニエル・ラルーソー(ラルフ・マッチオ/59歳)
ひ弱な少年だったダニエルが、「コブラ会」のエース、ジョニーに打ち勝ちヒーローに。"ブラッドパック"(1980年代ハリウッドでは青春映画ブームが起こり、それらの作品に出演した若手俳優たちにつけられたあだ名)の一人として、当時の人気は凄まじかった
実業家として成功し、良き妻と二人の子どもに恵まれ順風満帆だったが、ジョニーの出現で大混乱! ラルフ本人は少年の可愛らしさを残しながらも素敵なオジ様に
■ジョン・クリース(マーティン・コーヴ/74歳)
情け無用の「コブラ会」を牽引する鬼コーチ。勝つためなら手段を選ばない"悪"を全面に押し出したツラ構えがなんとも憎々しい
「コブラ会」を真っ当な空手道場に再建しようとするジョニーのもとに突然現れ、挙げ句の果てには乗っ取ってしまう。今回、彼が悪に走った戦争体験も描かれる
■アリ・ミルズ(エリザベス・シュー/57歳)
ジョニーに愛想を尽かし、誠実なダニエルに惹かれていくヒロイン。エリザベスは本作出演後、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなどで人気スターに
フェイスブックをきっかけに30年ぶりにジョニーと再会。焼けぼっくいに火が着きそうになるが...。さらに美しさを増したエリザベスに拍手
■クミコ(タムリン・トミタ/55歳)
パート2に登場。ミヤギ先生の故郷・沖縄のトミ村でダニエルと出会い、恋に落ちる女の子。なんとも表現しにくい髪型が(?)印象的だった
ビジネスで30年ぶりに日本の地を訪れたダニエルと沖縄で再会。すっかり大人になり、洗練されたタムリンに驚きを隠せない! ※宿敵チョウゼン役のユウジ・オクモトも登場するのでお楽しみに
3.ミヤギ先生も復活!若き日の名場面を贅沢に盛り込んだサービス精神
ドラマシリーズの根幹を成す脚本にも注目していただきたい。多少カオスになる部分もあるが(そこはご愛嬌)、あくまでもベースは映画シリーズ。過去と現在が融合し、子どもの教育問題や多様化する差別問題など現代的なテーマを上手に取り込んでいるところも本ドラマの魅力ではないだろうか。また、それに付随して、懐かしい映画の名シーンもふんだんに盛り込まれているので、オールドファンは、懐かしさと新しさが頭の中でシャッフルし、事あるごとに涙ぐんでしまう(これは筆者だけかもしれないが)という現象も起こったりする。
例えば、"鶴の技"で撃沈したパート1ラストの対決シーンを思い浮かべながら、負け犬というトラウマに苦しめられるジョニーの心理描写。あるいは、ミヤギ先生と過ごした修行の日々を回想し、進むべき道を模索するダニエルの葛藤。ジョニーとダニエルがアリを奪い合う海岸での"カセットデッキ破壊事件"も今ではいい思い出だが、当時の自分たちの幼い行動を笑い合う大人のジョニーとアリの姿になんだかほっこりしたりする...。
中でも感動的だったのは、シーズン3でダニエルが沖縄を再び訪れるシーン。30年ぶりにクミコ、そして当時の宿敵チョウゼンに再会し、そこで今まで知らなかったミヤギ先生の新たな一面をダニエルは目の当たりにするのだが、その時流した涙は、ファンにとっては忘れられない新たな名シーンになっている。
ラルフがあるインタビューで、「製作者の3人(ジョン・ハーウィッツ、ジョッシュ・ヒールド、ヘイデン・シュロスバーグ)が『ベスト・キッド』の大ファンで、僕よりも映画のことを熟知している。作品に対してとても敬意を払ってくれているんだ」と語っていたが、まさにこのドラマシリーズは、その溢れんばかりの映画愛でできているといっても過言ではないだろう。
4.ジュニア世代の活躍が映画を知らない若者世代にもアピール
かつてのダニエル、ジョニー、アリらが青春を謳歌した大らかな1980年代前半から、舞台は2010後半~2020年代へ。人種の違いや貧富の差だけでなく、様々なマイノリティーに対しても敏感になり、校内暴力に対してもいっそう厳しさを増す現代。そんな中、変わらないのが十代特有の"ライバル心"だが、その危険な精神が命に関わる大事件を巻き起こしてしまう。改めて"空手"を教える難しさに直面するジョニーとダニエル。ただでさえもつれやすい恋や友情に、殴る蹴るの"戦い"が加勢するとどうなるか。まさにカオス状態の中で、本当に学んでほしい"空手道"がこのドラマによって導き出される。
それを体現してくれるのが、次期スター候補の若手俳優たちだ。ジョニーを師と仰ぐミゲル役のショロ・マリデュエナ(『ペアレントフッド』)、ジョニーの息子でありながらダニエルに師事するロビー役のタナー・ブキャナン(『サバイバー:宿命の大統領』)、さらに、ダニエルの娘でミゲルとロビーの恋の板挟みになるサム役のメアリー・マウサー(『ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言』)らが若さ溢れる熱演を魅せてくれる。
シーズン4の製作もすでに決定し、『ベスト・キッド4』(1994)で主人公ジュリーを演じたヒラリー・スワンク(『ボーイズ・ドント・クライ』『ミリオンダラー・ベイビー』で2度オスカー主演女優賞受賞)の出演も噂されているが、筆者は本シリーズがこの先も延々と続き、彼らとともに老後を過ごしたい気分である。それくらい、このドラマにハマりまくっている。
(文/坂田正樹)
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Photo:
Netflix『コブラ会』/『ベスト・キッド』© Mary Evans/amanaimages/© Everett Collection/amanaimages