海外ドラマの第1話がパイロットと呼ばれる理由とは?デヴィッド・リンチのあの映画もパイロットだった

海外ドラマのファンならば一度は耳にしたことがあるであろう“パイロット(pilot)”という言葉。海外ドラマの第1話を指す際などに使われるが、なぜパイロットと呼ばれるのか? その理由から歴史まで、パイロットにまつわる逸話をご紹介しよう。

パイロットとは?

しばしば新作テレビシリーズの第1話を指すパイロット。しかし、通常の尺よりも長い拡大版のことを示すこともあり、時にはTV映画のような形をとることも。特に1970年代や1980年代にはこうしたタイプのパイロットが多く見られた。

例外的にパイロット制作前にシリーズ化が決まる場合もあるが、ほとんどの番組は放送局やプロデューサーがシリーズの方向性を見極めるためにパイロット版が制作される。パイロットが作られたからといってその番組が日の目を見ると保証されるわけではないが、番組が実現可能かどうかを見極めるスクリーンテスト的な役割を持つパイロット版なしには企画が動き出さないのだ。

なぜパイロットと呼ばれるのか?

多くの人がパイロットと聞いて、まず初めに思い浮かべるのは飛行機の操縦士のはず。どうやら由来も空の世界にあるようだ。番組が放送されること、電波に乗ることを“オンエア”というが、初めて番組を流れに乗せる、つまりオンエアさせることから第1話がパイロットと呼ばれるようになったそう。

飛行機の操縦士のように、シリーズを導き、作品のトーン、キャラクター、そのほかの重要な要素を確立するパイロット版が果たすべき役割は、洗練された完成形を見せることではなく、試行錯誤を盛り込んだ長期的な展開の詳細なプレゼンテーションを披露すること。時にエピソードを入れ替えたり、キャストを変更したりと、本格的に始動する前の調整が行われる場なのだ。

パイロット版の種類とは?

パイロットの中には“バックドア・パイロット”と呼ばれるものも存在する。これはある程度人気のある既存作品のスピンオフを作る前に、新しいキャラクター(大抵は本家シリーズにおけるメインキャラクターの家族や友人)を本家にお試しで登場させて紹介すること。とりわけ『CSI』『NCIS』はフランチャイズ作品でこの手法を用いている。

CSI:科学捜査班

パイロットがシリーズの第1話として採用されるとは限らない

すべてのパイロットがそのまま新作シリーズの第1話として落ち着くわけではなく、中には特殊な例も。例えば、米ABCにて1974年から1984年にかけて放送されたコメディドラマ『ハッピーデイズ』の主人公リッチー・カニンガム(ロン・ハワード)たちが初めて紹介されたのは、同作のパイロットではなくアンソロジーシリーズ『Love, American Style(原題)』(1969~1974年)の中の1972年に放送されたエピソード。これは失敗に終わったまったく別の番組『New Family in Town(原題)』のためのパイロットとしてもともと制作されたが、『ハッピーデイズ』の幕開けとして再利用された。

また、1966年にシリーズとして始まった『スター・トレック/宇宙大作戦』は、最初のパイロット「The Cage(原題)」が幹部にいい印象を与えられなかったため、2つ目のパイロット「Where No Man Has Gone Before(原題)」が制作されることに。最終的に「The Cage」は再編集されて「タロス星の幻怪人」前後編に盛り込まれ、「Where No Man~」も微妙に編集されたバージョンがシーズン1第3話として放送された。

マルホランド・ドライブ

パイロットが映画として劇場公開されることもある。故デヴィッド・リンチが遺した2001年の映画『マルホランド・ドライブ』ももともとはパイロットとして構想された作品をもとにしたもの。リンチは当初『ツイン・ピークス』のようなTVシリーズのパイロットとして提案するも、幹部に却下されたことから別のエンディングを撮影し、映画に仕上げて劇場公開することに。

ちなみに毎年1月は、アメリカの放送業界において“パイロットシーズン”と呼ばれる時期。制作陣は書き上げられたいくつもの脚本の中から選び、1話分のエピソードを制作してから、シーズン全体の制作を進めるかどうかを判断していく。1シーズンにあたり数百、場合によっては数千人の俳優が十数本のプロジェクトのオーディションを受けるが、その年の秋に実際に放送されるのはごく一部。今後どのようなパイロットが用意され、どんな作品が狭き門をかいくぐってお披露目されるのか楽しみだ。

(海外ドラマNAVI)

参考元:米Entertainment Weekly

Photo:『CSI:科学捜査班』©︎ 2002 CBS Studios Inc./『マルホランド・ドライブ』©︎ 2001 STUDIOCANAL. All Rights Reserved.