Apple TV+で配信中のゴジラ新作ドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』でVFXスーパーバイザーを務めたショーン・コンラッドに直撃インタビュー! 本作でのVFX製作の裏側や地震があるシーン、さらには日本で制作された過去のゴジラ映画についての想いを語ってもらった。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』ショーン・コンラッド インタビュー全文
――すでに2本の映画と本作に携わっていらっしゃいますが、ゴジラというキャラクターとの出会いはどのようなものでしたか? それから、こうした巨大怪獣たちが登場するシリーズに携わることや、独自の怪獣を生み出せることについてどう感じていますか?
小さい頃にゴジラの映画を観ました。アメリカ向けの吹替版か何かです。かなり後になってもう一度観るまで、実はよくわかりませんでした。ある時、ポン・ジュノ監督の『グエムル-漢江の怪物』を観て、怪獣映画やそのレガシーについて考えるようになり、その元をたどり始めました。
それで初代ゴジラや、近年のリマスター作品をもう一度鑑賞したんです。怪獣が実存的な恐怖や、その類のあらゆるもののメタファーになっていて、観るたびに素晴らしいと思いました。そうした作品に関わっていることを、いつも畏れ多く感じています。
2014年に『GODZILLA ゴジラ』に参加した時、大勢のほかのスタッフと一緒に放射熱線のビジュアルに携わりました。途中で仕事の進捗状況を確認しなければならないので、モニターを見るわけです。そこで「ああ、すごいレガシーに参加しているんだな」と感じましたし、新しいものを生み出すことに関われているのだと感じました。
私たちが手がけた恐ろしい怪獣たちが肯定的に受け入れられていることを本当にうれしく思っています。なにしろ、そこは常に仕事の中で圧倒的に大変な部分です。ただ、うまくいった時は特にそうですが、一番やりがいのある仕事でもありますね。
実は『ゴジラ-1.0』をまだ観ていないのですが、とても楽しみにしています。『シン・ゴジラ』は2010年代で最高の映画の一つだと思いました。そう、本当にこのフランチャイズが大好きなんです。
――VFXスーパーバイザーとしてシリーズに関わることになった経緯を教えてください。
私は長年、レジェンダリーの人たちと連絡を取っていました。それから、別のスタジオで働く私の友人が、このプロジェクトについて彼らと話をしていたんです。その友人が、この作品に必要な情報を収集していた担当者に私のことを伝えてくれました。私の方も、このフランチャイズに携わった経験があったので、非常に興味を持っていました。それで、クリス・ブラックとマット・フラクションに会ったのです。
私はマット・フラクションのコミックの大ファンでしたし、クリス・ブラックのクレジットを見た時は本当に興奮しましたね。この作品で何をしたいのか話し合い始めた時、この世界で私が本当に見たかったものと彼らが話していたことは、ほとんど同じでした。つまり、怪獣が登場人物の内面や恐怖を映し出す、人間中心のドラマを作りたいということです。
VFXが、意味を持つだけでなくスリリングかつアクションに満ちた形で視覚的なメタファーになるのは、珍しいことです。そのことに私は非常に興奮しました。そして幸い、すべてがうまくいきました。
――どのようにVFXを制作しているのか興味を持ちました。背景にはStageCraftのVolumeや、類似のテクノロジーを使っているのですか?
私たちはVolumeを使うことを検討しました。Volumeを使用した作品に携わったことがある人なら誰でもそう言うと思うのですが、きちんとするのにとても時間がかかるということです。私たちの撮影スケジュールや、あらゆることが一度に目まぐるしく起こったことを考えると、そこに時間をかけるのは単純に不可能でした。このテクノロジーは今後ぜひ使いたいと思っています。
一方で、リスクもあります。Volumeを使用した撮影がうまくいかなかった場合は差し替えが必要になり、2倍の費用がかかってしまうんです。それでは反感を買ってしまうでしょう。また、撮影が少し遅くなります。1台のカメラでしか撮影できないからです。
複数のエピソードで構成される作品のスケジュールでは2~3週間で一つのエピソードを撮影するので、必ずしもワークフローに最適ではありません。2週間のプリライティングなどが必要、といった場合は特にそうです。
とはいえ、いくつかのテクノロジーを使いました。例えばiPadで部屋をスキャンしておいて、「ポン!」とその部屋の中に怪獣を1匹貼り付けることができます。それを監督に見てもらって、「いいね、じゃあ大きさはそれぐらいで」とか、「まったく、これをどうやって画面に収めるつもりだ?」とかいうことになるわけです。アプローチを再考することができたとも言えますね。
――今回、新しい怪獣が出てきます。そのVFXの制作とプロセスについて教えていただけますか? どのような様子だったのですか。
本作のアクションシーンに関して私が本当に気に入っていたのは、エモーションにもとづいて場面を決定していった点です(実際にはその反対なのですが)。そのため、登場人物が経験しなければならないことや、彼らの経験がどうあるべきかを踏まえて、様々なシーンをデザインしました。
つまり、怪獣が巨大でなければならない時は巨大な怪獣を用意し、小さくなければならない時は小さな怪獣を用意しました。また、怪獣が人間たちの周りを動き回る必要がある時には、怪獣と人物がフレームに収まるようにしなければなりません。そうしながらでも、1体のクリーチャーだけではなく、非常に多くのクリーチャーを登場させることで、壮大で迫力あるものにすることができます。
デザインプロセスについては、基本的には脚本を読みます。脚本家がどうしたいのか明確なアイデアを持っている場合もあります。また、ほかの映画の映像を調べたりもします。私が気に入っていた方法の一つは、海底に生息する異様で不気味な生き物を調べることです。「ああ、これは本当にゾッとする。怪獣に取り入れよう」となります。
ほかにも、この作品にまつわる最高のエピソードの一つとして、マット・フラクションが自分の息子に怪獣の調査をさせたことが挙げられるでしょう。マットの息子はWikipediaを調べて見た目が不気味な生き物を探し、概要を250単語にまとめてマットに提出しました。
それを読んだマットは「ああ、いいね。不気味だ。これを何とかしよう」と言うんです。彼が見つけたものの一つがホシバナモグラだったのですが、この生物は地下の巣穴に棲んでいて目が見えず、顔から出ている突起状の器官で周囲の状況を読み取ります。これが予告編に登場する怪獣の一つになりました。作品の中で私が気に入っている怪獣の一つです。
それから、第1話の最初のシーンですが、あの怪獣はこのアクションシーンを撮影していた場所の地形を見て思いついたものでした。「いいロケ地が見つからなかったから、このシーンのために当初予定していたものはピンとこない。でも、こんなに素晴らしい現場があるじゃないか。カニを作ろう。地面から出てくる生き物で、顔はこの環境で見られる火山岩をベースにしよう」というわけです。
このように、撮影を行う環境や、私たちがそのシーンでしなければならないことなどが、デザインプロセスを動かしていました。
――第1話の中で、テクノロジーがいかに変わったかについて話しているシーンがあります。もちろん、4年前の暗号化技術は今と同じではありません。それはCGIや、現在のアニメーションの作り方、このような驚くほどリアルなクリーチャーを生み出す方法にも言えると思います。そこでお聞きしたいのですが、古いビジュアルや、昔の映画で使われていた従来の手作りのクリーチャーデザインにあったもので、今はなくなって寂しいと思うものはありますか?
もちろんあります。『ゴジラ-1.0』の本当に素晴らしいところの一つが、非常にたくさんのミニチュアモデルを用意したことです。実際にモデルを制作する必要がありますから、私としては、それだけのことをする時間と能力があったことをとてもうらやましく思います。それこそ、私がぜひやりたいことです。
コンピュータと現実に作成したものを組み合わせるアプローチが好きなので、そういう作品に参加できたら本当に最高でしょうね。実際、古いゴジラ映画で私が好きな点の一つが、あの素晴らしいミニチュア作品の数々なのです。『キングコング対ゴジラ』の冒頭だったと思うのですが、建設現場でたくさんの小さなミニチュアの建設車両が行き来していて、壮観です。そういうものが大好きなのです。
――クリーチャーやエフェクトの素晴らしいビジュアルを実現しつつ、視聴者が共感できるリアルなものにするための適切なバランスをどのように見つけるのか、教えてください。
私たちはやり取りのシーンやVFXの視点を、登場人物のところに置きたいと考えていました。つまり、カメラを低い位置に置くということです。ですから、巨大な怪獣が現れた時には、私たちは怪獣を見上げることになります。また、そうしたフレームワークの中でスケール感や様々な視点を表現する方法も模索しています。
一部ではドローンで撮影したショットなども採用していますが、まずは人間の視点からシーンが始まるので、それによって視聴者は地面の上に置かれ、VFXがより具体的でリアルなものに感じられます。ほかにもいろいろあります。例えば、自然の地形に注目します。広大で、埃っぽい環境にいるなら、怪獣も埃っぽくなければなりません。あらゆる要素を自然に感じられるように結びつけるための方法を考えることが大切です。
――本作のようなシリーズでは怪獣たちをとにかく巨大に見せる必要があると思いますが、スクリーンでその大きさを表現するのに苦労した点を教えてください。
大部分は撮影方法が鍵となります。撮影監督のジェス・ホールは、制作の早い段階で自身の担当する最初のパートに関して様々な手法を決めました。その代表例が、アナモルフィックなワイドショットで登場人物が巨大怪獣を見上げる姿をアップで撮り、その画面に怪獣の姿も収める、というものでした。それ以外には、ギャレス・エドワーズが手掛けた長編映画の手法も取り入れました。
基本的に怪獣は大きすぎて画面に入りきりません。そこで、フレーミングや構図を練って工夫します。実際に撮影した映像をつなげて背景を埋める段階では、まさにその長編映画で効果的に取り入れられていた手法を使い、ゴジラの鼻先から尻尾の先まで、100メートルを超える長さの空間を埋めます。雨や煙、ちょっとした爆発などを加えることで、スケール感が伝わり、映像に奥行きが出ます。動きも重要な要素です。巨大怪獣の動きは、そうは見えない時もありますが、実はとても速いので、それが伝わるようにするために動きを速くしつつ、その勢いが尻尾までなめらかにつながるよう表現する必要があります。そんな形で、過去の長編映画を参照して、その中から確実に役立つ手法を取り入れられたのはありがたかったですね。一方、最終的に小さな画面に収めるのも一苦労で、テレビ画面でも細かな点を映し出せるように配慮しなければなりませんでした。
――本作では怪獣だけでなく、多様な環境が出てきたことがとても良かったです。ジャングルや都会、海、それに北極圏のシーンもありました。これらの生き物をアクションと組み合わせる際に、合成するのが一番複雑で大変だったのはどれですか?
氷のクリーチャーのデザインプロセスは本当に複雑でした。私たちはデザインについて、確固としたアイデアを持っていましたから。ニュージーランドのVFX制作会社であるWetaの素晴らしいチームと協力しました。Wetaは映画界の象徴的な怪獣やクリーチャーに取り組んできた独自のレガシーを持っています。それで、アイデアとお気に入りのクリーチャーがあったのでシーンの中に置いてみたら、たいして怖くなかったのです。そこでデザインをやり直して、あれこれ変えることになりました。
それから、大手クリーチャーアニメ制作会社であるFramestoreのチームが、私たちのアイデアに命を吹き込む方法を考え出してくれました。本当に大変なプロセスでしたが、一度参加した以上は、ショットを完成させようと頑張るのみです。
例えば、この30メートルにもなる巨大なクリーチャーであれば、一歩踏み出すごとに雪を蹴散らす必要があります。その雪をパッと消える泡や砂のような感じにするのではなくて、雪が剝がれ落ちたがれきの塊のようなものにしたかったのです。
それから、多くのVFXと同じように、合成などがやりやすいように場面設定を夜にすることも多いですね。氷河での最初のシーン、カート・ラッセルとの氷河での撮影は、誰にとってもキャリアの中で最も寒い撮影の一つでした。それはさておき、真っ昼間の撮影で隠れる場所がないというのは、確実に大きな挑戦でした。
――予算などの困難や、このような空想に満ちたものに命を吹き込むうえでチームが成し遂げたことについて教えてください。
予算は間違いなく気になりますが、それだけではありません。今回、私たちには大規模な予算がありました。初めは、もし予算がなければ、私たちはこのプロジェクトを実現できないか、視聴者を裏切る結果になってしまうのではないかと非常に心配していたんです。
しかし、実際のところ大変だったのは、大規模な予算を8時間半のテレビ番組全体でうまく配分することでした。簡単なことではありませんが、どのタイミングを節目とすることができるのかを理解していきました。このヒューマンドラマでは、怪獣がその区切りを示す記号になっています。
それから、思い返してみると、カットする前はもう少し長かったシークエンスがいくつかありました。このような制約によってより良いものになったのではないかと感じています。アクションがとてもハイペースでエネルギッシュなものになったので、より差し迫った、象徴的で、息もできないようなシーンを撮影することができました。少し物足りないくらいが良かったりもしますからね。
とはいえ、間違いなく大きな挑戦の一つでした。それから、クリエイティブな面で困難だったのは、怪獣のスケール感を出すこと、怪獣を大きく感じてもらえるようにすることでした。そのための方法については、これまでの長編映画が素晴らしいテンプレートを提供してくれています。それらのプロジェクトで一緒に仕事をしたスーパーバイザーたちから多くを学びました。とにかく、この作品での仕事は素晴らしい体験でした。あらゆる困難を乗り越え、みなさんがよく応えてくれました。
――オープニングでは、違ったスタイルの映像が組み合わされ、その後ケイコの視点からの映像もあります。さらにゴジラがサンフランシスコを襲った時の様子も明かされるなど、過去の映画作品を思い出すような様々なシーンがあります。こうした部分はVFXでどのように実現したのでしょうか。ゴジラが大きすぎたり、小さすぎたりもせず、髑髏島の様子も見事に再現されていますし、ジョン・グッドマンが髑髏島にいる様子は、つい昨日のことのように見える完成度です。
ジョンは絶好調でした。少しメイクをしてカメラの前に立てば、あとは彼の演技にお任せでした。もちろん、前作と並べて比べれば違いに気づくかもしれませんが、彼は前作と同じように演じているので、同じキャラクターだということが伝わります。過去の出来事を振り返るシーンの一つとして効果的だったので、彼に出演してもらえて本当によかったです。
VFXの面では、前作と同じに見せるために、過去作品の制作時に作られたデータを活用しました。『キングコング:髑髏島の巨神』で登場したバンブー・スパイダーのデータを今回の関連映像を担当するベンダーに送りましたし、ゴジラのシーンは、2014年の『GODZILLA ゴジラ』に参加したベンダーに今回も依頼しました。ほかに橋の上のパトカー、戦車、バスなど細かい部分にも同じ要素を盛り込みました。もちろん、微妙に違う部分もありますが、なるべく同じになるように配慮しました。
たとえば、最初のプリビズを担当した会社は、『GODZILLA ゴジラ』の古いアニメーションファイルを参考にして、ゴールデンゲートブリッジのシーンを制作しています。当時のシーンを徹底的に再現するために、まったく同じ処理と、まったく同じフレームワークを採用していました。
一方、各シーンの雰囲気やトーンをうまく調和させるために、監督と撮影監督が過去の作品を実際に見た上で、どのようにするか検討しました。過去作品のフレーミングやカットの手法、そしてアクション重視で作られている面などをどう調和させていくか話し合いました。
というのも、過去の作品はそれぞれ雰囲気が違うからです。たとえば、『キングコング:髑髏島の巨神』は派手な冒険物語である一方、『GODZILLA ゴジラ』は暗く深刻な物語です。幸い、そこは素晴らしい監督であるマット・シャックマンや見事なキャストのおかげで統一感を演出できた上に、新たな魅力も生み出せたと思います。
――本作のVFXシーンの中で一番自信がある箇所と、その理由を教えてください。
第1話のラストシーンは特に自信があります。長編映画でギャレス・エドワーズが効果的に使い、最近はほかの映画でも取り入れられている手法の一つですが、特に大作などでは、派手なアクションシーンを先に考案して、そのあとにヒューマンドラマに焦点を当てるので、後者が二の次に見える場合があります。
一方で今回のシリーズでは、エピソード1の最後の重要なシーンで衝撃的な出来事が起こます。そして物語の謎に拍車をかけ、登場人物たちを物語の次の段階へと押し進めていきます。そのシーンは印象的で、俳優たちが演じる舞台には素晴らしい2階建てのセットがありました。
上の階にはバルコニーのような造りのプルトニウム研究所の内部があり、主人公の一人がロープで宙づりにされ、そこから下ろされていきます。そして彼女が降り立つ先の舞台は、別の場所に別のセットとして作られていたので、その2か所をつなぐ一連の動きをスムーズに映し出すのに苦労しました。
編集技術に頼った部分が大きいですが、セットの全体像を生かして撮影された映像もいくつかあります。そのシーンを担当したRodeo FXの仕事は見事でした。あたり一面にクリーチャーの卵があるシーンです。細かいことですが、粘り気のある液体からクリーチャーが透けて見える様子をリアルに描き出すのは技術的にも難題でした。透け具合の調整を間違えると中身が何も見えず、逆に調整が足りないと見えすぎる状態で、ちょうどいいバランスを見つけるのに苦労しました。動きの調整も難しかったです。
クリーチャーは粘り気のある液体を四方八方に飛び散らせて卵から飛び出し、床中を這い回ります。とがった足で地面を歩き回ったり、ほこりを舞い上げたりする床のシーンは、ほとんどをデジタル加工で仕上げました。また、一度に500~1,000匹も登場するので、互いにぶつかり合わないようにするのも技術的に難しいポイントでした。
さらに、人を襲って揉み合う動きは、物理的な面でも演技の面でも苦労しました。特に(山本)真理の演技は本当に見事で素晴らしかったです。ロープで宙づりになった彼女の脚を誰かが振り回し、怖さを実際に体験した彼女は、宙づりの状態ですっかり息が切れていました。
そんな形でドラマチックな演出ができたので、今お話しした一連のシーンは自信があります。とても難しいシーンでもありましたが、出来栄えには非常に満足しています。
――本作のような作品では、VFXと実写の融合が大変重要かと思います。特に苦労した場面と、最終的にどう完成させたかを教えてください。
初期に撮影したシリーズ冒頭のシーンで、ジョン・グッドマンが火山岩の岩場を走る場面です。まず脚本を書き、絵コンテやプリビズを作り、登場するクリーチャーや周りの環境を練り上げました。その後、ロケ地を探すためにハワイへ行きました。部分的に使える場所は見つかったものの、ブルースクリーンを使う必要がある場所も多く、ブルースクリーン撮影のためにわざわざハワイに行く理由はないのではという話になりました。
そこで、マット・シャックマンの指示で、ほかのロケ地も探すことになり、最終的にラナイルックアウトという火山岩でできた美しい半島に行き着きました。彼も「追われるシーンにぴったりだ」と賛同し、そこに広がる自然の地形を眺めながら、海沿いや崖沿いにいるような生物を登場させてはどうかと提案したのです。カニは名案でした。
『キングコング:髑髏島の巨神』を意識してバンブー・スパイダーを登場させることは決まっていたので、その相手として地面からカニを登場させることにしたんです。風がとても強い場所だったので、その場面の撮影は難航しました。崖に近づくのが危険な時もあり、登場人物を半島の手前に立たせて撮影をしたあとに、崖の端に立っているように映像データを加工する必要もありました。風が強すぎて想定していたことができない日もあり、別の日にその場所に戻って撮影したこともありました。
そのように撮影した映像をつなげるのも大変難しい作業でした。2体のクリーチャーが戦うシーンは、自然な結末に見えるようにアクションを工夫しました。クモの体は表面がとても柔らかくてベタついているのに対して、カニはとても硬い生物です。
そこで、クモがカニの目を突き刺して打撃を与えるシーンを入れて、戦いを互角に見せるというクリエイティブな工夫を盛り込みました。こうしたアイデアを絞り出して実現するまで、クリエイティブな面でもかなり苦労しましたし、思い入れの強いシーンになりました。
――本シリーズの制作にあたって、レジェンダリーや東宝と何か会話を交わしましたか? もし、話をしたようであれば、彼らから何か要望はあったのでしょうか?
レジェンダリーや東宝とは常に連絡を取り合っていました。流れを説明すると、まず監督が作った撮影カット案をレジェンダリーが確認し、修正したい点を挙げます。その後、東宝がゴジラの登場するシーンを確認し、変更点や注意点などを指摘します。
彼らにとってこういったやりとりは初めてではなく、これまで何度も経験してきているので、適切なタイミングでコメントをもらえたのはよかったです。最終段階ではなく初期段階で調整できるので、指摘を踏まえての方向転換も難しくありませんでした。大抵の場合、彼らは我々の発想に対して柔軟で、そのような会社としての彼らのスタンスは素晴らしいと思います。
新しいアイデアをもとに進め方を相談しましたが、その先のクリエイティブなプロセスはとても興味深いものでした。実現できなかったアイデアの中に、興味深くて、非常に納得させられたものが一つありました。ゴジラの視点を描きたいというものですが、それについて東宝からこんなコメントがありました。
「過去に試みたことはありましたが、ゴジラの視点を知ることはできないと、私たちは考えています」そのコメントには感激しましたね。その通り、断られて納得です。ゴジラの存在は神の領域で、その考えは人間には理解しえないものなのだと思います。
――今、日本で制作された過去のゴジラ映画を見返してどう感じますか?
一つひとつの映画が違うスタイルで描かれているのが素晴らしいですね。最初の作品『ゴジラ』は、実在する恐怖を深く考察した作品であり、映画史に残る名作です。「自分たちにとって、今日における恐怖は何か?」という現代にも通じる教訓を感じます。最近の作品に目を向けると、『ゴジラ-1.0』はまだ観ていませんが、とても楽しみな作品です。
一方、『シン・ゴジラ』は、公共事業や政治、さらに官僚主義までも描く作品になっています。一つの映画で壮大なテーマを扱い、想像を絶する内容と見事な出来栄えに仕上げること自体、素晴らしいことだと思います。歴代のシリーズで行われてきたミニチュアや人形を駆使した作品も大変魅力的です。
最近、Criterionで昭和ゴジラシリーズの全作を見返して大変楽しい時間を過ごしました。どの作品もそれぞれ独特で興味深く、中には、ほかの作品とはまったく異なる構想で制作されたのではと思えるものもありました。
――クリーチャーたちの起源は特撮にあることを踏まえて、過去の特撮作品に登場したクリーチャーの中で、VFXを使って『モナーク』に新たに登場させたいものはいますか?
そうですね、たくさんいます。そうしたことを掘り下げるのは大好きなことの一つです。クリーチャーのコンセプトを決めるクリエイティブプロセスの初期段階では、脚本家が明確なイメージをもって具体的に書いていることもあれば、そうではないこともあり、その場面の出来事を演出できるクリーチャーについて話し合いました。主要撮影を始める前にZoom会議を行い、どんなものが考えられるか相談したんです。
中でも面白かったのは、深海の世界で海の底を這い回る奇妙な生物たちを参考にしたことです。たとえば、ミミズのような姿で口から内臓を吐き出し、小さな獲物を捕まえて体内に戻すような生物がいました。そのような気味の悪いものが見たいと思う面は誰にでもありますから、常にちょっと過激で奇妙なものを取り入れるようにしました。これ以上、具体的にお話しするのは止めておきましょう。
将来的に登場するかもしれませんし、多くは語らないようにしておきます。いずれにしても、できる限り自然界からインスピレーションを得るようにしたいと考えています。自然界は奇妙で素晴らしいものであふれていて、常に私たちにインスピレーションを与えてくれます。
――ゴジラの長い歴史の中から、本作に登場させたいと思うクリーチャーはいますか?
今後実際に予定されている内容だと勘違いされそうなので、注意が必要ですね。ゴジラの歴史の中で大好きな怪獣はたくさんいます。たとえばビオランテはとても魅力的です。もし登場させられるとしたら、かなり楽しいものになると思います。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』配信情報
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は、Apple TV+で独占配信中。2024年1月12日まで毎週金曜日に新エピソード配信。
(海外ドラマNAVI)
Photo:画像提供 Apple TV+