本家とは似て非なるもの!フランス舞台だからこそできた『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』レビュー

世界的大ヒットドラマのスピンオフ第5作『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』がU-NEXTで独占配信中。11月24日(金)にシーズン1全話が配信されたばかりの同作のレビューを、ネタバレありでご紹介しよう。(※本記事はシーズン1のネタバレを含みますのでご注意ください)

『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』レビュー

作品概要

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

世界中で大ヒットしたゾンビサバイバルドラマ『ウォーキング・デッド』。“ウォーカー”と呼ばれるゾンビがはびこるアメリカを舞台にした本作は、2022年に11シーズンをもって惜しまれつつ幕を閉じた。その中で圧倒的に視聴者が推したキャラクター、ダリル・ディクソンを主人公に迎えたスピンオフが、この『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』だ。

口数が少なく、強くて内に秘めた優しさを持つダリル。そんな彼が、なぜか海で漂流中し、フランスにたどり着くところから物語は始まる。異国にいることに気がついたダリルは、なんとかして故郷のアメリカに帰ろうと奮闘。荒廃したフランスでウォーカーの襲来に遭いながらも、修道女イザベルと“救世主”として育てられる少年ローランに出会い、彼を「ネスト」と呼ばれる場所に連れて行くことを条件に、アメリカに帰る道標を手に入れようとするダリルの戦いが描かれる。

孤独な戦士ダリルは健在!イケオジ度は最高潮

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

なんと言っても、1話目から「あのダリルが帰ってきた!!」という高揚感に尽きる。しかも異国の地フランスが舞台。言葉が分からなくて、少しおどおどするダリルの様子が可愛くもあり、新たな一面を発見した気になる。その上、途中から「ボンジュール」とか言うものだから、ダリルファンにはたまらない要素がたくさん。そしてどこにいてもやっぱり強い! 断トツで強い! 遥か彼方の大陸、完全アウェイの地でサバイバルしようとするその精神力もさることながら、とにかく敵を倒しまくる! やっぱりこの男はかっこいい! そう思うシーンが満載だ。

エピソードが進むにつれて、彼がフランスにたどり着いた経緯が判明するが、元を正せばそれもある子どもを思っての行動が原因。今回一緒に旅をするローランに対してはもちろん、子ども思いのダリルをシリーズの端々で感じることができる。とにかくタイトルの通り、ダリル・ディクソンを堪能できる作品だ。

芸術&宗教色強め!ウォーカーさえもアメリカとは異なる

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

本家が典型的なアメリカだとしたら、こちらはかなりフランス要素が強い。同じ『ウォーキング・デッド』の世界でありながらも、別の作品を見ているような気になることもあり、好き嫌いは分かれるかもしれない。例えば、ロケ地の一つとして登場した納骨堂カタコンブ・ド・パリでダリルに向けられた「これまでにも戦争や疫病で多くの人間が命を落としたが、人類はまだ生きている」という旨のセリフは現実社会をそのまま表しており、深い発言だ。また、ローランが特別だと言われる理由も第4話で少し判明するが、彼が祈る姿と周囲を取り囲むウォーカーの動きは聖書で有名なモーセの海割りを連想させ、キリスト教の影響を色濃く感じた。

さらにフランスのウォーカーは芸術性にも溢れている。フランスにルーツを持つ脚本家の手掛けた第3話に出てくるウォーカー・オーケストラ・コンサート(?)はシュールで不気味で、『アメリ』で知られるフランス人監督ジャン=ピエール・ジュネの映画『ロスト・チルドレン』の世界を彷彿とさせる。

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

またアメリカのウォーカーとフランスのそれとは動きも違う。実はフランスのウォーカーを演じているのは、エキストラではなくなんとダンサー。さすが芸術の国だ。ダリル役のノーマン・リーダスが「ダンサーは変な風に身体を曲げたりして向かってくるから、ホラー映画とシルク・ドゥ・ソレイユが混ざったみたいだ」と言っているほど。見比べてみると確かに、奇妙な動きのウォーカーが何人もいる。芸術と宗教要素満載の本作は、本家と異なる新鮮な魅力がいっぱいだ。

シーズン2に期待!キャロルとの再会や謎解き要素も

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

もともと本作はダリルとキャロルの物語としてプロジェクトが進んでいたが、結局ダリルのソロプロジェクトになった。だがシーズン1後半で、ファンの期待に応えるかのようにキャロルが登場! すでに制作が決まっているシーズン2は『The Walking Dead: Daryl Dixon – The Book of Carol(原題)』とサブタイトルが追加されているように、フランスにいるダリルと、アメリカで彼の行方を追うキャロルという二つの物語が交錯し、ますます世界観が拡大していくだろう。“救世主”ローランの秘密や、武装勢力「生者の力」の関与など、序盤からサスペンス要素も盛りだくさんで最後まで楽しめた。

だが、最終話のダリルたちと被験ウォーカーのデスマッチシーンは、時間も長く既視感もあったせいか、少し首を傾げる展開だったように思う。また、大事な弟を殺した仇としてあれだけダリルへの復讐心に燃えていたコドロンが、ローランの一言で簡単に見逃したことにも個人的には疑問を抱いた。とはいえ、シーズン2でもし彼がダリルたちの味方にでもなったら、また面白い展開になるかもしれない。

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

『ウォーキング・デッド』のファンは当然だが、本家を見たことがない人、アクション好きな人、フランスや宗教、歴史に興味がある人…そんないろんな人も楽しめる『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』。全6話と少ない話数ながらも濃厚なワインのようにしっかり熟成されたシーズン1をぜひ味わってもらいたい。

(文/Erina Austen)

Photo:『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』©2023 Stalwart Productions LLC.