【映画レビュー】クレア・フォイが狂気の渦に!S・ソダーバーグ監督が全編iPhoneで撮影した『アンセイン ~狂気の真実~』の臨場感に鳥肌

映画『トラフィック』『オーシャンズ』シリーズ、TVドラマ『The Knick/ザ・ニック』『モザイク ~誰がオリヴィア・レイクを殺したか』のスティーヴン・ソダーバーグ監督がiPhoneという新たな撮影ツールを手に入れ、実験的に挑んだ衝撃のサイコスリラー『アンセイン ~狂気の真実~』(各動画サイトで配信中)。Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』のエリザベス2世役でおなじみの女優クレア・フォイがストーカーに脅えるOLに扮し、女王様とは程遠い"すっぴん&ボロボロ姿"で、逃げて、逃げて、逃げまくる!

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本作は、ストーカーに追い詰められた女性ソーヤー(クレア)が、施設に強制入院させられたことで体験する恐怖を描いたサイコスリラー。デビッド(ジョシュア・レナード『SCORPION/スコーピオン』)という髭面の中年男につきまとわれているソーヤーは、引っ越しや時間差出勤を試みるも精神的に追い詰められ、ある施設でカウンセリングを受ける。だが、なぜか強制的に入院させられることになり、その苛立ちから、ほかの患者を殴ってしまい入院期間は延長に。そんなある日、クレアの前に、ストーカーのデビッドが施設の職員として現われる...。

●"映画少年"ソダーバーグ監督の新たな挑戦!

2013年の『サイド・エフェクト』を最後に、映画監督業を休止していたソダーバーグ監督が、4年の充電期間を経て、2017年、『オーシャンズ11』を彷彿させる痛快作『ローガン・ラッキー』をひっさげカムバック。東京国際映画祭の特集上映で6年ぶりに来日を果たし、再び監督としてやる気がみなぎっていることをアピールし、そして翌年、本作が製作された。

物語の構成は、主人公ソーヤーのストーカーに対する「強迫観念」、疑惑だらけの「監禁病棟」、そしてストーカーとの「直接対決」という3つのシークエンスからなるが(舞台はほぼ病棟)、ピーター・アンドリュース名義で撮影監督としても活躍するソダーバーグは4K動画撮影機能を搭載したiPhone 7 Plusを採用。『ファースト・マン』(2018)や『ダンケルク』(2017)などフィルムの質感にこだわった映画が話題を集める中、iPhoneで撮影するそのメリットとは何だったのか?

インディーズの監督なら経費削減でやむなくiPhoneで、ということはあるだろうが、ソダーバーグ監督といえば、カンヌ国際映画祭パルムドール(『セックスと嘘とビデオテープ』)、アカデミー賞監督賞(『トラフィック』)の両栄冠に輝く巨匠。この撮影法を総じて「これが未来だ」と語っていることから、予算削減が目的ではなく、あくまでもiPhoneが持つポテンシャルにこの映画の命運をかけたと言える。

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これはあくまでも主観だが、映像の美しさは、通常の4Kカメラと遜色なし。正直、iPhoneだと言われなければ全くわからないほど美しい。また、コンパクトなサイズを生かして(あるいは通常のカメラよりズーム機能が使いにくいことを逆手に取って?)、被写体にかなり接近して撮影しているため、背景に独特の奥行き(遠近感)が生まれ、現実と妄想が交錯するような奇妙な世界観をもたらすことに。さらに極端な接写が主人公の病んだ心情に入り込むような密着感や閉塞感を生み出し、高い携帯性は脱走シーンのハラハラ、ドキドキの疾走感を演出するなど、iPhoneだからこそ実現できた恐怖描写が随所に。ソダーバーグ監督自身の真意は不明だが、iPhoneの特性を生かした演出法をあれこれ想像しながら鑑賞してみるのも面白い。

●クレア・フォイの心情に入り込む恐怖体験

iPhoneを使った独特の演出法もさることながら、クレアの繊細かつ力強い演技はこの映画の命。冒頭から病棟に収監されるまで、正直、クレア演じるソーヤーは、「被害妄想? 過剰反応? 危機が迫っているのか?」などと疑いの余地ありで、曖昧だ。ビクビクしているかと思えば、汚い言葉で罵りはじめ、苛立ちがピークに達すると暴力にも走る。ストーカー被害のトラウマがそうさせるのかもしれないが、物語の途中まで、「もしかして、ソーヤーの方が狂っているのでは?」という思いも拭えない。

ところが、ジョシュア演じるデビッドが突如出現してから、物語は一気にジェットコースター化し、サイコスリラーの王道に。図体だけはでかいが、愛を知らない中学生のような髭男デビッドのキモさと言ったらもう...。どんな悲しい過去があっても、あの病んだ目をブラインド越しに見たら、誰だってトラウマになるだろう(病棟のシーン以外にも、デビッドがさりげなく出ているので要チェック!)。

iPhoneの不思議な臨場感の中、デビッドの闇も相まって、視聴者はどんどんソーヤーの心情に入り込み、後半は、彼女に寄り添いながら恐怖を追体験する。追うデビッド、逃げるソーヤー、ラストはブライアン・デ・パルマ監督を若干彷彿させるブラックな仕掛けも...? 劇場公開をスルーされたが、まさに動画配信サービスやDVDレンタルで鑑賞するにふさわしいソダーバーグ監督ご乱心の超B級映画。主人公ソーヤーと一体となって、ひたすらこの恐怖を楽しんでいただきたい。

(文:坂田正樹)

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(2022年3月時点での情報です)

Photo:『アンセイン ~狂気の真実~』© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.