「『ブラック・レイン』を無料で使わせてもらった」『アースクエイクバード』ウォッシュ・ウェストモアランド監督直撃インタビュー

11月15日(金)より全世界同時配信となり、8日(金)より一部劇場で公開中のNetflix映画『アースクエイクバード』。原作は、英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞した同名ミステリー小説。東京で通訳として暮らす女性ルーシーが、カメラが趣味の男性、禎司と知り合ったことをきっかけに、知人女性の失踪事件に巻き込まれていくというストーリーだ。そんな本作でメガホンを取ったウォッシュ・ウェストモアランド監督(『アリスのままで』『コレット』)を直撃! 開口一番、「よろしくお願いします。はじめまして」と流暢な日本語で挨拶してくれた、かなりの日本通である彼に、念願の再訪を果たした日本での撮影や偶然を生かした見事な脚色について語ってもらった。

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――以前も監督は『アリスのままで』でベストセラー小説を映画化されていましたが、本作を映画化しようと思った理由は?

どちらもベストセラー小説が始まりというのは興味深いことだね。考えてみると、『コレット』もフランスのベストセラー小説が元になっているし。僕は女性が主人公で、ベストセラー小説が原作というパターンが好きみたいだ(笑) 本作に関しては、リドリー・スコットが率いる製作会社、Scott Free Productionsとミーティングがあった時、この本を持っていたプロデューサーから言われたんだ。「これは1989年の日本を舞台にした作品だ」ってね。そこで「へえ、奇遇ですね。僕は当時日本に住んでいましたよ」と話したのが始まりなんだよ。その後で原作を読んでみて、キャラクターの心理描写に魅了され、ミステリーとサスペンスたっぷりの東京を舞台にしたフィルム・ノワールが作れると思ったんだ。

――かつて福岡大学に通っていたそうですね。

そうなんだ。(ここからは日本語)留学生として8カ月間、福岡に住んでいました。その時はとても楽しかった。(ここから英語)イングランド北部のニューカッスルにある大学で政治学を勉強していたんだけど、その中に東アジアについて学ぶオプションがあって、それを選んだら日本に行けると聞いて即応募したんだよ(笑) 滞在中、とても複雑で興味深い日本の文化を学ぶことができて、すごく為になった。楽しかったから、"どうやったらまた日本に行けるかな"とずっと考えていたんだ。ついに夢が叶ったよ。

そして2018年、久々にロケ班として1週間、日本で過ごすことができたんだ。戻ってこられて嬉しかった。ここで過ごしながら仕事をして、しかも日本の映画業界の中心である東宝スタジオで働けるというのは、まさに天からの贈り物だったね。

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――本作はスザンナ・ジョーンズの原作をベースとしながらも、いくつか大きな変更が加えられています。監督は脚色も担当されていますが、原作を尊重することと、自分の色を加えることのバランスをどのように取っていたのですか?

ルーシーの視点から綴られている原作の雰囲気が大好きなんだ。彼女の心理描写は原作の中にしっかり描かれているので、映画化する上で彼女に関して迷うことはなかった。一方、禎司については原作の中であまり描写がないので、カメラマンであること、アーティストであること、そして写真を通して支配権を握りたがることなどを元にして、現実味のあるキャラクターへと膨らませていった。リリーは、原作では英国人だったのが映画ではアメリカ人になっているが、彼女はパーティ好きだったり優秀な看護師であったり手相占いができたりといろんな顔を持っていることを元に脚色していったよ。

そしてラストに関しては、ルーシーと禎司の関係が原作ではかなりオープンな展開になっているので、映画ではもっと決定的な展開にしたかったんだ。もっと感情的にインパクトのある形でね。

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――結末といえば、原作では非常にスリラー色が強いですが、映画ではずっと死にとらわれてきたルーシーが救いを見出すという明るい形になっていますね。

ルーシーは4人の人間が死んだのは自分のせいだと考えてきた。ずっとその思いにさいなまれてきたんだ。でも友人の加藤さんにその思いを打ち明けた時、加藤さんの方も罪の意識にさいなまれていることを口にする。それは、ルーシーにとって解放であり、人とのつながりを意味するんだ。そして最後に二人は手をつなぎ合うけど、あれは彼らが罪悪感から解放されたことを意味しているんだよ。加藤さん役の岩瀬晶子さんは見事だったね。小津安二郎監督の映画『東京物語』で原節子さんが演じたキャラクターを思い出すよ。とても善良で正直な人なんだ。

――ルーシーの出身がリリーと同じ英国からスウェーデンに変わったのはアリシアの出身に合わせたためですか? そして彼女の頬の傷は原作にはありませんでしたが、あれは原作の彼女が容姿にコンプレックスを持っているので付け加えたのでしょうか?

脚本を書いた段階では、ルーシーの出身は英国でもヨーロッパのほかの国でもいいようにしておいたんだ。ただ、主演のアリシアは通訳を演じるために日本語を学ばなければならない。日本語をしゃべる上、英国人も演じなければならないとなると大変だから、出身についてはアリシアに合わせて、彼女が演じやすいようにしたんだよ。

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そして傷跡は、実は本物なんだ。アリシアが撮影に入る3カ月前、本当に負った傷なんだよ。家の中で転んだ際、ドレッサーに差さっていた鍵で切ってしまったそうで、現場に入る前に彼女から「この傷はずっと消えないの。でも隠したりはしたくないわ」と告げられた。映画に出てくる女性の顔がすべて理想的なものとは限らないからね。そんなアリシアの意思を尊重し、本人の許可を得た上で傷跡をストーリーに組み込むことにしたんだ。

あの傷はルーシーが抱えている過去を象徴しているんだよ。もしかしたらルーシーの兄が彼女に石を投げつけた時にできたものかもしれないだろう? そんな彼女の傷を見た禎司は「とても美しい」と言う。それは、彼も痛みや闇を経験したことがあるからなんだ。傷を通して二人の距離がぐっと近づくんだが、これは偶然から生じたことをルーシーというキャラクターやストーリーに生かしているんだよ。最終的にアリシアの傷は不思議と消えたけどね。

――そんなアリシアとの仕事はいかがでしたか?

喜びと感動にあふれた体験だったよ。とてもいい友人になったんだ。本当に素晴らしい人だよ。彼女は日本語を話したりチェロを演奏しただけでなく、ルーシーというキャラクターを見事に肉付けしてくれた。ルーシーは非常に大きな"心理的激流"を経験するわけだけど、アリシアはそんな大変な役を演じきってくれたよ。

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――「写真を撮られると魂を失う」という日本的な迷信が効果的に用いられていますが、原作になかったこの要素を盛り込んだ理由は?

写真を撮るというのは、被写体と撮影者による一種のSMプレーでもあるんだ。あのアイデアが生まれたのは、ルーシーが禎司の撮った彼のかつての恋人、サチの写真を見つけることから来ている。写真の中のサチは、禎司に撮られれば撮られるほど怯えた表情を見せている。そしてルーシーも写真を撮られることに落ち着かなくなり、禎司にもう撮らないでほしいと伝える。そこで彼は新しい被写体としてリリーに目をつけるんだ。リリーはルーシーの役割を奪ってしまうわけだね。本作において写真を撮るというのは、何かを奪い取ることにもつながるんだ。もちろん、実際はいくら写真を撮っても何の影響もないはずだけど。じゃないと、一日に何十枚も撮る人がいる現代では大変なことになってしまうからね(笑) でもこの作品の舞台である1980年代だと写真はもっと特別な時に撮るもので、スマホで気軽に撮れる現代とは技術的にも違っている。そして写真を現像する際に暗室が出てくるけど、あれは人のダークサイドを示しているんだ。

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――「アースクエイクバード」というタイトルの意味が私自身は原作を読んでもよく分からなかったのですが、あなたはどういう意味だと考えていらっしゃいますか?

アースクエイクバード(地震鳥)とは地震の後で鳴く鳥のことだが、鳴き声が聞こえたとしても実際にいるのかは分からない。本作もそれと同じことで、アースクエイクバードは実在するかもしれないが、ルーシーの頭の中にしかいないのかもしれない。だから、本編であの鳥の声が流れる時はごくかすかに、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな鳴き声にしたんだ。それと同じで、映画で描かれる出来事の数々はすべて論理的に説明できるが、手相や夢のように超自然的な要素も含まれている。彼らがいるのは神話学的な世界でもあるんだ。本作は、神話や夢が現実に与える影響も描いている。アースクエイクバードが本当に存在するのかどうか、つまり、本作が描いている論理的なものと超自然的なものという二通りのストーリーラインのうちどちらが本当かは本編では明らかにせず、その判断は観客に委ねているんだよ。

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――リドリー・スコットが本作の製作総指揮を務めていますね。本編で日本を舞台にした彼の監督映画『ブラック・レイン』を目にした気がするのですが...。

そうだよ。リドリー・スコット監督のあの映画は1988年に日本で撮影されている。だから1989年の日本でルーシーがその日本語字幕をつけているという設定にしたんだよ。世界的なフィルムメイカーである彼が"ゴッドファーザー"として本作に加わってくれたことは夢のようだったね。『ブラック・レイン』だけでなく『ブレードランナー』でも日本の要素を組み込んでいる人だから。『ブラック・レイン』を本編で使用したいと言ったら「もちろん!」と二つ返事で、しかも無料で使わせてくれたんだ。マイケル・ダグラスとケイト・キャプショーが出演している『ブラック・レイン』も、全然スタイルは異なるものの、同じく日本を舞台にしたフィルム・ノワールだからね。

――"ゴッドファーザー"であるリドリー・スコットはどのような形で本作に関わっているのでしょう?

リドリーは二十歳の若者のように映画に対して熱い情熱を抱いていて、いつも新しい作品に取り組んでいるから、とても忙しい人なんだ。本作に関しては"ゴッドファーザー"としてサポートしてくれて、先日のプレミアにも来てくれたんだ。彼と一緒に映画を作ることができてとても光栄だよ。そして日本で映画が作れたことも嬉しく思う。

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女性の揺れ動く心理を繊細な描写で描くサスペンス・ミステリー映画『アースクエイクバード』は、11月15日(金)Netflixにて全世界同時配信スタート。

Photo:

Netflix映画『アースクエイクバード』
ウォッシュ・ウェストモアランド監督
(C)Murray Close/Netflix