夏休みをとるのは、なにも人間ばかりじゃありません。アメリカのテレビドラマも6月から9月半ばまでは夏休み。新エピソードの放送がありません。もっと正確にいえば、アメリカのテレビドラマは、9月半ば(今年は9月16日)のエミー賞授賞式を終えたその翌日から新ドラマシーズンがスタート。新しいシーズンの第1話"シーズン・プレミア"が始まるわけです。
そして秋から冬、そして春を過ごし、5月の"シーズン・フィナーレ"つまり各シーズンの最終回まで続きます。この間、9カ月の間には、新エピソードもあれば、再放送の回もあり、夜のプライムタイムはいつも新エピソードばっかりの日本の放送スタイルとは全然違うんだなあ、とこちらに来たばかりのときは驚いたものです。
そして夏休み(6~9月半ば)に入ると、人気ドラマの再放送ばかり。私のようなテレビマニアにしてみたら、少々物足りないですが、見逃した回をチェックしたり、そもそも見たことのないドラマを見てみたり。ほとんど見たい番組のない夏は、秋の新番組シーズンに向けてのリハビリ期間みたいに使っていたのです...。
ところが!テレビから遠ざかるはずの夏が、ここ数年、様変わりです。夏になっても、いや夏になると、数え切れないリアリティショーが、そして新ドラマの放送が始まりました。再放送を流していたら、視聴者も広告クライアントも満足していた古きよき時代の夏は終わりました。
いつからでしょう、こんなふうになっちゃったのは...。大きな理由は2つ考えられます。1つは、今のアメリカのリアリティショー・ブーム元祖といえる『サバイバー』(2000年5月)の誕生。それまでアメリカのテレビは、バラエティ番組といえばトークショーやクイズくらい。そのアメリカの視聴者も、日本に多く存在するバラエティ番組のおもしろさを知りました。しかも、ドラマよりはずっと安価に製作でき、『サバイバー』や『アメリカン・アイドル』(2002年6月)のように社会現象を起こすこともあるのです。もはやリアリティショーがキワモノ扱いされる時代ではありません。
そしてもう1つは、有料チャンネル・HBOが生んだ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999年1月)と『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998年6月)の成功。それまでドラマといえば、4大ネットワーク(NBC、CBS、ABC、FOX)の製作するものでした。4大ネットこそが、新ドラマは9月に始まり、5月に終わるシーズンのサイクルを守ってきたのです。
ところが、HBOの成功により、「なんだドラマは、4大ネットじゃなくてもOKなんだ」と刺激されたのかはわかりませんが、後にFX(『ザ・シールド』『Nip/TUCK マイアミ整形外科医』、USA(『名探偵モンク』)など、いわゆるベーシック・ケーブルといわれる局が、我も我もと、ドラマ作りに参入してきたのです。
ケーブル局は、これまで4大ネットのお下がり、言葉は悪いですが、彼らの再放送を中心に流していたのですから、大きな変化です。しかもケーブル局は4大ネットがドラマをお休みする夏に新ドラマをぶつけきた。しかも、4大ネットじゃ放送を控えるような過激で良質なドラマが多かったりするわけ。そうなると、ドラマ好きは再放送じゃなく、新エピソードを見てしまいますよね。最近ではABCが『Traveler』なる新ドラマを5月からスタートさせました。これもケーブルドラマの影響でしょう。4大ネットが新ドラマを夏に始めるなんて、これまでほとんどなかったことですから...。
リアリティショーが増えて、にぎやかな今年の夏のテレビスケジュール。そこそこヒット番組も生まれているみたいです。けれど、テレビ関係者や広告クライアントには無視できない事実もあるのです。
それは、プロセジュラル・ドラマの王様、CBSが全ての時間帯において視聴率を稼いでいること。『CSI:科学捜査班』とか『コールドケース』が強いんです。同じエピソードでも繰り返し見ちゃうんですね、この手のドラマは。結局、夏の間は新しいリアリティショーもほとんど作らず、夏休み中のCBSが一番強いっていうのは、ちょっと皮肉はかんじですね。
コールドケース3
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