◆いよいよ「吸血鬼ドラキュラ」の舞台へ!
シギショアラの南東およそ90キロに位置するブラン村。ここにドラキュラ城のモデルとされる【ブラン城】が。
14世紀に建てられた城で岩山の上にそびえたっているため、観光バスや乗用車が入れるのは麓の専用駐車場まで。この先は徒歩。
駐車場から門まではレストランや商店が連なり、ちょっとしたモール状態。門前町みたいな感じ? 入場券売場である門の前も広場になっていて、ドラキュラ関連の土産物やルーマニアの民芸品を売る店が。
ブラン城はツェペシュの祖父:ヴラド1世の居城で、その後ドラクルが受け継いだものの、肝心のツェペシュがここに住んだことはなく、何度か立ち寄った程度だという。観光資源として「ドラキュラ城」を名乗っているだけではあるが、ここも「吸血鬼ドラキュラ」のおかげで潤っているよう。・・・とはいえドラキュラがウリなんだから、もうちょっとそれっぽい空気を演出してもよさそうだけど。
そんな門から城まではけっこう急な坂道。キツイ。しかも凸凹がある古い石畳なので足元が不安定。スニーカーの観光客に交じってなぜかピンヒールを履いた女の子がいたが、かなり苦戦していた。
敷地内は緑が生い茂り、城は鬱蒼とした木々とゴツゴツした岩に囲まれている。ドラキュラ的ムードを重視するなら、あえて天気が悪い日に行くのがおすすめかも?
お城の中に残されている家具や生活用品・武器・鎧などは、ルーマニア王家が所有していた20世紀前半に使われていたものでヴラドの時代のものではないが、華美すぎないアンティークのインテリア、各部屋を結ぶくねくねした細い廊下、迷路のように入り組んだ間取りなんかはドラキュラ城のイメージにぴったり!
城の窓から外をのぞくと、裏手は切り立った岩場。「吸血鬼ドラキュラ」に、伯爵が真夜中にスルスルスル~っとトカゲのごとく城壁を伝い谷底へ下りていくシーンがあったが、確かにそんなこともありそうな・・・
◆ドラキュラが眠る島:スナゴヴ修道院
ヴラド3世は1476年、ワラキアに侵攻してきたオスマン帝国との戦いによって死んだという。オスマン軍は刎ねたツェペシュの首を持ち帰ったとされる・・・では胴体は?
ブカレストの北およそ30キロにあるスナゴヴ湖は、森に囲まれたリゾート地として知られる場所。湖岸には、あのチェウシェスクが所有していた別荘も。
この湖に浮かぶ小島にひっそりと建っているのが【スナゴヴ修道院】。ツェペシュの胴体はこの修道院の下に埋められ、石材で封印されたと伝えられている。首と胴体が別々に埋葬されたというのも、まるで彼が蘇るのを恐れたかのようで、なんだかヴァンパイアっぽい。以前、本当にツェペシュの遺体が修道院の地下にあるのかを専門家がX線かなにかで確かめたところ、「頭蓋骨がない(ように見える)人骨」が埋まっていた・・・とかいう噂。
修道院がある島の周りはぐるっと湖なので船で渡るしかすべがなく、以前は近所の住民が自前のボートで客を送迎していたとのこと。だが、ボられる人続出で問題になったとかで直接歩いて渡れる橋を造ったらしい。情緒にはやや欠けるけど許そう。(無料だし)
橋を渡り、小さなゲートを開けると、白い子犬が走り寄ってきた。草木には花が咲き、芝生の上ではニワトリが放し飼いになっているというのどかさ。
建物自体は、典型的なルーマニア正教の教会という感じ。水没したのと経年劣化とで柱や壁の漆喰が剥がれ落ち、その下に元々のフレスコ画があるのがわかる。ほの暗い堂内を進むと、祭壇の手前の床の一部が白っぽい石で囲まれている。タタミ一畳分ぐらいの広さ。花束とキャンドル、小さな額に入ったヴラド3世の絵が置かれていた。
そう、「ここにドラキュラが眠ってる!」と思うと感無量・・・
実はこの日、男性二人が天井画の修復作業をしていたのだが、なんと「ツェペシュの墓」の上に鉄骨の足場が! よりによって四角く区切られてるところの真上!! ・・・いいのか!?
受付にいた修道士さんに「ホントにツェペシュの遺体が埋まってるの?」と(もちろんルーマニア語に通訳してもらって)訊いたら、「当然です」と自信満々の表情。そりゃわざわざここまで来たんだから、私だって信じたい。だからもうお墓の上に足場を組むのはやめさせてください!
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ドラキュラゆかりの地を中心に巡ったルーマニアの旅。今回行ってみた限りでは、ドラキュラ関連のスポットはどこも予想以上のにぎわいだった。ブラン城では、ヴァンパイアに扮した女の子たちによるゴスロリ系雑誌の撮影も行われていたり。
特に、ここ3~4年は観光客がぐっと増えている印象とのこと。3~4年前といえば、ちょうどHBOで『トゥルーブラッド』が始まり、『トワイライト~初恋~』が公開されたころ。ヴァンパイア・ブームの影響は、逆に"聖地"ルーマニアにもしっかり及んでいた!
吸血鬼伝説や魔女文化が色濃く残っている東欧。中でもルーマニアには「モロイ」「ストリゴイ」「ノスフェラトゥ」と呼ばれる吸血鬼伝承(「婚外子」「赤毛で青い目の人」「洗礼前に殺されてしまった子ども」「自殺した人」などがなるといわれた)があり、地方によっては今でも強く信じられているという。
また、ルーマニアには《魔女》も実在する。新聞や雑誌を開けば広告が出ているし、テレビで売れっ子の魔女や選挙で勝つために魔女を雇う政治家までいるそうだ。彼女たちは未来を占うだけでなく、呪いをかけたり、かけられた呪いを解いたりすることもある。書物やハーブなど魔術に使う材料や道具の販売もしているらしい。『バフィー』のMagic Box(ジャイルズの店)みたいなもの?
実際、魔術だったり呪いだったりモンスターだったり、そうしたスーパーナチュラルなことがすんなり受け入れられてしまうような風土が、この国にはまだ残っているような気がした。ルーマニア・トランシルバニア地方とアメリカ・ルイジアナ州、物語の舞台は違うが「人間と異形の者との《対立》と《共存》」「異質なものに対する偏見と差別」「日常と隣り合わせの闇」「信念や信仰、常識というものの危うさ」、そんなテーマを一貫して描いている『トゥルーブラッド』の世界観と多くの共通点があったことも意外な発見。・・・ヴァンパイアドラマもルーマニアもまだまだ奥が深そう。
ヴァンパイアもの・魔女ものドラマが好きなら、ぜひ行ってみて欲しいルーマニア。私も機会があれば、次回は「現代魔女事情」を探りに訪ルしてみたい。まだまだ終わりそうにないヴァンパイア・ブーム。ヴァンパイアの聖地を訪れるなら今!