
4月から北米ではじまったドラマ『GIRLS/ガールズ』は、あの『Sex and the City(以下、SATC)』と似て非なるドラマだ。「HBOの30分コメディ」で「ニューヨークに住む女性4人の物語」である点は同じだが、近年の世相を反映してか、『GIRLS』に『SATC』のような華やかさはない。その分、『GIRLS』に出てくるキャラや人間関係はよりリアルで、これまでの女子コメでは見られなかった大胆かつ赤裸裸なNY女子ワールドを展開している。
アダム・ドライバー出世作『GIRLS』
ライター志望の主人公ハンナは、2年前に大学を卒業後、出版社でインターンしながら、親の仕送りで生活している。だが物語の冒頭で、ハンナは両親から突然の「仕送り終了」を宣告される。「あなたのためよ」的な説明をする両親に対し、ハンナは「こんな不況の時にサポートを打ち切るなんて」「私が麻薬中毒になってないだけでも、あなた達はラッキーなのよ」などと必死に抵抗するが、「湖畔に家を買って住みたい」という秘かな野望を持つ母親は聞く耳を持たない。失意のハンナが向かう先は、好きな男のもと。といっても、ハンナが携帯メールしても男からの返信は一切なく、男の方はハンナのことをセフレとしか思っていない様子。その証拠にセックスも前戯はゼロ&いきなりバックからで、しかも即ア○ルを攻めようとする始末。それでも彼と一緒にいたいハンナが別れ際に「またすぐに会える?」と聞くと、男は一言「Yeah, just text me (ああ、携帯メールしてよ)」。返信しないくせに。
こーゆー夢もロマンもない男女関係は、かつて『SATC』の世界に憧れた女子には受け入れがたいかもしれない。『GIRLS』には、金持ちで紳士なイケメンや、めくるめく快感のベッドシーンは出てきそうもない。セックスシーンですらセクシーではなく、笑えるほどかっこ悪い。セックスって傍から見るとこんなに滑稽なのね、という現実を突きつけられる。
このドラマのクリエイターであり、主演・脚本・監督・共同製作総指揮をこなすレナ・ダラムは、なんとまだ25歳。キャラとまるで同世代だから、ここまでリアルに20代の生態を描けるのも納得だが、それにしても自身がまだ夢見がちな20代のど真ん中にいながら、同世代ライフを冷徹なまでに客観視して、スーパードライなコメディを作り上げるのだから恐れ入る。
ちなみに、レナはお世辞にもスリムなボディとは言いがたく、どちらかといえばむしろドラえもん体型。しかし彼女は、そのまるっとしたボディをむき出しにして、前述の身も蓋もないセックスシーンを演じきる。その立派な太腿に、セルライトを走らせながら。そう、レナの凄さはそのセンスのみにとどまらない。実に「ええ根性しとる」のだ。
レナがやはり脚本・監督・主演している長編インディペンデント映画『Tiny Furniture』(2010)も拝見したが、そこには既に『GIRLS』と同じ「下手こいた系赤裸裸コメディ」世界が確立されていた。この映画がきっかけで、あのヒットメーカー、ジャド・アパトーが『GIRLS』の製作総指揮になったというのもうなずける。映画『40歳の童貞男』などの「バツの悪い系コメディ」を得意とするアパトーが、性別の差こそあれ、よく似たタイプの映像作品を作るレナに惹かれるのは、至極当然だと思えるからだ。
この若き才能が創り出す、とんがった笑いの『GIRLS』が、史上最強の女子ドラ『SATC』の人気を超えるのは難しいかもしれない。『GIRLS』はちょっとリアル過ぎて、『SATC』のように女子のファンタジーを見せてはくれないから。「せっかく現実を忘れようとドラマを観てるのに、なに現実に引き戻しとんねん!」と不快に感じる人もいることだろう。だが同時に、そのリアルさが共感を呼び、笑いを呼ぶ。私のようなオッサンには『GIRLS』のほうが面白いと感じるが、果たして世の女性陣はどうだろうか。
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