今年も残すところ1か月を切りましたね。今回は、この秋の新作ドラマの中で最も注目を集めたシットコムのひとつ、FOXの『The Mindy Project』をご紹介します。ミンディ・カリングというインド系アメリカ人のコメディ女優が、クリエイター兼主役を務めていて、その役名も同じくミンディ。その名のとおり、ミンディのプロジェクトというわけです。
ザックリ言えば、『恋人たちの予感』や『ノッティングヒルの恋人』などのロマンティック・コメディ映画を愛してやまない30代前半のヒロインが、自分もロマコメみたいな恋愛ができると信じて、理想のガイを探し求めるコメディです。ヒロイン、ミンディの職業は産婦人科医で、その職場とプライベートの生活が描かれるのですが、これがかなり破天荒でおかしい。たとえば、フラれた男の結婚式の披露宴をひっかきまわして去り、酒に酔った勢いで見ず知らずの他人の家のプールに飛びこんだり、上司から新しいナースの面接を任されたのはいいけれど、ロマコメ好きかどうかを採用の基準にしようとしたり、やることがいちいちハチャメチャ。ドクターとしてはデキるのに、恋愛は仕事のようにうまくいってくれません。
かなりの頻度でミンディのモノローグがあるのですが、これは『SEX AND THE CITY』のキャリーを彷彿とさせます。そしてミンディは、ものすごくおしゃべり。特に学生のときからの親友グエン(アンナ・キャンプ『トゥルーブラッド』『グッド・ワイフ』)と一緒だと、「これぞガールズトーク!」って感じです。『ギルモア・ガールズ』のような会話づくめのドラマが好きな人はハマるかも!? ミンディの少女的な声とガーリーな弾丸トークには、好き嫌いが分かれそうですが、私は嫌いではなく、むしろその回転の早さに感心します。ちょっとチャビー(ぽっちゃり)なルックスも万人受けはしないかもしれませんが、それがまたひょうきんさを増していて、チャームポイントになっていると思います。なんといっても、ヒロインがインド(系アメリカ)人なのが新鮮!
また、ミンディの同僚の医師をクリス・メッシーナ(『シックス・フィート・アンダー』『ダメージ』、映画『アルゴ』)が演じていて、何かにつけて対立する二人のかけあいが漫才っぽくて笑いを誘います。実はこの二人は秘かに惹かれ合っているんじゃないかという、ロマコメの定石的な要素も匂わせつつ...。さらには、ミンディをとりまくサブキャラたちが皆、バランスよくちょっとずつ変なのがいい。それがミンディのダントツの変さとの相乗効果をもたらして、エピソードごとにしっかり笑わせてくれます。
ミンディ・カリング??日本であまりなじみのない名前かもしれませんが、アメリカのエンタメ界では知名度急上昇中。大ヒットシットコム『The Office』米国版のシーズン1からライター・プロデューサーとして参加、同時にケリー・カプーアという役でオフィスの一員として出演もしています。最近では、『抱きたいカンケイ』『憧れのウェデイングベル(劇場未公開)』といったロマコメ映画にもなかなか印象的な役で出演しているので、見覚えのある人もいるでしょう。
24歳のときに始めた『The Office』では、ミンディが唯一の女性のライター(脚本家)で他の男性ライター陣とは仕事上、議論がたえなかったそうですが、同作品でエミー賞に脚本部門にノミネートされたこともある実力派。満を持して、『The Mindy Project』の製作に至りました。『The Office』ではいろいろ縛りがあってできないこともあったけど、今回は自分がボスという立場でのびのび作っているようです。
ミンディは、インドで生まれ育ちアメリカに移住した両親から生まれた、いわゆる二世。マサチューセッツ州で生まれ育った彼女は、インド系とはいえ、アメリカで教育を受け、アイビーリーグの大学を卒業しているアメリカ人です。『The Mindy Project』のミンディの職業は、産婦人科医をしていた母親からインスパイアされたものだとか。同コメディでは、その職場環境からも性的なことがオープンに語られますが、下品にならずどこか品があるところに好感が持てます。それはネットワークの番組だということもありますが、ミンディの育ちの良さからきているのでしょうか。
なにより、マイノリティーであるインド系アメリカ人女性が、初めて米国のTVシリーズの主役になったことが画期的。ミンディ・カリングはライターとしてはもちろん、クリエイター・コメディ女優としても才能豊かな人なので、アメリカで暮らす同じマイノリティーとしても応援していきたいです。
オー・ソレミヨ
Photo:ミンディ・カリング(c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net クリス・メッシーナ(c)Kazuki Hirata/www.HollywoodNewsWire.net