
今秋の新作ドラマは、コメディが不作と言われていますが、HBOで9月末に始まった『Hello Ladies』は、そのくくりには入りません。どんなコメディかざっくりいうと、ロサンゼルスに引っ越してきたイギリス人のウェブデザイナーが、女優かモデルのガールフレンドをゲットしようとするお話。
スティーブ・マーチャント主演の『Hello Ladies』
彼は豪邸ではないけれど、ハリウッドにプール付きのいい感じの仕事場兼家を持っていて、ゲストルームには売れてない女優がハウスメイトとして住んでいます。街には女優やモデルの卵がわんさかいるような土地柄。夜な夜なバーやクラブに友達と繰り出し、ナンパに励みます。そこで「Hello Ladies!」と声をかけるわけです。
しかしどうみても、ギークっぽいそのルックスにレディースたちは軽くひき、噛み合わない会話のあげくに逃げ出してしまう始末。主人公は、自分が言い寄る美女たちは自分には全く関心がないことに気づいていない、身の程知らずのアンポンタンなんです。彼は果たして素敵な彼女をゲットすることができるでしょうか?
このショーのクリエイターであり、主人公スチュワートを演じているのは、イギリス人のコメディアン、俳優、監督、ラジオパーソナリティとマルチなタレントを持つスティーブ・マーチャント氏。あのイギリス版『The Office』でリッキー・ジャーヴェイスと共同クリエイターであることで有名です。『Hello Ladies』は、彼の同名のスタンダップコメディを脚色したもの。かなりの割合で、自分のリアルライフの体験が入っているらしいのですが、だとしたら相当な自虐ネタのオンパレードです。身の丈2メートル越えのひょろひょろした長身に、黒ブチのメガネからのぞくギョロっとした目と身体に呼応するかのような長い顔。8:2分けの頭。そのルックスは、最初に予告編を見たときからキョーレツでした。これで「Hello Ladies!」と来られたら、やっぱりひきますね。いや、スタンダップコメディやトークショーに出ている時のスティーブは、そんなにおタクっぽくはなくもっとイケてます、念の為。
あくまでスチュワートをダサく演じているのですが、それが巧い。もう、ちっとも主人公に共感できません。むしろ嫌いな視聴者の方が多いのでは? というのも、スチュワートは周りの空気を読もうとしない質で、人の神経を逆撫でするような行動をしがちです。友情よりも「女の子をゲットしたい」という私欲に走りそうになることもしばしば。ルックスだけじゃなくて、性格もなかなか残念なヤツなんです。その残念さ加減が面白いのですが。
ブリティッシュアクセントを持つイギリス人の自分はイケていて、アメリカ人女性はみんな自分に興味をもっていると錯覚している厚顔なところが笑いを誘います。そしてその勘違いの結果、エピソードの最後には独りぼっちでさみしい思いをするというオチに。この哀れさや主人公の残念なところを笑えるかどうかで、このコメディの好き嫌いが別れるとは思いますが、私は好きです。また、スチュワートが狙う女優やモデルのキレイな子たちは、誰かのゴシップやファッションのことしか興味がなく、あんまり中味のない感じに描かれています。ハリウッドに集うワナビーちゃんたちの典型を揶揄しているところもおかしい。
そんななか、ハウスメイトのジェシカ(クリスティン・ウッズ『フラッシュフォーワード』)は、他の女の子たちとは違っています。三十路にさしかかり、女優としてぱっとしない自分のキャリアを見つめ直し、試行錯誤をしている様子が愛情もって描かれていて、共感できます。彼女はスチュワードが変にカッコつけずに話せる唯一の女性なのですが、お互いに恋愛対象としてはみていないようです。でもこの先、どんな化学変化が起きないとも限りません。
非モテ男が自分を顧みず、アグレッシブに高値の花にアプローチするという至極シンプルなプロットをどのように手を変え品を変えみせるのか、スティーブ・マーチャント氏のネタが毎回楽しみです。残念な主人公スチュワートも、エピソードが進むごとに、愛おしくさえ思えてきました。シーズン1は8話で終わったのですが、この先シーズン2があるのなら、スチュワートにハッピーなことが訪れるのか、見守りたいと思います。でも、うーむ、ハッピーにはなれないような...。(海外ドラマNAVI)