【米TV局に潜入!】『ニュースルーム』の看板番組を放送するACNにエア潜入!

アメリカの報道専門チャンネルを舞台に、日々世界中から届く事件がニュースとして放送されるまでの制作者の奮闘をスピーディな展開と台詞回しで描き、絶賛された『ニュースルーム』。今回は、これまではCWやLifetimeなど実在する放送局の魅力を紹介してきた「エア潜入」企画の番外編として、ドラマ内に登場する『ニュースナイト』を放送しているACNこと、アトランティック・ケーブル・ニュースに迫る。

 

登場する事件は本物、局は架空

毎回、実際に起きた世界的大事件を取り上げることによって、フィクションの世界をグッとリアルに感じさせてくれたこのドラマ。ウィル(ジェフ・ダニエルズ)をはじめとする登場人物や番組が実在しないことを残念に思う人は多いだろう。ACNはニューヨークを本拠地とする24時間報道専門チャンネルという設定だ。このACNの親会社は、キャラクター中最も派手なおばさま、レオナ(ジェーン・フォンダ)が息子のリース(クリス・メッシーナ)と率いるアトランティス・ワールド・メディア(以下、AWM)。ウィルを陥れる記事が掲載されたゴシップ誌『TMI』も同系列とあることからも、このAWMは多種のメディアを傘下にもつ複合企業体、いわゆるメディア・コングロマリットであることが予想できる。ちなみに、アメリカで『ニュースルーム』を放送するHBOやニュース専門チャンネルCNNも大規模なメディア・コングロマリットであるタイム・ワーナーの傘下にある。

架空の会社なので、ドラマに出てくるスタッフルームやスタジオ、ウィルの個室といったほとんどのシーンは、ハリウッドのスタジオに作られたセットで撮影されているとのこと。ただし、たまに空撮で登場するビルの外観やエントランスには、マンハッタンの42丁目にあるバンク・オブ・アメリカ・タワーが使われており、ウィルたちのスタッフルームはこのビルの25階にあるとされている。(ちなみに6thアヴェニューを挟んで東側には、HBOのオフィスがある!)仕事後にスタッフがよく行くカラオケバー『Hang Chew"s』も実在せず、この場所にはデリがあるそうだ。いずれもタイムズ・スクエア付近。世界中から観光客が集まる超有名な界隈を、制作スタッフたちもウロウロしている訳だ。

人気キャスターを据えたプライムタイム番組と安定した視聴率をもつニュース局

ACNが20~21時以外に放送している番組をチェックしてみると、次のようなものがあった。ウィルたちが出演したがらなかった朝10時の能天気な番組、昼と夕方に放送されるスローン(オリヴィア・マン)の短い市場レポート、『ニュースナイト』終わりの21時に始まるワシントンDCからのレポート番組、ドン(トーマス・サドスキー)がプロデュースするエリオット(デヴィッド・ハーバー)をアンカーに据えた『ライト・ナウ』、そしてスローンが名前を間違えたサンドラ・バーンハードの番組。これらは、視聴率の確保を優先させた平穏な番組として、それなりに経営陣を満足させているのであろう。『ニュースナイト』にしても、ノースウエスタン大での討論会以前はレオナが言う通り「肥満、乳がん、ハリケーン、高齢出産、iPhoneといった視聴者が好むネタを得意とし」中立の立場で伝えるが故、視聴率は安定していたことが伺える。

そこに、マック(エミリー・モーティマー)がエグゼクティブ・プロデューサーに就き、ウィルのジャーナリスト魂に火がついたことで、番組が180度方向転換。出演者にあいまいな回答を許さず、疑問をぶつけ、ビジネス相手を批判するように...。ACNの全番組をまとめてもAWM全収益の3%にしかならないそうだが、東部時間20時のプライムタイムにスタートするウィルの番組は、局の看板番組のひとつ。かつ、ケーブル局で2番目に人気のキャスターということもあり、社会への影響力が強いのだ。結果として、経営に支障をきたし始めたことがレオナを激怒させている理由である。

財産は、腹をくくったスタッフによる唯一無二のチーム

次は、この放送局に集まっている人について探ってみよう。とは言っても、ドラマの中で見られるACNスタッフは、ほとんど『ニュースナイト』の担当者だ。ミーティング時に会議室に集まるのは、ウィルやマックを含めて12人程度。ドジでパニックに陥りがちなマギー(アリソン・ピル)や、ロンドンの同時爆破事件に遭遇したことがきっかけでジャーナリストの道を選んだニール(デヴ・パテル)といった情熱任せな若手はさておき、中堅のジム(ジョン・ギャラガ―・ジュニア)やドン、「ウォール街で働けば20倍は稼げる」とウィルが認める才色兼備のスローンを見ると、基本的には企業人でありながらもかなりアグレッシブに仕事に取り組む人材が集まっていることに気づく。彼らには、いわゆる"なあなあ仕事"がない。これはやはり、ウィルの「ニュースナイト2.0宣言」に付いていくと心を決心したことによるところが大きいのだろう。

では、ウィルはなぜそこまで人を惹き付けるのだろうか?彼の人となりについて明かされている事は多くないが、カリスマの理由のひとつにはアンカーとしては変わった経歴の持ち主であることが考えられる。なんでも、ウィルはかつてレポーターやスピーチライターをしており、さらに前は優秀な検事だったらしい。これを聞いた時のリースの驚きぶりは印象的だった。

確かに、マット・ロウアー(トゥデイ、NBC)、ビル・オライリー(ジ・オブライアン・ファクター、FOX)、ブライアン・ウィリアムス (NBCナイトリー・ニュース)、ダイアン・ソイヤー(ABCワールドニュース)、アンダーソン・クーパー(アンダーソン・クーパー 360、CNN)といったアメリカの有名TVアンカーは、テレビ局でレポーターや制作スタッフとして報道におけるキャリアをスタートさせることが多い。

この違いこそ、しがらみや曖昧な見解を許さない姿勢や、刺さるような物言いがウィルに備わっている理由であり、チャーリー(サム・ウォーターストン)の思惑どおり"有権者の弁護士"として世を斬るに相応しい魅力になっているのだろう。(ちなみに、スピーチライターに至っては「パパブッシュのために働いていた」とマックがスタッフにバラしている!)

そんなウィルでも頭が上がらないのは、チャーリーである。蝶ネクタイに真っ白な髪をした一見温和な老人かと思いきや、声の大きさもぶっ飛び度もスタッフ中一番。ウィルとマックの稀な才能を信じ、視聴率重視の平穏な番組をつくるなと煽ったのも彼。一筋縄ではいかないメンバーをまとめ、どんな大問題が起きようが、どんなに経営陣がわめこうが、理想とする番組を放送するためなら何肌も脱ぐ姿はさすがのひと言だ。ウィルが思い切ったアンカーでいられるのは、チャーリーが報道局局長の座にいるからこそなのである。

半端でない情熱と信念をもった素晴らしいチーム。これこそがACNの財産である。が、しかし彼らもまた会社員。彼らと彼らがつくった番組を会社は理解するのか。シーズン2では、それがどう描かれるのか。まだまだ探るものにあふれた放送局である。(海外ドラマNAVI)

Photo:『ニュースルーム2』 (c)2013 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.