
海ドラ『サン・オブ・アナーキー』を大ヒットさせたクリエイターのカート・サッターが放つ14世紀初頭の英国ウェールズを舞台にしたこの歴史ドラマ。映画『ブレイブハート』を彷彿とさせる壮大さ、そして中世特有の混沌、野蛮さ、そして妖術的なファンタジー要素を絡め、欲望・野望・禁じられた恋・血みどろアクションがパッケージになった贅沢な作りのドラマだ。
『バスタード・エグゼキューショナー/ The Bastard Executioner(原題)』あらすじ
主人公はウィルキン・ブラトル(リー・ジョーンズ)。英国王エドワード2世の騎士として行軍中に奇襲攻撃を受け瀕死のケガを負う。薄れゆく意識の中で、味方であるはずのベントリス候とその側近が謀反の計画を話しているのを聞くがどうすることも出来ない。謎の女呪術師アノーラに救われたウィルキンは、生と死の狭間をさまよう夢の中で謎の少女から「刀を置き別の道を歩みなさい」というお告げを授かる。
アノーラのおかげで命拾いをしたウィルキンは、やがて農村のリーダー的存在となり、愛する身重の妻と平和な生活を送っていた。しかしベントリス候の課す法外な税にあえぐ村民たちの要請で仲間と共に税徴収の役人に攻撃を仕掛ける。怒ったベントリス候は、村に火を放ち女子供を問わず惨殺。妻とまだ見ぬ子供を失ったウィルキンは、流浪の死刑執行人に身をやつしてベントリス候邸の一員となる。妻子の仇を討つために他人に成りすまし罪人の処罰という名目で再び刀を握ることになったウィルキン。復讐に燃える彼の行方には予想だにしえない運命が待ち受けていた...。
英国ウェールズ一帯で撮影されているこのドラマは、14世紀初期の様子を見事に映像化し、映画も顔負けのプロダクションの質だ。出演者にも渋い演技派を揃え、筆頭に人気ドラマ『トゥルー・ブラッド』でお馴染みのスティーブン・モイヤーが狡猾冷酷なベントリス候の側近マイラス・コルベットを演じ、男の色気ムンムンで究極のスパイスを効かせている。そして女呪術師アノーラを演じるのが、クリエイターの奥方でもあるケイティ・セイガル。『サン・オブ・アナーキー』のジェマ役で日本の海ドラ・ファンにもすっかりお馴染みになった。
そして特筆したいのがベントリス候の妻を演じるイギリス女優フローラ・スペンサー=ロングハースト。慈悲深く美しい女性だが、気丈さを持つ姫を好演しており、男臭いベントリス邸内で一輪咲き誇る美しい花のような存在。彼女のおかげで、ただの残酷なアクションものではなく女性も大いに入れこめる番組となっている。
さて、劇中アノーラの傍にたえず仕えており、黒頭巾とマスクで顔も見えない死神のような男がいるのだが、この謎の男を演じているのは、なんと製作総指揮カート・サッター! この情報は、筆者がIMDBを見ている時に偶然行き当たったもので思わず笑ってしまった。彼は、舞台裏で手腕をふるうのみならず、自分の作る作品では必ずカメラの前にも顔を出す、スタン・リーのようなクリエイターだ(笑)
ちなみに、『The Bastard Executioner』のタイトルを日本語に直訳すると「私生児死刑執行人」というとんでもないタイトルになってしまうのだが、英語においても『Bastard Executioner』というタイトルは何とも耳障りが悪く、この筆者は当初、本作を見る気はまったくなかった。だが人間とは面白いもので、記憶にこびりついて離れなかったこの醜いタイトルを持つドラマが一体どんな代物なのか、妙な野次馬的根性が湧いてきてついつい第1話を見てしまったのである。その結果、みごと"罠"にはまってしまった。そして記憶に残るほどに聞き苦しいタイトルは、宣伝においてはむしろ好結果を招くという効果も学び、「マズそうでもとりあえず味わってみる」という食の定義がドラマの世界にも当てはまることを再認識したのである。
(取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)