
『レイ・ドノヴァン』を見るまで、「リーヴ・シュレイバーのことを知らなかった」、あるいは「知ってはいるものの、さほど印象になかった」という人は珍しくないだろう。20年以上ハリウッドで活動し、大作映画にも何度か出演しているが、そのほとんどが脇役であり、しかも強烈なキャラクターではなかったため、印象に残っていないのも当然かもしれない。ただ、それは彼自身に個性がないということではなく、演技を「静」と「動」という2種類のタイプに分けるならば、彼は「静」を得意とする俳優であり、これまで演じてきた役柄の多くは寡黙で、あまり感情を表に出すものではなかったからだ。今回はそんなリーヴの魅力について紹介していきたい。
リーヴ・シュレイバーの生い立ち
1967年にサンフランシスコで生まれたリーヴは、両親の離婚などもあり、幼い頃はサンフランシスコからカナダ、ニューヨークなどを転々とする。母親からカラー番組を見ることを許してもらえなかったため、幼い頃は喜劇王のチャーリー・チャップリンや、シャーロック・ホームズ役の俳優として知られるベイジル・ラズボーンのモノクロ作品を見ていたという。
そうした子ども時代の体験のほか、父親が舞台俳優であることも関係したのか、演劇の世界に興味を持つようになったリーヴは、ロンドンにある名門の王立演劇学校(RADA)やハンプシャーの大学で演技を学び、1992年にはイェールの演劇大学院で修士号を取得。もともとは劇作家志望だったが、教師から勧められて俳優の道を歩むことに。
そして27歳だった1994年、ノーラ・エフロン(『めぐり逢えたら』)監督作『ミックス・ナッツ/イブに逢えたら』で映画デビュー。ドリュー・バリモアとクリス・オドネルが共演した『マッド・ラブ』(1995年)などに端役として出演していた彼が初めて注目されたのは、1996年から製作された大ヒットホラー映画『スクリーム』。ネーヴ・キャンベル演じる主人公シドニーの母親殺害事件の犯人(後に無実と判明)、コットン・ウェアリーとして登場し、同シリーズの3作品に出演した。同じ1996年にはメル・ギブソン主演のサスペンス『身代金』で、彼の息子を誘拐する犯人グループの一人を演じた。そして1999年、TV映画『ザ・ディレクター [市民ケーン]の真実』で主人公のオーソン・ウェルズに扮し、ゴールデン・グローブ賞、エミー賞に初ノミネート。その後はベン・アフレックがCIA情報分析官ジャック・ライアンに扮した人気シリーズ『トータル・フィアーズ』(2002年)、デンゼル・ワシントン、メリル・ストリープ共演の『クライシス・オブ・アメリカ』(2004年)といった大作映画で重要な役を演じるなど、順調にキャリアを積み重ねてきた。ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンの腹違いの兄ビクターに扮した『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009年)、アンジェリーナ・ジョリーの上司を演じた『ソルト』(2010年)などでアクションにも挑戦。なお、2001年の『ニューヨークの恋人』でも共演したヒューとは親友だという。
故郷ウクライナへ
また2005年には、俳優以外の仕事に挑戦。ユダヤ系アメリカ人の若者が自分のルーツを辿るため、祖父の故郷であるウクライナに向かうという映画『僕の大事なコレクション』で監督・脚本を担当した。ちなみに、リーヴの母親はポーランド、ロシア系のユダヤ人であり、彼の名前「リーヴ」はロシアの文豪レフ・トルストイから取られたという説がある。彼はルーツを大事にしているようで、この監督作以外でも、ナチス占領下のポーランドを舞台にした『聖なる嘘つき/その名はジェイコブ』(1999年)や、第二次大戦下のベラルーシに実在したビエルスキ3兄弟の活躍を描いた『ディファイアンス』(2008年)でユダヤ人を演じている。
徐々に活躍の場を広げるリーヴは2006年、人気の犯罪捜査ドラマ『CSI:科学捜査班』にも登場。出張に行ったグリッソム主任の代理でラスベガスにやってきた捜査官、マイケル・ケプラーとして計4話でゲストを務めた。
そして2013年から『レイ・ドノヴァン』がスタート。ハリウッドでセレブが起こす数々のスキャンダルをもみ消すフィクサーという主人公を演じ、3年連続でエミー賞候補になるなど、高い評価を得ている。TVドラマの主演として忙しい日々を送りながら、映画の活動も続けるリーヴは、アカデミー賞作品賞に輝いた『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)をはじめ、『完全なるチェックメイト』(2014年)、『フィフス・ウェイブ』(2016年)などに出演している。
一方、舞台も数多く経験しており、1993年にブロードウェイで初舞台。シェイクスピアの戯曲「ハムレット」「マクベス」「ヘンリー五世」などで主役を演じた。2005年には、ピューリッツァー賞に輝いたデヴィッド・マメットの「摩天楼を夢見て」でトニー賞を受賞。アーサー・ミラーの「橋からの眺め」や「Talk Radio」で同賞候補となっている。
私生活では、2005年に交際を開始したパートナー、女優ナオミ・ワッツとの間に二人の息子をもうけている。もともとリーヴに憧れていたという彼女とは何度か共演しており、『メリーに首ったけ』の監督ピーター・ファレリーが企画した豪華キャストによるオムニバス・コメディの『ムービー43』(2013年)では夫婦役を演じた。
俳優には、自己を消して役になりきるタイプや、自分を役に投影するタイプなど、それぞれのスタイルがあるが、リーヴは「演技を通して自己を表現してきた」と語っている。『レイ・ドノヴァン』では敏腕フィクサーというこれまでとは違ったキャラクターを演じているが、華やかな世界ハリウッドで名が知られた存在という役柄でありながらも、レイは派手なことは好まず、妻や父との喧嘩でも感情を吐き出さずに胸の内にしまうという、これまでに演じてきた役柄に共通する要素を持っている。これはつまり、リーヴ自身の人柄を反映しているからなのだろう。あなたが彼の演じる役柄を魅力的に思ったなら、それは彼という人間に魅了されたということかもしれない。
(海外ドラマNAVI)
Photo:『レイ・ドノヴァン』シーズン2 (C)2015 Showtime Networks Inc. All Rights Reserved. (C)2015 "Ray Donovan" Showtime Networks Inc. All Rights Reserved.