ポアロの巨大な口髭が生まれた経緯が明らかに!『オリエント急行殺人事件』ケネス・ブラナー直撃インタビュー

ミステリーの女王として知られるアガサ・クリスティーの名作小説を、ケネス・ブラナー『刑事ヴァランダー』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』)監督・主演、豪華キャストでよみがえらせた映画『オリエント急行殺人事件』が、ついに本日12月8日(金)に封切られた。その公開に先駆けて来日したケネスを直撃! 口髭も内面も従来のイメージとは大きく異なる新たな名探偵エルキュール・ポアロの生まれた経緯や、作品の魅力、撮影の裏話について語ってもらった。

――なぜ本作の監督・主演を務めることにしたのですか?

ストーリーに感動したからだよ。その前に舞台でシェイクスピアの『冬物語』をやったんだけど、あの作品にも子どもの死がストーリーに深く関わっている。そういう、あることをきっかけに大きなカオスに発展するものをやりたかったんだ。

『オリエント急行殺人事件』は、知的な謎解きという面白さはもちろんある上に、登場人物も興味深いし、すでに原作の内容を知っていた僕が脚本を読んだ時に受けた驚きを観客も感じてほしいと思った。そして、人間がとても大きな喪失を味わった時、そこからどんなことが起きるかを語りたくて、この作品を作ったんだ。

――1934年に原作が出版されたこの作品は何度も映像化されている有名な題材ですが、今回あらためて映画化するにあたってプレッシャーはなかったのですか?

心躍る経験だったよ。『オリエント急行殺人事件』というタイトルからして魅力的だよね。ヨーロッパを走る夜行列車の中で殺人事件が起きて、閉鎖的な中でミステリーが展開するという設定も面白い。そして、65mmフィルムを使って撮影し、観客が実際に列車に乗っているような気分を味わえるような映像を作ったんだ。

それと、有名とは言っても、実際に読んでいる人は実はそんなに多くないと思うんだ。だから、ちゃんと描けば心情的に強烈なパンチのようなものを与えられる自信があった。誰がなぜ、どうやって犯行を行ったのかを解明しただけでは終わらない、もっと深いストーリーがあるんだ。観客に新たな驚きを与える余地があると思ったから挑戦したんだよ。

――撮影期間はどのくらいだったのですか?

クリスマスの時期を挟んで、約4ヵ月間だね。うち1ヵ月間で、キャストが全員集合したシーンを撮影した。その時はとても大変だったけど、同時に楽しかったよ。

 

――歴代のポアロ俳優に比べてひときわ大きな口髭は、EMPIRE雑誌のインタビューでクリスティーの意図に沿ったものだと説明されていましたね。完成までに9ヵ月費やしたという口髭を作り上げるにあたって、過去のポアロ像を参考にされましたか? また、唇の下にも鬚を付けた理由は?

実はこの作品を手掛けることになった時、アガサ・クリスティーの孫であるマシュー・プリチャードからまず最初に聞かれたのが、「髭はどうするのか?」だったんだ。そのくらい、ポアロというキャラクターに関しては髭が重要なんだよね。あの髭はバカバカしいと言われることもあるけど、ポアロは人と同じではいたくない性格だから、非常に目立つ口髭を付けているという理屈なんだ。

一時は自分で生やそうとも思ったんだけど、うまく生えてくれなくてね。そこで諦めて付け髭にしたんだけど、そういう試行錯誤もしていたことで9ヵ月かかることになった。口髭の形については、歴史考証的に正しいものにするべく、当時の絵画や写真など様々な資料を参考にしたよ。その中に、19世紀後半に描かれた肖像画の黒白のイラストがあって、ポーランドの騎馬隊の軍人が非常に立派な口髭をしていたんだ。まるで自転車のハンドルみたいな形のね。それをベースにして、僕に合っていて、どの角度から撮ってもいいようなデザインに仕上げていった。唇の下にも髭を付けた理由は、僕の唇がすごく薄い上に、その両端にえくぼみたいなものがあるから、観客がどこを見ればいいのかのポイントになるようにという意図からだよ。

――今回のポアロは単に謎を解く探偵というわけではなく、とてもシリアスで、人間くさくて悩む姿もありますよね。そんな彼が罪の解釈をめぐって「希望」という言葉を使っていますが、あのシーンにはどういう思いを込められたのですか?

複雑なテーマだよね。ただ、複雑であるというのは映画としてはいいことでもある。犯人の考えは彼の道徳心や法律に沿っていないので、ポアロは辛い決断を迫られるんだ。そういう矛盾を抱えたまま、彼はまたすぐ新たな事件に向かうという流れになっているんだよ。

――そういうポアロの人間的な面を描きたいという思いは最初からあったのですか?

そうだね。そこが彼の問題なんだ。

――この豪華な出演者たちをキャスティングする上で、基準となったのは?

それぞれの出番は長くはないから、短い出演時間でも印象に残るだけの存在感を持っている人たちをキャスティングしたんだ。最初に決まったのは、以前にも一緒に仕事をしたことがあるジュディ・デンチだった。彼女が出てくれるのは大きいんだよ。ジュディの出演作というだけで、「ちゃんとした真面目な、でも面白い作品」だと思ってもらえるから。ジョニー・デップもペネロペ・クルスもみんなジュディを尊敬しているから、彼女と共演したいと思ってOKしてくれたんだ。撮影現場でも、誰もジュディより後には来ないんだよ。彼女を待たせたくないからね。そのくらい彼女は中心的な存在だった。みんなからの敬意が手で触れられそうなくらい、リアルに感じられたんだ(笑)

先月ロンドンで行われたワールドプレミアでキャストが一堂に会したんだけど、各国の俳優がこうしたプロモーションで勢揃いするというのはすごく稀なんだ。彼らが撮影中に本当に親しくなって、また会いたいと思ったから集まってくれたんだよ。

 

――本作の最後で触れられる『ナイルに死す』は、本作の脚本家マイケル・グリーンが引き続いて執筆することが決まりました。再びあなたが監督・主演を務めると噂されていますが、本当ですか?

現在執筆中のマイケルとは今週会う予定なんだ。ぜひ今度も監督・主演をやりたいね。次は、ポアロの想い人であるキャサリンのことがもう少し語られる予定なんだ。あと、口髭についても面白いエピソードが出てくるよ(笑) こちらは『オリエント急行殺人事件』ほどには知られていない作品だから、もっと変える余地があるだろうね。だから今回以上に新しい要素を付け加えたいと思う。

――今後ずっとポアロを演じるとしたら、ほかにはどの作品を手掛けたいですか? 例えば「アクロイド殺し」はいかがでしょう?

「アクロイド殺し」はヒネリがあって、すごく面白いストーリーだよね。クリスティーにとって最初のベストセラーになった作品なんだ。そして非常に英国らしいストーリーだよね。あと、原作ではポアロがちょっと地味なのでどうしようかな。田舎に引っ込んでキュウリを育ててるなんて役だから。ただ、ストーリーは面白いよね。とはいえ、『ナイルに死す』はすごい映画になると思うよ。

――年を重ねるごとにさらに素敵になっていらっしゃいますが、その秘訣は?

(爆笑) 10年くらい前からヨガとメディテーション(瞑想)を行っている。すごく役立っているよ。あとは運に恵まれていることかな。自慢しているように聞こえたら謝るけど、今年、2本の65mmフィルム(『オリエント急行殺人事件』と『ダンケルク』)に出演した俳優は僕だけなんじゃないかな。今度の日曜(12月10日)に57歳になるんだけど、そんな年齢で世界で公開される映画で主演・監督を務めたなんてラッキーだよね。この先はこんなにうまくいくわけじゃないかもしれないけど、とりあえず今のところはハッピーだよ。

――最後に、これから作品を見るファンに向けてメッセージをお願いします。

『オリエント急行殺人事件』はディテールにこだわって時間をかけて作った作品で、ミステリーだが、心に訴えるドラマでもあり、ラストにはサプライズも待っている。心揺さぶられる展開は多くの好意的な反応を呼んでいるから、そんな感動的なストーリーが日本のファンにも受け入れてもらえればと思うよ。

 

『オリエント急行殺人事件』は大ヒット公開中!
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Photo:
ケネス・ブラナー
『オリエント急行殺人事件』
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation.