アメリカ最新ドラマ『9-1-1』は、予告編を見た時からありきたりのファイヤーファイターのドラマとは印象が違った。まずPR用のポスターがいい!
ユニフォームを着た登場人物たちが前面に出ているものではなく、大きな観覧車から人が宙づりになっているというデザインだ。そして予告編も、ビルの屋上から飛び降りようとしている人を懸命に説得しようとしている消防士の目の前で飛び降りてしまう女性。こちらもかなりショッキングでポスターと予告編を見て、このドラマがどういう展開になるのか知りたくなった。
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ドラマの軸となるのは救命オペレーターのアビー (コニー・ブリットン『スピン・シティ』)だ。彼女が受ける数件の救急コールを中心に、それに関わる消防士たち(アメリカでは消防士が救命隊員も兼ねている)、そしてロサンゼルス市警巡査のアテナ(アンジェラ・バセット『アメリカン・ホラー・ストーリー』)が物語の主要メンバーとなる。救急センターのオペレーターが、ドラマで主要キャラクターとなったのは今回が初めてではないか。救急オペレーターの良し悪しは往々にして患者(あるいは事件の渦中にいる者)の命を救うか否かの決め手となる。
『9-1-1』の製作総指揮を担っているのは現在ハリウッドで最もホットなプロデューサーといっても過言ではないライアン・マーフィーだ。先日行われたTV批評家協会主催のジャンケットインタビューでマーフィーは、自分の幼い息子が真夜中に呼吸困難に陥りその時にお世話になった救急隊員の活躍ぶりに感銘を受けてこのシリーズを思い立ったと語っている。マーフィーと聞いて思い出すのは『アメリカン・ホラー・ストーリー』や『スクリーム・クイーン』など、かなりグロテスクでギラついたドラマを想像してしまうが、『9-1-1』においては、「見ていて元気が出るものを作りたかった」と語っている。
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個人的に、『9-1-1』を非常に気に入っている理由のひとつに、見たあと必ず気分がいいドラマであるという要素が大きい。それぞれのキャラクターが日夜救命活動に励むいっぽうで、自分の家庭や個人の中でも様々な問題を抱えている。でも毎回のエピソードで必ず前面に押し出されるのが、そんな過酷な状況の中にも、何かしら、誰かしらが救いの手を差し伸べてくれているという部分だ。救いが必要な本人が、伸ばされている救いの手にすぐ気がつかないことも多いのだが、それだけに気付いた時の感動は大きく、見ているこちらまで涙してしまう、というエピソードも少なくない。
ソリッドな脚本に加えて、キャラクターを演じる俳優陣も素晴らしく、これも『9-1-1』を見る上での醍醐味だ。消防署を仕切り、部下の信望も厚いキャプテンのボビー役にピーター・クラウス。タフで冷静沈着な外観とは裏腹に心に大きな傷を抱えており、それを紛らわすために過去に陥ったアルコール依存症と現在も日々戦っているという役どころだ。日本の海外ドラマファンには『シックス・フィート・アンダー』のネイト役でおなじみのクラウスは、多くを語らずとも瞳で演技が出来る優秀な俳優なので、ボビー役で注目を集めること請け合いだ。
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また主要キャストで、LAPDのやり手巡査アテナを演じるアンジェラの存在も大きい。劇中では子ども二人と優しい夫に囲まれキャリアも順調に見えて幸せそうなアテナだが、夫がゲイであることを告白したことから、それまでの平和が崩壊していくという窮地に立たされる。強くももろい女。こういったキャラクターはアンジェラの十八番といってもいい。彼女は『アメリカン・ホラー・ストーリー』でも顔を見せていたのでプロデューサーのマーフィーもアンジェラの才能に惚れ込んでいるようだ。
『9-1-1』にはこのほかにも一癖ある魅力的な登場人物で彩られている。新米消防士"バック"(オリヴァー・スターク『バッドランド ~最強の戦士~』)は、日本でも人気が出そうなイケメンキャラ。シーズン冒頭では生意気な女たらしだったが、キャプテンのボビーに根性を叩き直され、同時期に救急オペレーターのアビーと知り合うことで人間的に成長していく。第1・2話では手のつけられない横柄な若僧で大嫌いだったが、今ではアビーのおかげですっかりいいヤツになった。
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番組唯一のアジア系俳優で個人的にエールを送っているのがケネス・チョイ。これまでにも『キャプテン・アメリカ』などのマーベル作品から最近の『アメリカン・クライム・ストーリー』でO・J・シンプソン事件の渦中にいた実在の裁判長ランス・イトーを演じた有名な性格俳優だ。『9-1-1』では"チムニー"役。頼りになるし気はいいのだがお喋りで道化役だ。
唯一の女性消防士"ヘン"ことヘンリエッタ(アイシャ・ハインズ『アンダー・ザ・ドーム』)は、巡査のアテナと親友。服役中の前妻との間に息子が一人いる。現在はヘンも別の女性と幸せな家庭を築いているが、前妻の仮出所を境に幸せが揺らぎ始める。『9-1-1』では、こういった様々な人間模様がモザイクのようにキレイに絡まっており、視聴者として感情移入が容易にできるのである。
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毎週扱われる救急事項は本当にあったことを参考にしていると聞いたが、事実は小説よりも奇なり、よくもこんな事が起きるものだという事件ばかりで、毎回どんな珍事が紹介されるか楽しみになる。ただ救急救命の様子を描くだけではありきたりなドラマになってしまうところだが、素晴らしい俳優陣に秀逸な演出と脚本が揃っている『9-1-1』は、大人気を博すべくして博している番組と言える。