主人公は本当に無罪か?釈放された男、妻殺しの真犯人は...英国ミステリー『Innocent』

『Innocent(原題)』は、イギリスITVで5月14日から4夜連続で放送されたミステリードラマ。妻を殺した罪で7年間を刑務所で過ごしてきたデヴィッド(リー・イングルビー)が、無実判決を受けて釈放される。しかし、警察は依然として彼が怪しいとの声明を発表。果たしてデヴィッドは妻に手にかけたのだろうか? 本作はフーダニット(Who done it?の略。「だれがやったか」の意)としての脚本の弱さが気に掛かるものの、キャストの名演技がそれを補っている。

◆主人公は罠にはめられたのか? 妻の殺害をめぐるミステリー
刑務所から釈放されたデヴィッド。しかしそれは法律上の細則を適用して実現したもので、彼が無罪かどうか、本作では明かされていない。警察は、彼こそが犯人だと声高に発表している。それも当然で、デヴィッドのコートから被害者の血痕が確認され、友人にアリバイの口裏合わせを依頼していたことが判明するなど、彼の行動には疑わしい点が多い。

ただし、警察側の捜査にも落ち度があったことが明らかになる。デヴィッドが犯人でないと仮定した場合、他に怪しむべきは親戚のアリス。事件当夜にデヴィッドの妻タラと口論をしていたことが発覚し、容疑者として急浮上する。かねてからアリスは子どものいる家庭を夢見ていた。事件以来、デヴィッドとタラの子ども二人を預かる彼女だが、タラを殺した上、デヴィッドを陥れてその子どもを引き取り暮らすことが動機なのだろうか...。デヴィッドの親友であるはずの産婦人科医も明らかに隠し事を抱えているなど、登場人物の誰もがクロに近いグレーといった印象を受ける。

◆ヒントを探る醍醐味が...脚本に難
惜しまれるのは、ミステリーの生命線とも言える脚本が、本作では期待される水準に届いていない点だ。ストーリーからヒントを取捨することこそがミステリーの醍醐味だが、偽の手がかり"レッドへリング"が露骨過ぎるため、その役割を果たしていないと英Telegraphは指摘する。手がかりの多くが物語と融合せず不自然に提示されていたり、登場人物の性格がシーンごとに変貌するなど、視聴者を動揺させようとする意図が見え透いていると酷評する。しかし、この点に関しては好みも分かれるようで、英Mail Onlineではうまく視聴者の心を揺さぶっていると評価。頻繁に転換するストーリーをある程度許容できるならば、誰もが怪しく思えるフーダニットの正解を楽しめるかもしれない。

◆キャストの支えで及第点
先述のように脚本への注文は多いが、それを補っているのが俳優陣の演技力だ。特に主演のリーへの評価は高い。精神的に不安定になったデヴィッドが次第に暴力に訴えるようになる様子は視聴者の感情を揺さぶり、リーの強烈な演技には不安を覚えるほどだと、Telegraphの批評家は語る。英Times紙は印象的な場面として、明らかに無実に見える友人をデヴィッドが詰問する、狂気漂うシーンを挙げる。恨みに満ちた髭面のデヴィッドは、リーの白熱した演技でリアリティーのある登場人物に仕上がっている。オリジナリティーにあふれたドラマではないが、キャストの名演技に救われていると一定の評価を与えている。

ミステリーとしてまだまだ足りない点は多いかもしれないが、暑さも近づくこれからのシーズン、殺人鬼をめぐる憎悪のドラマにひと時の涼を求めるのも良いだろう。(海外ドラマNAVI)

 

Photo:リー・イングルビー
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