FOX系列のFXが贈る『Pose(原題)』は、LGBTQコミュニティを中心に据えたミュージカル・ドラマ。弱い立場の人々が希望を取り戻すそのストーリーは、誰しもが引き込まれる普遍性に満ちており、力強いパフォーマンスと華やかなダンス・シーンも見逃せない。
■居場所のない者たちが光を求めて
オープニング・シーケンスは、非常に風変わりだ。優雅な雰囲気をまとう歌姫エレクトラ・アバンダンス(ドミニク・ジャクソン)と、「チルドレン」と呼ばれるLGBTQメンバーたちは、博物館から王室の衣装を盗み出す。彼らが向かった先は、ボールルームと呼ばれる舞踏室。突然の乱入に大衆が悲鳴をあげる中、当時流行していた曲、In My Houseに乗せ、誇らしげにリズムに身を任せる。
本作では、2つのハウスが互いに火花を散らす。ハウスとは、LGBTQ(LGBTにさらに広範囲の概念を加えた呼び方)のダンス・チームを意味する。伝統あるハウス・オブ・アバンダンスに対抗心を燃やすのは、新進気鋭のハウス・オブ・エヴァンジェリスタ。80年代という時代背景もあり社会から歓迎されていない彼らだが、ひとたびボールルームでステップを踏めば、誰もが息を呑むようなパフォーマンスを発揮するのだった。
■希望の物語
ハウスを率いる「ハウスマザー」の役割は、LGBTQの人々の支えとなり、彼らの夢の実現をサポートすること。青年ダモンは、同性愛者であると両親に知れたことから住処を失いつつも、権威あるダンス・アカデミーへの入学を志している。他にも打倒ハウス・オブ・アバンダンスを掲げるブレンカとその仲間たちなど、明確な目標に突き動かされるキャラクターたちが数多く登場する。
米Entertainment Weeklyでは、風変わりなキャラクターが顔を揃えるにもかかわらず、そのストーリーは普遍的で受け入れやすいと評価。野望、他者からの承認、愛、そして家族などをテーマにした物語は、誰の心にも強く訴えかける。
彼らの抱く希望が視聴者の胸を打つのは、ドラマ内の世界観がしっかりと掘り下げられているためだ。製作局FXの発表によると、本作はフィクションのドラマ・シリーズとしては最多のLGBTQキャストを揃えている。米Hollywood Reporterでは、本作がありふれた作品に終わっていないのは、LGBTQが直面する問題を詳細に描いているからだと分析している。エイズ検査や、性転換手術の手順、男性が性転換した元男性に惹かれる要因など、詳細な情報がドラマに真実味を加えている。
本作のプロデューサーは、『Glee/グリー』などで知られるライアン・マーフィー。これまでにも難しい立場に置かれた人々に光を当て、ドラマを通じて彼らの状況を好転させる作品づくりをしてきた。今後は、Netflixに注力することからFXでの製作は本作が最後になるが、その幕引きにふさわしい作品だと米Varietyは評価している。
■力のこもったダンス・シーン
本作の見所となるのは、息を呑むようなダンス・シーン。特に新入りのダモンがバレエのピルエットを披露するシーンでは、キレのある振り付けもさることながら、彼自身のダンスへの情熱が主役となるよう細心の注意が払われた。完成した映像はまさに圧巻。感情がほとばしる洗練されたショットに、Hollywood Reporterは「これまでで最も幸福に満ちたリアリティー・ショー」にも感じられると述べている。なお、本作では、ダンサーと女優に加え、実在のLGBTQによるハウスが振り付けを指導している。
ボールルーム以外のシーンでも、卓越したキャストの演技は必見。Entertainment Weeklyは、新参ながらブレンカ役で自然な動きを見せるMJ・ロドリゲスなど、注目のキャストをピックアップ。トニー賞受賞俳優のビリー・ポーター(『ブロークン・ハーツ・クラブ』)は、ハツラツとしたデザイナーでありながら私生活ではAIDSの初期症状と対峙するという、演技の幅が試される役に挑んでいる。話題のテーマを取り入れるだけでなく実在のコミュニティの協力を得て作られた本作は、リアリティと普遍的なテーマが視聴者の心に訴える作品だ。(海外ドラマNAVI)
Photo:ドミニク・ジャクソン
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