緊迫したシーンが続く社会派犯罪ドラマ『ライン・オブ・デューティ』を手がけたジェド・マーキュリオの製作・脚本による英BBCドラマ『ボディガードー守るべきものー』は、人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スターク役で知られるリチャード・マッデンが主演。リチャードは、PTSDに苦しむ元軍人の警察官で、英内相ジュリア・モンタギュー(『ライン・オブ・デューティ』のキーリー・ホーズ)の要人警護任務に抜擢されたデイビッド・バッドを演じている。米Entertainment Weeklyのインタビューに答えた彼が、演じるキャラクターや役作り、撮影の舞台裏、そしてデイビッドは不運なスターク家の人々を守るのに適しているか?などについて語ってくれた。
(本記事は『ボディガードー守るべきものー』の重要なネタばれを含みますのでご注意ください)
――もともとこのドラマのどんなところに引きつけられたのでしょうか?
そうだね、まずジェドとトマ(・ヴァンサン監督)と会って話をしたんだ。第1話から3話までの台本を受け取ると、まとめて一気読みして、終わったらすぐにまた初めから読み直すという具合だった。良い台本を受け取った時には"次に何が起こるか知りたいし、台本を置くこともできないから、この仕事はぜひやりたい"という感じになるんだ。だからこれはとても良い兆候だった。(残る)第4、5、6話の台本は撮影が始まった後で受け取ったから、当初は僕自身も次に何が起こるか知らないという状態だったよ。
――では、撮影が始まった時には全部の台本を読んでいなかったんですね。こういうドラマでは、自分の役がどんな運命をたどるか知らない方が良かったりしますか?
今回は役に立った。後に起こることに対して準備していたのではなく、ただ飛び込んでいったような感じだったからね。第3話の撮影をしていた時、監督から「誰が犯人か知りたい?」と聞かれたけど、僕は「言わないでくれ!」と答えた。手がかりをたどっていくことが実に面白かったね。
――でも時にはデイビッドが悪者になるんじゃないかと心配になりませんでしたか?
(笑いながら)いや、両方の要素を演じるのを楽しんでいたよ。それがこういうやり方で撮影する面白味だと思う。つまり、常に二つの要素を演じることができるんだ。
――ドラマには当然のことながら政治的な内容もありました。過激な政治見解や対立、監視、一般市民の不安など、時事問題に関連あるテーマを扱っていたのも、あなたにとって魅力の一つでしたか?
僕にとっては、キャラクターがすべてだった。デイビッドが持つ二分性にとても惹かれたんだ。彼は常に自分自身と闘っている。政治的な見方や意見はひとまず置いておいて、これは純粋に一つのドラマであると考えた。このドラマは現在の状況に関連するたくさんの問題に触れている。特に個人データを監視することを可能にする法案について、例えば他人の携帯電話のメッセージや電話の内容にどれほど関与することができるかについて、ほとんど毎日のように話題にのぼっている。だから、こういう問題にも触れているんだ。
――第1話の冒頭での20分間に及ぶ列車内のシーンについて聞かせてください。撮影は順番に行われたのですか? どのようにあのシーンに臨んだのですか?
実はあのシーンは偶然に起きた思いがけない出来事だった。もともとは、ロンドン中心部にある地下鉄駅が舞台のはずだったんだ。でもその場所でロケすることに問題が起きて、コンセプトを全部変更しなければならなくなった。それで地下鉄ではなくて、ロンドンに向かう途中の列車の車内で起きたという設定になった。実際この設定で素晴らしかったと思う。よりわかりやすくなって、ロンドンというより英国全体の問題になったから、それによって視聴者を惹きつけることになった。
5カ月間に及ぶ撮影の最後にあの列車のシーンを撮影したんだ。僕にとっては好都合だった。第1話と第2話の時点では、視聴者はデイビッドについてあまり知らないということが僕にはわかっていた。つまり、撮影の最後に、最初のシーンに戻って、デイビッドに人間性を吹き込む機会を得たんだ。その20分後、デイビッドは自分をしばらくシャットダウンして、視聴者は彼がどんな人間であるかをほとんど見ることができないということもわかっていたからね。こんな風に、物事が僕たちに有利に働く時もあるんだ。
――列車内でのシーンは、デイビッドにとってとても強烈で陰鬱なシーンの一つでした。このような撮影の後は、どのようにその気分から抜け出すのですか?
そのままの状態だよ。僕はメソッド演技法をやる俳優ではないけど、誰か他人の服を着て、他人の思考で考え、他人の言葉を話して、12時間過ごしたりしたら、そうなる...。
――しかも血をかぶっていて...。
そう、血まみれ! そうなると、自分の中にすっかり染み込んでしまって、それから抜け出すのはとても難しいし、僕はそうした切り替えがあまり得意じゃないんだ。撮影中、そのシーンの緊張感を生み出して維持するためには、ある意味、その精神状態のままでいる必要がある。だから仕事が終わってから1、2カ月間かけて自分自身を少しずつ取り戻していくようにしている。そのキャラクターに専念している時は、そういうことを忘れてしまう。喜劇ではないんだよ。
――ソーシャルメディアで伝えられたところによると、ジュリア役のキーリー・ホーズと共演したことで撮影中の雰囲気が軽くなったようですね。
その通り。常にシリアスになっていると、一日のどこかで笑ったり、何か楽しいことをする時間が欲しくなる。何せ一日中とてもへヴィーだからね。ラッキーなことに、キーリーとはまるで子どものように一緒にふざけてばかりいた。彼女がいてくれて良かったよ。それまでキーリーのことは全く知らなかったけど、初日に二人で、このドラマがどのようになるか、一緒に何を作り上げるのかについて話し合ったんだ。とてもエキサイティングだったよ。
――キーリーはとても素晴らしかったです。それから他の強い女性キャラクターたちも。デイビッドの妻ヴィッキー役のソフィー・ランドルの演技がとても好きでした。静かながらも断固とした意思をもって、第6話に不可欠な存在になりました。あのシーンについてはいかがですか?
最終回のシーンも気に入っているよ。それまで、デイビッドのある一面しか見えなかったが、あそこで彼の別の面を見ることができる。多分、ヴィッキーと一緒にいる時のデイビッドが、本来の彼の姿に一番近いんじゃないかな。一緒にいる場面があまりない中で、僕たちは夫婦間の長い歴史を築き上げなくてはならなかった。ドラマの中ではソフィーよりキーリーと一緒にいる時間が長かったけど、ヴィッキーとデイビッドの関係はもっと長く深いものであるから、二人でそれを作り上げていかなくてはならなかった。ソフィーは色々と機敏でなくてはならなかったけど、それを達成することができたと思う。
――このキャラクターを演じるにあたり、どのような準備をしましたか?
このような仕事をしている人たちは、自分の仕事のことを話したがらないから、少しばかり難しかった。反面、それによって、ジェドと一緒にクリエイティブになって、デイビッドを作り上げることができた。ジェドが一日中、撮影場所にいてくれて良かったよ。文字通り、彼の方に振り返って「どう思う?」って聞いて、一緒に決めることができたからね。そして自分の体調が最高である必要もあった。(アクションが多い)撮影の性質や長時間に及ぶ撮影だったからね。冬の間、寒いロンドンで一日15時間かけて撮影した。それって身体的にとても消耗するんだ。軍事アドバイザーがいて、銃の持ち方や部屋の確認方法を教わった。要人警備ではどのように車に乗り込むかなど、とにかく小さなことまで教えてもらったよ。こういった細かいディテールまで現実的になるよう心がけたんだ。
――どのシーンでも首を動かして何回も前後を確認してましたが、首が疲れませんでしたか?
(笑いながら)ああ。それから目の演技もたくさんあったね。
――撮影後も、部屋の中を見回して確認したりといったことを実生活で続けたりしませんでした?
自分で思ったほどではなかったよ。あまりにもたくさんやり過ぎたから、元に戻るのはとても良かったよ。あんなに猜疑的になる必要がなくなったからね。
――デイビッドは(あなたの出身地である)スコットランド訛りでしたね。これはあなた自身の選択だったのですか?
ああ、僕が決めたことだった。デイビッドは入り込むのがとても難しいキャラクターだったから、スコットランド訛りは色々な感情に素早く自分が入り込み、視聴者も迅速に僕とつながることができたという点で、とても役に立ったと思う。そもそもデイビッドは口数が少ない人間だし、彼にスコットランド訛りを話してほしかったんだ。作品の中で自分自身のアクセントを使うことはほとんどないから、観ている人たちがそれでも僕を理解していくれるということを試す良いチャンスだと思った。別に訛りを使ってもいいだろう? とにかく一つ考えることが少なくなるわけだし。
――英国での評判は大変なものでした。英国人の家族や友人が入っている多くのチャット・グループは本作が放送される日曜の夜になると大いに盛り上がっていたようですが、毎週のように会話のネタになるのはどんな気持ちでしたか?
とてもエキサイティングだったよ! 毎週みんなが一緒に待っているという経験をその前に味わったのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』だった。面白いことに、『ゲーム・オブ・スローンズ』ではたいてい「次に何が起こるか教えてくれ!」と言われたけど、『ボディガード』では「何も言わないで!」と言うんだ。もう1週間わくわくしながら待って、次のストーリー展開を知る。すごくいいよね。週の間にみんながドラマの話をして、みんなで分かち合うという、素晴らしい時間の一部になることができた。Netflixで配信される時には少しばかり状況は違うけど、みんなが一気に観て、同じようにお互いに語り合うことができるように願っているよ。
――続編のシーズン2を作ってほしいですか? 個人的には、可哀想なデイビッド・バッドをそっとしておいてほしいとも思うのですが。
彼にさらなる試練を与えることができるのか? どんな風に試練を与えるのか? ジェドと話をしなくてはならないね。デイビッドはかなり大変な2カ月間を過ごした。デイビッドは魅力的なキャラクターだし、ジェドが何を書くかは見当もつかない...。でもどうやってキーリーを生き返らせたらいいのかな。
――その通りです。第3話にして彼女のキャラクターを殺してしまうという大胆なアイデアが良かったです。
本当だよ。僕も面白いと思った。そう、彼女を殺してしまおうってね。僕たちは"ええええ?"という感じだったけど、製作陣はさらりと、彼女は戻ってこない、これで終わりだって決めたんだ。だから彼女は死んでしまった。
――彼女が死んで嬉しいというのもひどい話ですが、もしも最後のどんでん返しで彼女が実は死んでいなかったという結末になっていたら、すごく嫌だったと思います。
そうなってたら、つまらなかっただろうね。全くつまらない結末になっていた!
――もしデイビッド・バッドが『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スタークのボディガードだったとしたら、ロブはレッド・ウェディングで生き残れていたでしょうか?
うーん、どうだろうね、わからないな。デイビッドは少しばかりダメなボディガードだと思わないかい? 結局、内相は死んでしまったんだから。だから、デイビッドがロブ・スタークにとって良い存在になっていたかどうかはわからない。でも、もしかしたらね。
――ロブはかなり不運でしたが、本作で学んだスキルが同じようなキャラクターを演じることに役立つと思いますか? 例えば、ジェームズ・ボンドとか?
(ジェームズ・ボンドをめぐる候補者の)話の中に自分の名前が挙がっただけでも嬉しく思うけど、今の時点では僕も何もわからないんだ。ただとても嬉しいよ。
――そうですか、もしボンドを演じることになったら、ぜひスコットランド訛りでしゃべってください。
(笑いながら)ありがとう。
リチャードは来年夏に全米公開予定のミュージカル・ファンタジー映画『Rocketman(原題)』で、タロン・エガートン演じるエルトン・ジョンのマネージャーであり恋人でもあったジョン・リード役にキャスティングされている。TV&映画界を股にかけた彼の益々の活躍を期待したい。
大ヒット話題作『ボディガードー守るべきものー』(全6話)はNetflixで配信中。
(翻訳/Yoshie Natori)
Photo:
『ボディガード ー守るべきものー』 (C) DESWILLIE
『ゲーム・オブ・スローンズ』
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