2016年に行われた英国民投票により、イギリスのEU離脱(ブレグジット)がすでに決定したのは有名だ。しかし、離脱への投票を促すキャンペーン「Vote Leave(ヴォート・リーヴ)」の裏で暗躍した一人の政治戦略家の存在はあまり知られていない。データを武器に陣営を勝利に導いた政治アドバイザーのドミニク・カミングス氏に、英Channel 4で1月7日(月)に放送された『Brexit: The Uncivil War(原題)』が迫った。
♦知られざる攻防
キャンペーン主導者のドミニク(ベネディクト・カンバーバッチ)とその実行メンバー、そして敵対陣営との攻防をドラマは描く。ドミニクは、ハイド・パークに秘密裏に赴き、カナダ人技術者から300万人分の有権者の情報を入手。一貫してデータを重視する作戦を展開し、有権者が離脱賛成票を投じるよう誘導してゆく。しかし、キャンペーンの運営メンバーは議会の秘密委員会に目を付けられ、会議に呼び出された上に激しい叱責を受ける。ドキュメンタリーではなくあくまでドラマであり、多少の脚色はあるものの、両陣営が長期にわたって展開したキャンペーンをスリルたっぷりに描いた一本だ。
離脱派のボリス・ジョンソン(リチャード・グールディング)や同じく離脱派のマイケル・ゴーヴ(オリヴァー・モルトマン)など、実在の議員役が登場するのも特徴。政治がテーマだが決して終始お堅い内容というわけではなく、大物政治家たちのちょっとした行動が緊張のなかにも笑いを誘う。楽しく観られる陽気な100分間になっている。
♦スリリングかつ興味深い一本
投票の背後に迫るスリリングかつ愉快なドラマだ、と英Telegraph紙は講評している。離脱賛成が過半数を占めたという投票結果は誰もが知るところだが、作品ではなぜ「Vote Leave」陣営が勝利に至ったかという経緯を丹念に解き明かしている。SNS上で展開したキャンペーンも大きな勝因の一つ。その巧みな戦術はまるで魔法を見ているようだ、と同メディアは驚きを隠さない。
現在のイギリスでは、EU離脱の決定を後悔している国民も多い。そんな事情を念頭に英Times紙は、陽気で楽しいドラマだが、悲しい現実を思い出さずにはいられない作品でもある、と鑑賞後の不思議な余韻を表現。それでも総合的には明るい作品に仕上がっているのは、脚本のなせる技だと述べている。ブレグジットの物語を愉快なドラマにするというのは、無理難題と言っても過言ではないほど骨の折れる作業。本作では政治への皮肉を交え、まるで風刺画のようなスタイルを取り入れることにより、政治ドラマを愉快に演出するという大技を見事に決めている。
♦ベネディクト、またも好演
主役のベネディクトは人気俳優ながら、本作の役作りで前頭部の毛髪をすべて剃り上げたことでも話題となった。失われた頭髪にTimes紙はまだ不満がある様子だが、それでも彼の演じるドミニクは素晴らしい仕上がりだ、と評価している。皮肉屋でいつも政治家をあざ笑うかのような態度を取るドミニクだが、その手腕は確かなもの。データ分析を武器に保守派を中心としたブレグジット推進陣営をまとめ上げ、頭脳プレイ一本で陣営に勝利をもたらした。
常に自信に満ちたドミニクという人物を、ドラマ内でベネディクトは見事に再現している。観ていると心を掴まれる、とTelegraph紙は心酔。ときには過去に演じたシャーロックのような威厳ある態度で、周囲の人物が増長しないよう巧みなコントロールを効かせる。かと思えばカメラ越しに視聴者にウインクを送ったりと、コロコロ変わるその表情は魅力的だ。
ベネディクトの代表作『SHERLOCK シャーロック』は、日本でもNetflixで視聴可能。(海外ドラマNAVI)
Photo:ベネディクト・カンバーバッチ(C)JStone / Shutterstock.com