新型コロナウイルスの蔓延をテーマに今年1月から3月までカナダで放映され、そのあまりにもタイムリーでリアルな内容から「現在の世界を予言した」として大ヒットしたウイルス・パニックスリラードラマ『アウトブレイク ―感染拡大―』が配信中だ。感染症のスペシャリストであり、緊急衛生研究所の所長であるアンヌ=マリー・ルクレール博士は、伝染性が高い未知のウイルスの存在にいち早く気づき、その正体を掴もうと奔走するが...。主演のジュリー・ルブレトンを直撃し、作品の魅力や現実との驚きのシンクロについて語ってもらった。
――この作品に惹かれた理由は?
初めてこの企画のことを知った時、実は別の女優が主演する予定だったの。私はオーディションに向けてしっかり準備して万全の体制で臨み、いい手ごたえを得たわ。この主人公はとても複雑で、これまで自分が演じたことがないようなキャラクターだった。彼女は仕事熱心で、必要なことしか口にせず、落ち着いている。とてもプロフェッショナルなの。そんなキャラクター像に惹かれたのよ。
監督が尊敬している人(ヤン・ラヌエット・チュルジョン)だったので、彼と仕事できたのも嬉しかったわ。彼は俳優についてよく知っていて、とても協力的なの。こちらの意見によく耳を傾けてくれるので、仕事がしやすかった。
――監督の話が出ましたが、全10話を一人の監督が担当するのはドラマでは珍しいかと思います。おかげで作品のトーンやクオリティが保たれていると感じましたが、演じているあなたご自身もそう思われましたか?
そうね。カナダのドラマシリーズでは一人の監督が全話担当するのはそう珍しいことじゃないんだけど、トーンが一定に保たれたおかげで作品の現実味は強まったと思うわ。予算も撮影期間も限られていたので監督をはじめとしたスタッフは撮影と編集作業を同時進行でやらなければならなくて大変だったでしょうけど、私たち演じる側としてはやりやすかった。それに監督が全体を把握しているので、「前にこうやったから、今回は違うことをした方がいいんじゃないか」といった話し合いもしやすかったの。
――かつて医学を志していらしたそうですが、本作で念願の医者を演じてみていかがでしたか?
医者に憧れていたけど科学が苦手だったので諦めて、演技を勉強して女優になったの(笑) だけど、母と叔母が看護師で、叔父は医師、友人にも看護師がいたりと、周囲に医療従事者が多い環境で育ったので、今回医者を演じられることを誇りに感じたし、真剣に取り組んだわ。難しい医学用語を使いながら、人の生死を左右するような重要な仕事をすることにとても魅了されたの。医者は、目の前で人が死にそうになっていても理性的でいなければならない。学んだ知識を参考にすると同時に、一種の本能的な勘も働かせるというのは演じる上でとても楽しかった。
――かつて医者を目指されていた時の知識などが何か役立ちましたか?
注射の打ち方はすでに知っていたと言えるわ(笑) 撮影現場にはコンサルタントとしてほぼ毎日医者がいてくれたので、いろいろ質問したの。私があまりにもいろいろ聞くから、コンサルタントが調べ直す羽目になったくらいにね。かつて自分が学んだことが役立つなんて不思議な気分だった。人生を一変させるような経験だったわ。
――あなたが演じるアンヌ=マリーは感染症部門の責任者ということで、家に帰ったら靴を脱いだり、すぐに手洗いをするなど、衛生面に非常に気を付けていますよね。そういう彼女の習慣であなた自身が私生活に取り入れたことはありますか?
本物のパンデミックがその後まもなく起きたので、いかに無意識に手でいろんなものを触っていたかを考えさせられたわ。日本ではもともとマスクをする習慣があったり手を消毒したりと衛生面での意識が高いけど、こちらではみんな好き勝手に咳をしたり、いろんなものに触ってしまうの。ただ、さすがに今はマスクをしていても周りから変な目で見られなくなったわ。
この役を演じた後、これまでにないくらい手をしっかり洗うようになった。あと、家で靴を脱ぐようになったり、外ではあまり周りを触らないようにしているの。
――本作が撮影された時はまだ新型コロナウイルスの感染が発表されていなかったわけですが、放送時にはカナダをはじめ世界でパンデミックが起きていたことを、放送中にどう感じていましたか?
すごく不思議な気分だった。撮影中はこんなことが実際にあり得るのかと内心考えていたのに、放送時にはもっと強力なウイルスが世界で猛威を奮っていたから。テレビで新型コロナウイルスに関するニュースを見ながら、まだこの作品に出ているような気分に襲われて、本作のスタッフや共演者と「まるで一緒なんて、一体何が起きているの?」といったメッセージをやり取りしていたわ。
――カナダで高い視聴率を記録しましたが、医療関係者であるご家族やご友人の反響はいかがでしたか?
すごくリアルだと言われたわ。叔母の一人は途中から「もう見られない」と言っていた。あまりにもリアルで「耐えられない」とね。この作品を見た直後に、世界でどれだけ多くの感染者が、死者が出たのかを報じるニュースを見ると、どこまでがフィクションでどこからが現実なのか、その境目が分からなくなるから、そのリアルさに惹きつけられたという意見もあれば、あまりにもリアルで見続けられなくなったという意見もあったわ。
リアルといえば、病院のシーンはモントリオールにある本物の病院で撮影したんだけど、のちにその病院も本物のコロナと闘うことになったの。
――「未来を予測した」と言われる通り、感染源をめぐる偏見やデマ、マスク買い占めなど本作では実際にその後に世界で起きたことがいくつも描かれていましたね。そうした中で印象深かったのは?
知らないものに対する恐怖が印象的だったわ。このウイルスはどこから来たのか、どうやって感染するのかといったことに対する答えを私たちは知りたがるものだけど、現代の科学をもってしてもすぐに答えが出るとは限らない。トライ&エラーを繰り返して探っていくしかないの。
ただ残念なことに、こういう状況下で故意にカオスを作り出すことで私腹を肥やそうとする人も存在する。そして隣の国(米国)の大統領は残念ながら科学を信じていなくて、同じようにこの問題を意に介さない人々が命を落としてしまったりもする。こういうことはウイルスそのものよりも長く尾を引くかもしれないわ。私たちは科学や事実を信じ、どうやって生きていくべきかを真剣に考えなければならないの。
――人は答えを知りたがるものだというお話がありましたが、劇中では研究所と大臣、広報の間で、どんな発表をいつのタイミングでどのように伝えるかでしばしば揉めますよね。パニックが起きる恐れもある中、こういう事態ではどういう風に市民に情報を提供するべきだと思われますか?
現実世界でもまさに同じ問題が起きているのよね。国によって多少の違いはあると思うけど、政府は経済活動のために日常生活をできるだけ続けるべきだと考え、医者たちは人命を優先すべきだと考える。現実世界では広報係が表舞台に出てこないので彼らがどんな影響を与えているか分からないけど、市民を危険から守りつつ、パニックを誘発しないようにするための線引きはとても難しいと思う。
ただ、情報は市民に知らされるべきだと思うわ。私たち一人ひとりが正しい情報を集めて、それをもとに的確な言動ができたらいいけど、現実にはそれが必ずしもうまくいっていないのよね。でも、専門家の言うことを信じるべきだと思うわ。政治家は必ずしも賛成しないでしょうけど。
――あなたが演じるアンヌ=マリーがフランクリン・ルーズベルトの言葉、「我々が一番恐れるべきは恐怖そのものである」と語りますが、実際のパンデミックでも何度か同じ発言が引用されました。あなたが言った言葉がのちに世界で繰り返されるのを聞いてどう思われましたか?
その発言も含めて、本作で描かれたいろんなことが実際に起きたことは、私たちのやったことが間違っていないと分かって感慨深かったわ。みんなの努力が報われたと思った。でも、劇中でイヌイットの人々の間で最初に感染者が出たと報じられたことで「イヌイットの病気」と言われたように、特定の場所や人とウイルスを結び付けてその対象を差別するのは悲しいことね。特定の人々や一部のメディアが作り出すカオスに目を曇らされることのないよう、社会にはもっと成熟してほしいわ。
――本作の登場人物たちは立場も考え方も様々ですが、今から作品をご覧になる人に特に注目してほしいキャラクターは誰ですか?
アンサンブルキャストであることもこの作品の魅力の一つなの。でも誰か一人を敢えて挙げるなら、名前は伏せるけど、幼い息子を抱えたある母親ね。息子が感染してしまったのに、感染してはいけないから母親は会わせてもらえないの。現実世界でも、家族や愛する人がこのウイルスで亡くなった場合、きちんとさよならを言えないまま別れなくてはならない。それがこのウイルスの残酷な特徴の一つね。彼女はなんとか息子に会おうとして無謀なこともするけど、気持ちは理解できたわ。その母親はのちに自分も感染したことでようやく息子に会えるんだけど、あの場面はとても感動すると同時にすごく痛ましいシーンでもあったわ。
――これから本作を見る日本の視聴者へメッセージをお願いします。
カナダで作った作品が日本でもお披露目されることになって、とても嬉しいし光栄に思っているわ。アメリカのドラマに比べると予算はかなり少ないけど、才能ある人たちが集まって精根込めて作った作品なのでぜひ楽しんでね。
『アウトブレイク ―感染拡大―』(全10話)はAmazon Prime Videoほかでデジタル配信中!
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『アウトブレイク ―感染拡大―』© Sphere Media 2016 inc.