『エージェント・オブ・シールド』『クリミナル・マインド FBI行動分析課』『SUPERNATURAL/スーパーナチュラル』『フラーハウス』等々...、新型コロナの影響とは関係なく、それ以前から決まっていたとはいえ、今年は幕閉じを迎えるシリーズがことさら多いように思えて、ファンならずとも寂しく感じてしまう。筆者のお気に入りだった社会派スパイサスペンスドラマ『HOMELAND/ホームランド』は米Showtimeで2011年から8シーズン続いたが、今年4月に最終話の放送を終えた。「対テロ戦争」というデリケートな題材を通して、現代のアメリカや国際社会にはびこる根深い問題を掘り下げるという様々な問題提起をした本作は、その落としどころをどう見つけるのかに注目が集まっていたが、主人公キャリー・マティソンらしい、納得のエンディングを迎えたことに本国で高い評価を得た。同様に、そのエンディングが「素晴らしい」と受け入れられているドラマを、海外メディアMental Flossが特集しているので、そのなかから5作品を紹介しよう。(※本記事は、シリーズの重要なネタバレを含みますのでご注意ください)
『ブレイキング・バッド』
余命わずかの高校教師が家族のために挑む危険な副業。それは麻薬の精製だった...。サスペンスとブラックユーモア、そして家族愛が巧みに調合された中毒性の高い大ヒットドラマ『ブレイキング・バッド』は、2008年から5シーズン放送され、エミー賞やゴールデン・グローブ賞を複数回受賞するなど、作品の質の高さや俳優たちの迫真の演技が高い評価を得て、「21世紀最高のTVドラマ」との呼び声が高い作品だ。
2013年に放送された『ブレイキング・バッド』の最終回となるシーズン5第16話「フェリーナ」のように、これほど注目され、高い期待にこたえることができたシリーズのフィナーレは他にはないだろう。ウォルターとスカイラーの最後の会話、マシンガンを使った信じられないほどの報復射撃、ジェシーの自由への叫び、ウォルターの崩壊、そして勝利への微笑み...。シリーズの最終段階でファンが望む最高のものを提供できたフィナーレと評価されている。ジェシーのその後を描く映画版『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』はNetflixで配信中。
『シックス・フィート・アンダー』
ロサンゼルスで葬儀屋を営むフィッシャー家を舞台に、世代間の価値観の対立、同性愛などセクシュアリティの混乱、ドラッグをはじめとする社会問題など、ブラックユーモアタッチで描かれるちょっと変わった家族の物語。人々の"死"を通して限りある"生"の現実をシニカルかつユーモラスに描くヒューマンドラマだ。
2005年に放送された最終話、シーズン5の第12話「未来」の最後の数分は、テレビ史上最も有名なファイナルのひとつであり、たとえそのエピソードの残りの部分が期待外れのものであったとしても、最も偉大な別れのひとつとして記憶に残ると言われている...。フィッシャー・ファミリーとの最後のエピソードは、その最後のモンタージュを作り上げるための、心がこもった宝石のひとつひとつだと例えられ、死が単なる悲劇を超えたさまざまな形で描かれているその場面は、視聴者の涙を誘うに違いない――。
『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』
米HBOで1999年から6シーズンにわたり放送され、ゴールデン・グローブ賞とエミー賞で作品賞も受賞した犯罪ドラマ。ニュージャージー州郊外に住むマフィアのボス、トニー・ソプラノとそのファミリーを中心に、裏社会に生きる人々の愛と葛藤をブラックなユーモアとともにリアルに描いている。
2007年に放送された最終話となるシーズン6第21話「哀愁」は、その重大な瞬間、何百万人もの視聴者にテレビが壊れたのではないかと思わせた衝撃のエピソードとなった。こんな唐突な終わり方になった理由は、単にクリエイターのデヴィッド・チェイスが、トニー・ソプラノの旅が終わるまさにその瞬間は、たまたまその一瞬だと決めたからだという。トニーが家族とレストランで食事をしている。怪しい男がトイレに立つ。車を降りてレストランに向かって走る娘メドウ...。ファンの間では今でもラストシーンの意味やメリットについて議論が交わされているが、この最後の瞬間に抱く不安感というのはトニーが常に後ろを見ているということを意味しており、そもそも実存の恐怖に対する瞑想として始まったショーを終わらせる素晴らしい方法だったという声も多い。
『ジ・アメリカンズ』
冷戦時代のアメリカが舞台。ワシントンDCに潜伏するロシア人スパイの夫婦が、どこから見てもアメリカ人として生活しながら、祖国ソビエト連邦への忠誠を果たすべく諜報活動を繰り広げる。潜入、暗殺、ハニートラップなどあらゆる手を駆使したスパイミッションと、彼らを追うFBIとの攻防戦をスリリングに描くスパイ・サスペンス。実在のスパイをモデルに、元CIA局員(ジョー・ワイズバーグ)が企画/製作総指揮を務めており、その真に迫ったストーリー展開には定評がある。
本作は着実にベストドラマとしての評価を積み上げ、最終シーズンに向けて数々の賞を獲得していった。フィリップ・ジェニングスとエリザベス・ジェニングスが、ロシアへの帰還とアメリカでの二重生活の終焉を考えておこなった最後の冒険となったシーズン6は、今まででのシリーズで最高だという声が多い。スリルいっぱいの最後の脱出から、娘ペイジの大きな決断まで、考え得るベストな着地点だったと言えるのではないだろうか。最後のエピソードの日本語タイトルは「その先の未来」で、原題は「START」となっており、そのタイトル通りそこから始まる未来を予感させる幕閉じだった。激動の時代を生き抜く二人のスパイを見事に演じ切ったマシュー・リスとケリー・ラッセルから伝わる愛と揺るがない信念は、視聴者を捉えて離さなかったシリーズだ。
『バフィー~恋する十字架~』
1997年から7シーズンにわたり放送された、人気ヴァンパイア・ドラマシリーズ。転校生のバフィー・サマーズは一見どこにでもいる明るい女子高生。だが彼女はなんと、超人的な力を与えられた「選ばれし者」で、悪魔に杭を打ち込むという方法でヴァンパイアを駆逐していくヴァンパイア・ハンターだった。新天地で知り合った仲間と共に、ヴァンパイアを探し退治していく中で、秘密がある男性との恋愛に悩む姿も。この世から悪を排除できるのか、そしてバフィー個人の幸せも手に入れられるのか――。
本作のフィナーレとなるシーズン7の第22話「選ばれし者」は数週間かけて練られたストーリーだという。バフィーと彼女の仲間たちを永遠に終わらせるか、地球上からサニーデールを一掃するか、あるいはその両方か...。しかし、この最終回をさらに特別なものにしたのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』のようなその戦闘シーンではなく、バフィーのハートだった。バフィーはウィローに、スレイヤーのすべての力を与える呪文を行うように依頼し、TV史の中でもとても印象的なシーンをつくり上げた。このことにより、バフィーは明日に目を向けることができたのだ。
Photo:『ブレイキング・バッド』©Ursula Coyote/AMC 『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』© 2007 Will Hart 『シックス・フィート・アンダー』©HBO 『ジ・アメリカンズ』© FX 『バフィー~恋する十字架~』© 2002 20th Century Fox Film Corporation and UPN. All rights reserved.