あのセリフは伏線だった!?『ブラックリスト』プロデューサー舞台裏インタビュー

2013年に米NBCで放送開始した大ヒットサスペンスクライムドラマ『ブラックリスト』。すでにシーズン9も決定している本作だが、先日日本に初上陸したばかりのシーズン8とこれまでの経緯について、本作で脚本も手がけている製作総指揮のジョン・アイゼンドレイスを直撃! そのインタビューの模様をお届けしよう。

――シーズン1の第1話から、これほどまでに人の心を掴んだストーリーはどのように生まれたのですか。

そう言っていただきありがとうございます。『ブラックリスト』は、映画『羊たちの沈黙』のように、これまでも存在したタイプの話ではあります。ですので、このようなアイデアは製作陣の心の中にはずっとあったものでした。天才的な犯罪者と新米捜査官のコンビという話は、視聴者にとってなじみのあるものだったからこそ人気になったのだと思います。

それからジェームズ・スペイダー演じるレッドというキャラクターが、とてもユニークで独特だったのだと思います。ジェームズの演じ方はとても特異なのです。レッドという人物は軽快なユーモアがあり、視聴者が親しみを感じたのだと思います。ですがそれと同時に、最初にエリザベスに家族のことなどを聞いた時のように、彼女に対する謎の執着心を持っているという気持ち悪い部分もあり、面白さと気味の悪さの両方を兼ね備えているので、その点もレッドというキャラクターの人気の秘訣なのでしょう。

――ジェームズ・スペイダーは、最低でも週一回脚本家などと話をしていると言っていましたが、シリーズ最終回の結末はすでに決まっていますか。それとも常に展開は変わっていっていますか。

エリザベスとレッドの本当に関係は当初からわかっていました。この点は変わりません。本作の最終話を見たとき、物語の意味がわかるでしょう。シーズンが長くなっているので、多少明らかになっていない部分もあるかもしれませんが、本筋は最初から変わりません。

――シーズン7の最終回「カザンジャン兄弟」はアニメを取り込んだものになりました。個人的には、アメコミのように吹き出しも出たりしてとても楽しめました。エリザベスが冒頭で、「I will be transformed...」と言いながら実写シーンからアニメになりましたが、このようなアイデアは誰が思いついたもので、どのような経緯で製作することになったのでしょうか。

「カザンジャン兄弟」は本来製作予定だったシーズン7の22話のうちの19話目で、その半分の撮影が終わっていました。ですが、その後パンデミックで撮影ができなくなりました。なので、シーズンフィナーレにはふさわしくない内容でしたが、第18話「ロイ・ケイン」を無理矢理にでもシーズン最終回にするのか、それとも半分終わっている第19話をなんとか最終回にするのかと悩みました。

私は当初からこの作品にはグラフィックノベルのような印象を持っていたので、撮影の終わっていない部分をアニメにしてみても良いのではと思ったのです。アニメは制作時間がかかると思っていましたが、実は私の兄弟にアクション系のアニメ映画に携わっているものがおり、その弟が時間をかけずにアニメにする方法があると教えてくれたんです。

ですが問題は、アニメを制作すること自体ではなく、実写の部分とアニメの部分をどのように繋げるかということでした。それであのエリザベスのセリフでアニメに繋げたのです。俳優たちには相手のいない自宅で演技をして声をあてるという作業をやってもらうことになりました。私は思っていたよりもあのエピソードは良い出来になったと思っています。もっとアニメ版もやりたいですが、皆は嫌だと言うんですよ(笑)

――日本ではシーズン8がスタートしました。日本のファンのために、このシーズンのポイントを教えてください。

最初の3話は、シーズン7のフィナーレに向けての3話だったので、ものすごいスピードで進んでいきます。シーズン7の最後でエリザベスが「レッドより母をとる」と決心するので、ここからレッドvsエリザベスという対決になっていきます。これまでのシーズンと違って、お互い対局にいるので、2話目から視聴者はレッドとエリザベスの戦争を目撃することになるでしょう。

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――あなたの手がけた作品の中でも、『ブラックリスト』は非常に長いシリーズです。この作品の制作過程で満足感を感じるのはどのような時ですか。

私はとても恵まれていると思います。脚本家や俳優が素晴らしいです。ジェームズ・スペイダーと共に仕事ができることも最初から光栄だと思っていました。中でも、ジェームズ(レッド)がエリザベスに、「自分の言うことを一切信じるな」と言う2,3分のシーンがあるのですが、あの瞬間に「ジェームズはすごい俳優だ」と思いました。このことは一生忘れないと思います。

ジョン・ボーケンキャンプとは本作で知り合い、私にとっても共同執筆というのは初めての経験でしたし、彼と仕事できることも幸運でした。才能のある人と共に仕事ができるというのは、特に脚本家としてはそれ自体が報酬に値することだと感じています。

――ジェームズ・スペイダーが素晴らしい俳優だとおっしゃいましたが、メーガン・ブーンは『ブラックリスト』が始まるまでは新鋭俳優でした。そんな彼女をキャスティングした理由はなんだったのでしょうか。

実はジェームズや他の俳優をキャスティングするよりも以前に、メーガンを最初に配役したんです。彼女がオーディションに来たときのことを昨日のことのように覚えています。エリザベスは、若くてフレッシュで無垢なキャラクターであり、メーガンはその設定にぴったりでした。

さらに、エリザベスが"ダークになる"こともわかっていましたが、メーガンにはその要素があると思ったのです。メーガンは、オーディションを受けていた他の俳優よりも、ダークになるという重要な部分があるように私には思えたのです。

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――本作がスタートしてからもう8年も経っていますが、当初と比べて変わったことはありますか。

そうですね。1年で22話もやっていると色々変わりますね。とても長いですから。一番の変化は、どの作品でも同じですが「このストーリーはどうか」と構成を考える時間です。最初の3年は、最低でも一つのエピソードの脚本に10から15日かかっていましたが、今では5日です。長い時間経ているので、よく作品を理解していることも、最初の頃よりも効率的に脚本を書くことができる理由ですね。

――『ビバリーヒルズ青春白書』『エイリアス』『フェリシティの青春』など数多くのヒット作を手掛けていますが、『ブラックリスト』に過去の作品が影響している部分はありますか。

『エイリアス』のときに印象に残っていることがあります。あれはアクションとドラマが詰まっている脚本で、常にカットしないといけない部分があるくらいでした。ある時、プロデューサーのJ・J・エイブラムスに、「ここはストーリーに関係ないのでカットしよう」と提案したんです。すると彼は「ここは唯一、ストーリーに関係のないシーンだ。だが、このキャラクターについて語っている部分だから残さないといけない」というんです。「ここのシーンが好きなんだ」と。

『ブラックリスト』では犯罪者がたくさん出てきますが、どうして犯罪者になったのか、どのようなキャラクターなのかということを描くことが大事なんです。ただ単に、犯罪が起きてそれを解決するということではないのです。時間がかかりましたが、それをJ・Jから学びました。

――あなたが脚本に名を連ねているシーズン5第8話「イアン・ガーヴェイ」のトム・キーンの重要なシーンで、Disturbedバージョンの「サウンド・オブ・サイレンス」がかかりますね。音楽もいつも印象的な本作ですが、どのようなタイミングで、また誰が選曲をしているのですか。

通常は脚本家がマッチするだろうと思う音楽を、脚本を書く段階で選曲もします。あのエピソードは私が書いていますが、実は私は音楽に詳しくないのですが、サイモン&ガーファンクルのあの曲がいいと思いました。沈黙のシーンだったので、タイトルにぴったりだなと思ったので。

脚本家が選ばなければ、映像を見てから適切だと思われる曲をジョン・ボーケンキャンプやエディターが選びます。ものすごく音楽に詳しい人たち、特に本作のエディターが素晴らしいので彼らがぴったりな音楽を見つけてくれるんです。

でも「サウンド・オブ・サイレンス」に関しては、シーズン5までで私が唯一自分で決めたものなんです。あの曲のことを言ってくれてとても嬉しいです。私は古い人間なので、サイモン&ガーファンクルしか知りませんでしたが(笑)、誰か他の人のカバーがないかと探したらDisturbedというバンドを見つけて、とてもパワフルなバージョンを歌っていたのであの曲になったんです。「サウンド・オブ・サイレンス」を選んだ自分が誇らしいですよ! 今日1日がいい日になりました!

――ブラックリストの犯罪者の順番はどのように決めているのですか。

重要度で決めています。基本的には、凶悪度順にしています。ですが、シーズン6には過去のブラックリスト犯罪者よりも比べ物にならないくらい凶悪犯が出てきます。でも、すでに上の方の番号は取られているので、使えないという状況になり、今はランダムにしていますね。ですが、トップ5のリストにはとても気をつけていたので、ランダムではなく決まった人になっています。

――シーズン9まで決定していますが、このように長いシリーズになると思っていましたか。

もちろん、どの作品も成功することを願って製作しますが、このようになるとは思っていませんでしたね。パイロットの頃、ソニーに「シーズン2で結末を出す」と言ったら、「早すぎる。シーズン5頃にして欲しい」と言われ、「シーズン5なんて続かない」と話していたんですよ。これほど長く続く作品というのは、本当に珍しいんです。

――ストーリーとは全く関係ないのですが、本作のプロデューサーにはジョンがたくさんいますね。どのようにお互い呼び分けていますか。

(笑) おもしろいですね。ジョン・デイヴィスとジョン・フォックスは、日替わりで仕事をするので問題ないのですが、私とジョン・ボーケンキャンプがよく間違われますね。Zoomや電話インタビューなどでは毎回発言した後に、「今のはジョン・アイゼンドレイスです」とフルネームを言うようにしています。

日々の現場ではスタッフは皆もう諦めていて、ボーケンキャンプのことをJB、私のことをJEと呼ぶようになりました。私の子どもの友だちにはジョンという子はいないですね。アメリカでは昔はジョンがたくさんいましたが、もう今は流行っていないみたいですね。最初はスタッフもみんなとても混乱していましたが、このような解決策になっています。

――ありがとうございます。

こちらこそ。質問の答えになっているといいのですが。色々興味を持ってくださりありがとうございました。

※ここからは、シーズン8第4話までのネタばれを含みますのでご注意ください!

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――シーズン1の最初からレッドはエリザベスに「犯罪者のように考えろ」と言います。そして最新のシーズン8では、ついにエリザベスの名前がブラックリストにあることが判明します。ということは、あのレッドの有名なセリフは、エリザベスの正体をわかっていた上での伏線だったということでしょうか。

その通りです。私とプロデューサーのジョン・ボーケンキャンプは、レッドとエリザベスの関係や物語の展開を当初から決めていました。ほとんどの作品は結末を決めないでパイロット版を製作し、そこから展開を考えていくものなので、『ブラックリスト』はとても変わっている作品です。

現在、エリザベスの親と彼女の正体が分かりましたが、それは視聴者にも興味がある点だと思います。人は親の血を受け継ぎ同じような人物になるのか、それとも別の人間になれるのかということです。第1話でエリザベスは、新人捜査官なのにレッドの首にいきなりペンを刺します。そのシーンですでに彼女がどのような人物であったかも示唆していたのです。

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――エリザベスとレスラーの現在の関係ですが、トム・キーンがいる時から考えていたものでしょうか。

最初からレスラーはエリザベスのことを怪しいと思っていました。トムが死んだ後に、このような展開を話していました。最初の頃はレッドとエリザベスとトムの関係に集中していたので、レスラーのことを描いていませんでした。ですが、彼はエリザベスとずっと長い時間を過ごしていたことで絆も強まっていましたし、レスラーとエリザベスには何かが起こると思ってはいました。ですが、いいタイミングがなかったのです。今の二人の関係を視聴者の皆さんが楽しんでくださっていることを願っています。

『ブラックリスト』シーズン8は、スーパー!ドラマTV #海外ドラマ☆エンタメにて毎週火曜22:00他で放送中。

(取材・文/Erina Austen)

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