【お先見】ショーン・ビーン&スティーヴン・グレアムら英国俳優が魅せるリアルな刑務所ドラマ『Time』

ショーン・ビーンとスティーヴン・グレアムの人気英国俳優二人の共演が話題を呼んだ英BBCスタジオ製作の刑務所ドラマ『Time(原題)』。イギリスで高い評価を受けたこのドラマを紹介。

『Time』は、英刑務所の受刑者や刑務官などの姿を描いた全3話のドラマシリーズ。イギリスでは今年6月にBBC Oneで放送されたが、第1話の放送後7日間の視聴者数が840万人に達し、今年BBCで放送された新ドラマのなかでの最高記録になったうえ、視聴者とメディアの両方に大絶賛され、続編を望む声が高まっている。

舞台は英北部の架空の刑務所。マーク・コブデン(ショーン・ビーン)が飲酒事故で4年の懲役刑を受けて入所してくる。マークを迎えるのが刑務官のエリック・マクナリー(スティーヴン・グレアム)。この仕事に誇りを持つ22年勤続のベテランだ。

教師として実直な生活を送ってきたマークにとって、刑務所での生活は驚きの連続だった。同房者のバーナード(アナイリン・バーナード)は精神疾患を持ち、自傷行為をしている。暴力的な囚人仲間からランチを横取りされたり、公衆電話の順番を抜かされて殴られたりするのは日常茶飯事だ。なかには、受刑者たちと取引をして武器や麻薬を所内に持ち込む腐敗した刑務官もいる。一方のエリックは、家族の身の安全をめぐって、所内の仕切り役的存在のジャクソン(ブライアン・マッカーディー)から脅迫を受け、苦渋の選択を迫られる。果たして、マークは過酷な環境のなかで生き延びていけるのか。そして、エリックは自分の信念を貫くことができるのだろうか。

『Time』が高い評価を受けた理由の一つが役者たちの演技だ。特にショーン・ビーンとスティーヴン・グレアムの圧倒的な演技力にぐんぐんと引き込まれるのはサスガの一言。

ショーンといえば、人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』や映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでおなじみ。一方のスティーヴンは『ライン・オブ・デューティ』『TABOO』などのドラマシリーズほか、映画『アイリッシュマン』などに出演。今後も『ピーキー・ブラインダーズ』の最終シーズンや映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』が控えており、今ノリに乗っている英国俳優の一人。演技派の二人が共演するとなれば、期待も高まるというものだが、その期待を遥かに超えて、こちらの感情をダイレクトに揺さぶってくる素晴らしさだった。

さらに、前述のアナイリン・バーナード(『ダンケルク』)、ブライアン・マッカーディー(『ライン・オブ・デューティ』)らすべての役者たちが好演。また、エリックの妻ソニア役を実生活でもスティーヴン夫人であるハンナ・ウォルターズが演じ、夫婦共演しているのも注目だ。

脚本を手がけるのはジミー・マクガヴァーン。これまでに数々の社会派ドラマシリーズを送り出してきた脚本家で、ショーン、スティーヴンとは2010年の犯罪ドラマ『Accused(原題)』ですでにタッグを組んでいる。今作では英国の非人道的な刑法が抱える現実を描き、問題を提起していく。刑務所内のあまりの過酷さにショックを受けた視聴者も多かったようだが、「ドラマの内容はどんぴしゃり」「最もリアリスティックな刑務所ドラマ」という元受刑者や元刑務官のコメントもあり、ドラマで描かれる刑務所の日常はリアルな実態のようで、ドラマそのものが犯罪防止に役立つとの声も上がっている。

英国法務省の調査によると、2019年~2020年にイングランドとウェールズの刑務所内で暴行にあった受刑者は1000人のうち267人。また、イングランドとウェールズの全受刑者数は約7万8000人だが、これは刑務官の数の3倍以上にあたり、圧倒的に刑務官の数が足りない状況であるという。所内で暴行事件が起きても、被害者は報復を遅れて事件を隠したり、加害者の名前を言わなかったりという傾向があり、イギリスでの刑務所内の暴力事件は深刻な問題になっている。

ヴァイオレントな描写の一方で、ドラマはさまざまな人々の細かな感情を丹念に描いている。マークは飲酒が原因のひき逃げ死亡事故で仕事と妻を失い、息子とも疎遠になり、面会にやってくるのは年老いた両親のみ。亡くなった犠牲者とその家族への罪の意識に絶えず悩み続けている。エリックは仕事への責任感と妻や息子を守らなくてはならない家族愛との間で板挟みになり苦悩する。

贖罪のために信念を貫く男、家族のために信念を曲げる男、どちらも切ない。闇のなかをもがくような苦しみや悲しみのなかで、最後はわずかな光と許しを見せて物語は終わる。その余韻も見事だった。受刑者とその家族、刑務官とその家族、そして被害者とその家族のそれぞれの苦悩と葛藤を描いた秀逸なヒューマンドラマだ。

(文/Yoshie Natori)

Photo:

『Time』BBC Press Office公式Twitterより(@bbcpress)/スティーヴン・グレアム公式Instagramより(@waltersgraham