成功か失敗か?Netflix実写版『カウボーイビバップ』レビュー

1998年に日本で放送され、世界中で大ヒットしたカルト的アニメ『カウボーイビバップ』の実写版がついに配信された。全世界のファンが期待と不安の入り乱れる感情を抑えつつ視聴した本作は、果たしてどうだったのか。実写版の感想を製作の舞台裏を交えつつ振り返ってみたい。

結論から言うと、アニメ版のファンである筆者は本作を大いに楽しんだ。アニメの実写化の成功は難しいという風潮のある中で、『カウボーイビバップ』はそれを覆す成功例になったのではないだろうか。

まず、アニメ版を知らない方に関しては、ぜひ先入観なしで視聴してもらいたい。シンプルに面白いシリーズだ。コメディあり、アクションあり、ロマンスあり、人間ドラマあり、SFありで海外ドラマ作品として非常にエンターテイメント要素に溢れている。気になるのはアニメ版のファンによる視点だろう。

20211126-00000004-dramanavi-1-00-view.jpg

全体的な世界観はよくできていると感じた。クリエイターが「アニメのトーンや雰囲気を一番大事にした。その上で話を広げたい」と言っていたことは成功していると言える。だがそれは、レアなカメオ出演もされている菅野よう子氏による驚くほどの数の新曲劇伴のおかげも大きい。また、配信前は不安な要素もあったが、回を重ねるごとにスパイク、ジェット、フェイのキャラクターはそのままだと感じるようになった。

日本語吹き替え版でみると、評価が上がるのは当たり前なので(アニメ版同様スパイク役は山寺宏一、フェイ役は林原めぐみ)、筆者は一回目を英語版で視聴した。英語のセリフは放送禁止用語(と言っても日常でも使われるもの)が多用され、リアルでエッジが効いた印象を受けた。映画版のオマージュと思われる第1話の冒頭も含め、とにかくスパイクとジェットの台詞回しには何度も大笑いさせられた。

※ここからは、実写版『カウボーイビバップ』のストーリー展開を含むのでご注意ください

20211126-00000005-dramanavi-1-00-view.jpg

そして、ジョン・チョーの格闘シーンの素晴らしさ! 怪我のため膝の再建手術まで行って挑んだ数々のアクションシーンは見どころの一つだろう。シリーズ全体で筆者が唯一涙したのは、フェイが自分の若い頃のVHSを見るシーンだった。それまでのフェイと一気に変わる瞬間がアニメ版とはまた違い、ダニエラ・ピネダの表情だけの演技に表れていたと思う。ジェット役のムスタファ・シャキールは、アニメに沿って地声よりかなり低めに話しており、見た目はジェットそのものだった。

途中からの大幅なストーリーの改変も、個人的にはオリジナル版と違うからこそ先がわからず一気に引き込まれる。ジュリアのあのような選択には驚いたが、二人の男性で揺れるただの儚いヒロインではなく、今の時代に合っており、"壊れた"ジュリアと、文字通り地に落ちたスパイク、ビシャス(アレックス・ハッセル)をシーズン2で見たいと思う。(11月26日時点ではシーズン2への更新は決まっていない)

ちなみに、ジュリアを演じたエレナ・サチン(『リベンジ』)はキャスティング以前からアニメ版のファンで、一年に一回は見直すほどだと話している。よって、オーディションに受かり、アニメ版と違って出番の多いジュリアを演じることに喜んだという。

20211126-00000006-dramanavi-1-00-view.jpg

【関連記事】『カウボーイビバップ』ショーランナー、すでに「シーズン2にはビッグな計画がある」

宇宙空間や宇宙船などのCGは、ハリウッドの十八番なので文句のつけようがない。ロケ地のニュージーランドにカトリック教会がなかったが、ラストの教会やステンドグラスは譲れないということで一から製作したり、アニメ通りのビバップ号セット製作だけに3カ月を要したり、アニメ版と同じ細かいカット割のシーンなど、こだわりが見受けられる。また、SANYOのカセットテープや横浜系ラーメンの看板、時々発せられる日本語のセリフなど、日本へのリスペクトも多いに感じられた。

逆に全体を通して気になった点は、ビシャスとジュリアの関係性。薄っぺらいと感じてしまった。ちょっとおかしな二人のカツラのせいかもしれないが、最初はメロドラマ感たっぷりで慣れなかった。加えて、組織全体の小道具や雰囲気が「海外の人が思うヤクザ感」満載で、安っぽさを感じたのかもしれない。

また、アニメ版は一言で言うと「子どもには面白さがわかりにくい作品」ではあるが、実写版は視聴者を大人仕様にしすぎているような気もした。無意味な裸体シーンなどをなくせば、若い人でも視聴できると思うので、自らマーケットを狭めており勿体無い気もする。フェイの偽母と夫の話やフェイの恋のお相手のシーンなどはなくても問題ないように感じた。

アインの活躍は、エドの登場と同様に今後に期待したい。

20211126-00000007-dramanavi-1-00-view.jpg

【関連記事】実写版『カウボーイビバップ』、コーギー犬のアインは二匹いる!?

「『ハリー・ポッター』は映画より原作本がいい!」と言う人と同じで、そもそもどんな作品でもオリジナル版から入る人は、それを一番に思うことが多い。だが、ストーリーやキャラクター設定をあれだけ変えても、シンプルに面白い作品だった。菅野氏の音楽、随所に渡る作品へのオマージュとリスペクト、世界観のキープという点で、この実写版からは熱意が伝わった。その上で、あのレアな作風を2021年という時代にあわせ、10話の中でうまく再構築し、エンターテイメントとして非常によくできている。

『カウボーイビバップ』実写版は、稀に見る「アニメ実写化成功例」と言ってもいいのではないだろうか。アニメ未視聴の方においては、ぜひ本作を楽しんでもらいたい。『カウボーイビバップ』はアニメファンだけのモノではないのだから。

(文/Erina Austen)

★実写版『カウボーイビバップ』を今すぐ視聴する★

Photo:Netflix実写版『カウボーイビバップ』