Netflix史上"最も視聴されたシーズン1"を記録し、現在シーズン3の製作が進められているファンタジー・アクションドラマ『ウィッチャー』。ゲーム化もされている小説を原作にドラマ化した本作は、クオリティーや再現率に厳しいゲーム版の熱狂的なファンから高評価を受け、大ヒット。ただその一方で、ゲームを知らない一般視聴者からは、「時系列や関係性が難解」といった声もあり、序盤で挫折してしまう人も。物語の本筋が見えてくると俄然面白くなるだけに、「これはもったいない!」という使命感から、本ドラマの世界観にスムーズに入っていけるよう、時系列、関係性から整理してみた。
目次
Netflixドラマの原作はゲーム化されていない短編集
原作は、ゲーム版(CD PROJEKT REDによるRPGシリーズ)、ドラマ版、いずれもポーランド出身の作家アンドレイ・サプコフスキのベストセラー小説。中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台に、"ウィッチャー(魔法剣士)"と呼ばれる最強ミュータントが陰謀と策略の渦に巻き込まれていく姿を描いている。
ところが、両者には1点、決定的な違いがある。それは、メインストーリーとなる長編小説「ウィッチャー」をベースにしているゲーム版に対して、ドラマ版シーズン1は、未だ日本語訳が出版されていない短編集「The Last Wish」がベースになっている点。この違いを "ゲームファン"と"ウィッチャー初心者"、それぞれの視点から考察してみると、製作者サイドの意図が明確に見えてくる。
<ゲームファンの視点>
- ゲームでは描かれていない主要キャラクター(またはその背景)の前日譚が楽しめる。
- 『ウィッチャー』を熟知しているため、複雑な時系列や関係性もすぐに理解できる。
- 主人公をはじめ、様々なキャラクターのドラマが盛り込まれ新たな発見がある。
- シーズン1はあくまでも序章、シーズン2から本編に入ると捉えている。壮大なるアドベンチャーへの期待感でいっぱい。
<ウィッチャー初心者の視点>
- 主人公以外の登場人物&ドラマが多く、前知識ゼロの視聴者は少々戸惑ってしまう。
- さらにキャラクターごとに時系列が変わり、第4話あたりまで頭の中の混乱が続く。
- それでも各エピソード自体が面白く、戦闘シーンも迫力があり(特に殺陣!)、「この先どうなるのか?」という好奇心が競り勝った視聴者は最終話まで一気に行ける。
- シーズン1を序章とは捉えておらず、「少々難解だが、最後まで観ると面白い」という感覚。ハマった人には「もっと知りたい」という病みつき感がある。
これはあくまでも、ブログやSNS、動画チャンネルなどの意見を参考にした筆者の主観的なまとめだが、こうして比較してみると、製作者がいかにゲームファンを意識して作ったかが見て取れる。ということは、『ウィッチャー』を熟知しているゲームファンがこれだけ楽しめるのだから、この世界観になかなか入りきれない初心者には、多少ネタバレが発生しても、視聴前に時系列や各キャラクターの関係性、地理的な状況などをある程度開示したほうが、逆に本作をじっくり楽しめるのではないか、という思いに達した。ちなみにNetflixでも視聴者のそうした声を察知して、本国アメリカのSNSやホームページで各エピソードのタイムラインを公開しているが、もう少し理解を深めるために各キャラクターの関係性も含めて解説してみたい。
『ウィッチャー』3人の主軸キャラクターを頭に叩き込む
まずは、主要キャラクターとなるウィッチャーのゲラルト、王女シリラ、そして女魔術師イェネファーの生い立ちや周囲との関係性をインプット。徐々に接点を持ちながら運命の出会いに向かっていくこの3人がシーズン1の"肝"となるので、第1話からスムーズに入っていくためにもしっかりと予習しておきたい(ここからは多少のネタバレがあり、ドラマ内では描かれていない情報も含まれるのでご注意を)
■ゲラルト(ヘンリー・カヴィル)
ウィッチャー(魔法剣士)と呼ばれるリヴィア出身のミュータント。孤児だった幼少の頃から狼流派の師匠ヴェセミル(シーズン1ではセリフの中で登場)に弟子入りし、厳しい鍛錬と変異誘発剤によって、超人的な肉体、達人級の剣技、そして"印"という魔術を修得。怪物退治を請け負う凄腕ハンターとして放浪の旅に出るが、やがて陰謀と策略が渦巻く戦国の世に巻き込まれていく。相棒は馬のローチと吟遊詩人ヤスキエル(ゲーム版ではダンデリオンという名で登場)。"驚きの法"というルールによって、シントラの王女シリラと宿命的な絆で結ばれている。公式年表から、第1話では71歳、最終話では103歳。最強の肉体とともに長寿も手に入れている。
相棒の吟遊詩人 ヤスキエル(ジョーイ・ベイティ)
■シリラ(通称:シリ/フレイヤ・アーラン)
"シントラの仔獅子"と呼ばれるシントラ王国キャランセ女王の孫娘。戦いに破れ、一人城を追われるが、不思議なパワーを内に秘めたシリラは、女王の遺言から宿命の男ゲラルトを探す決死の旅に出る。なお、シリラと実母パヴェッタ(ガイア・モンダドーリ)があまりにも似ているため、一瞬、「え?シリラ?誰?シリラの母親?」と少々頭が混乱するシーンがあるが、キャランセ女王がしっかり名前を呼んでいるので要チェック。また劇中では"シリ"と呼ばれることが多い。
シリラの祖母 キャランセ女王(ジョディ・メイ)
■イェネファー(アーニャ・シャロトラ)
女性魔術師。実父が非人間族エルフとの混血であったことから、奇形として生まれ育ち、不遇の少女時代を送るが、アレツザ魔法学校の学長ティサイア(マイアンナ・バーリング)に魔力を見出され、同校に入学。魔術師として成長した彼女は、魔法によって子宮と引き替えに美しい容姿を手に入れる。ゲラルトとは、魔人に呪われた相棒ヤスキエルを救うため、助けを求めてきたことから運命的に出会いを果たす。善か悪か、回を追うごとに美しく、ミステリアスに変貌していく姿に注目! なお、ゲラルト同様、長寿も手に入れており、シーズン1では14歳〜71歳の設定になっている。
変身前のイェネファー
『ウィッチャー』主軸3人の時系列を整理整頓
ゲラルト、シリラ、イェネファーの3人が物語の骨子となるのだが、ネックは時系列がバラバラで、それぞれの移動も多いこと。そこで、軸となる3人の生い立ち、事件、行動範囲などを簡単な年表にまとめ、物語の流れを可視化してみた。
【ここが肝!】
呪われた女盗賊レンフリから「森にいる少女こそ、あなたの運命」と告げられたゲラルト、そして祖母キャランセ女王から「リヴィラのゲラルトを探して。あなたの運命よ」と告げられたシリラ...不思議な宿命で結ばれた二人が第1話で登場。14歳のシリラが生きる時代を"現在"とするならば、ゲラルトの物語はその32年前からスタートし、伏線を回収しながら、回を追うごとに二人はどんどん近づいていく構成になっている。
第2話からイェネファーが登場。シリラの時代から実に57年前にさかのぼり、ゲームファンも知らない彼女の生い立ち、アレツザ魔法学校のスカウト活動や修行内容、さらにはゲラルトとの出会いもしっかりと描かれている点も注目。そのほか相棒ヤスキエルとの出会い、登場人物のスピンオフドラマも多数挟み込まれており、多少混乱するかもしれないが、3人の主要キャラクターの時間軸やそれぞれの関係性、地理的情報がしっかり入っていれば、全くブレることなく、本作を存分に楽しむことができる。
映像に年号を入れるとか、「シリラが城を追われる32年前...」と時系列の展開をテロップで示すとか、あるいはイメージMAPをインサートして地理の説明をさりげなくするとか、何か工夫があってもよかったようにも思うが、やはりそこが足りなかったのは、製作者がゲームファンを強く意識していたことの表れだろう。ただ、逆に言えば、『ウィッチャー』を知り尽くしているゲームファンからの高評価に勝る品質保証はないので、「ちょっと難解だな」と思う人は予備知識をしっかり持って、この近年稀に見る傑作を存分に堪能していただきたい。
『ウィッチャー』は、シーズン1から2がNetflixにて配信中。
(文/坂田正樹)
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Netflixオリジナルドラマシリーズ『ウィッチャー』