
映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズや『レ・ミゼラブル(2012)』で知られ、『博士と彼女のセオリー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエディ・レッドメインが主演を務める『ジャッカルの日』。2月22日(土)よりWOWOWにて日本初放送・配信となる本作は、1971年にフレデリック・フォーサイスが発表した同名小説のドラマ版。過去にはエドワード・フォックス主演の『ジャッカルの日』や、ブルース・ウィリスとリチャード・ギア共演の『ジャッカル』という映画も作られている。
今回のドラマ版では、謎めいた過去を持つ殺し屋ジャッカルをエディが演じ、彼を追う英国秘密情報部(MI6)の捜査官ビアンカ・プルマンにラシャーナ・リンチ(『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『キャプテン・マーベル』)、そしてジャッカルの妻であるヌリアにウルスラ・コルベロ(『ペーパー・ハウス』)が扮する。そんな3人が、新たな要素に満ちあふれたスパイドラマである本作の魅力を語った。
善と悪の二元論が曖昧なところが魅力的
――凄腕の殺し屋ジャッカルと、その腕に魅惑されながらも追い続けるビアンカとの、交わらない並行な関係についてどう思われますか?
エディ:原作ファンの私が興味をそそられた点の一つは、(本作クリエイターである)ロナン・ベネット(『トップボーイ』)の脚本です。原作の小説も過去に作られた映画も、善と悪の二元論が非常にはっきりしていました。ですがロナン・ベネットの脚本では、どのキャラクターも善悪の両方があるように感じたのです。ビアンカとジャッカルは同じコインの裏と表であり、どちらも潔癖で執着心が強く、才能にあふれています。ですが、二人とも道徳的な部分が欠けており、しかも互いに衝突する道を突き進んでいます。その点が原作と構造的に異なっており、とても魅力的に思えました。
ラシャーナ:ジャッカルのこともビアンカのことも尊敬しています。こういう立場の男女を見るのは俳優として刺激的でした。というのも、長年にわたり映画というものには善人と悪人の男性二人がいて、それを見て観客はワクワクするものだったからです。しかし本作ではそのうちの一人が女性(ビアンカ)で、さらに彼女も善ではなくもしかしたら悪かもしれないというキャラクターです。ハリウッド業界にとってビアンカのようなキャラクターを描くというのは、女性の人物像を描く上でさらにアイデアが広がると思ったので、とてもワクワクしました。また、本作がスパイものというジャンルにおいて、これまでの通念を覆すような新しい例になるといいですね。以前のスパイものからの変化に誰も気がつかないほど、本作のような設定が当たり前になると嬉しいです。
――ウルスラに質問です。殺し屋のジャッカルに妻がいるという珍しい設定ですが、このような役を演じていかがでしたか?
ウルスラ:脚本がすごく気に入りました。おっしゃるように普通じゃない設定でしたし、本作はスパイドラマというだけでなく、すべてが詰め込まれているんです。こういうジャンルのドラマですが、人間関係が緻密に描かれています。私たちも演じているうちにキャラクターにいろいろな側面が出てきて、そういうところがより重要だと感じるようになりました。ジャッカルとビアンカの二人も、危険な任務を請け負っていますが、彼らの人間性にも皆が注目しています。殺し屋に妻がいるというのも変ですし、普通じゃないなと思いました。
エディ:3人とも(それぞれの)キャラクターを大事にしていました。ウルスラは特に、「ヌリアを(夫がスパイだと分からない)バカな女性として描きたくない」と言っていました。ですので、どうやってジャッカルが妻に嘘をついているか、巧妙に騙しているか、ジャッカルの表向きの仕事は何なのか、といった設定についてはきちんと話をしました。派手なアクションシーンを撮影したかと思えば、その翌日には夫婦関係のシリアスなシーンを撮ったりと、そういう変化が面白かったです。
ウルスラ:(エディに向かって)当初の脚本からかなり変更しましたよね。ジャッカルとヌリアは長く結婚している設定なので、表情で伝わる夫婦関係だと思い、セリフをいくつか省きましたから。
エディ:そうですね。
ウルスラ:(何か怪しいと思った時には)ヌリアはジャッカルに「女がいるの?」とはっきり聞きましたしね。女…ならまだマシだったんですが(笑)
ラシャーナ:(爆笑)
――過去に何度か映画化もされた作品ですが、現代を舞台に映像化された本作のどんな点が面白いと思われますか?
ウルスラ:やはりジャッカルとビアンカの、殺し屋と捜査官という二人の人間性の部分ですね。とても現代的です。
ラシャーナ:そうですね。今までテレビや映画で見てきた典型的な悪役をもっと人間らしくしている点は面白いです。この3人の登場人物は皆、自分が何者であるかということに固執していると思われるかもしれませんが、彼らはそんな自分の枠から大きくはみ出たために、その都度ある決断をしなければならなくなるのです。最初のエピソードを見た人は、それぞれがどういうキャラクターなのかを理解したような気になると思います。でも、ジャッカルが本当に実在するのか、ヌリアはどうするのかは見ていて分からないはずです。
――この作品から視聴者が感じ取るモラルやテーマはありますか?
エディ:今の世の中には、操る側と操られる側がいると思います。前者は、正義のためか悪のためか、どちらのために世界を操っているかは分かりませんが、そういう点でこの作品に通ずるところがあるかもしれません。
ウルスラ:凄い! 最高の回答ですね!
ラシャーナ:本当に!
エディ:(笑)
――演じる上でどのような点が大変でしたか?
エディ:真夏のハンガリーでの撮影はものすごく暑かったですね。ジャッカルを演じる上では、時には何時間もかけて特殊メイクをしないといけなかったので、汗で大変でした。
ウルスラ:(スペイン人の)私にとっては英語ですね。英語を話すのが毎回大変でした!
エディ&ラシャーナ:(爆笑)
ウルスラ:あと、これにあまり気がつく人はいないでしょうが、ヌリアとしてスペイン語を話す際には、私の本来のアクセントではなくスペインの違う地域のアクセントという設定だったので、アクセントコーチについて学びました。自分の普段の話し方とは全然違うアクセントなので、それも大変でしたね。スペインの人たちをリスペクトしていますし、“この俳優、アクセント下手だな”と思われたくなかったので、しっかり練習しました(笑)
ラシャーナ:私は、脚本を読むのが大変でした。読むたびに、自分のキャラクターが“銃を持って走り回るのか”“崖に立つのか”などと思っていたので。
――ジャッカルとビアンカが(予告編で)同じ画面に映ることはなさそうですね。二人を演じるエディとラシャーナはプロデューサーも務めていましたが、共演シーンがないというのはどういう感じでしたか?
ビアンカ:共演シーンがないかどうかは全部見てみないと分からないと思いますが(笑)、二人はお互いの存在を認識するとすぐさま相手の心の中に入り込み、たとえ会わなくても心理戦を繰り広げていきます。猫と鼠の追いかけっこというサスペンスストーリーの中で、彼らが最終的にどういう選択をするのかという点が面白いと思います。プロデューサーとしては、素晴らしい才能のあるエディと仕事ができるのは最高でした。
エディ:役者としてはラシャーナとの時間はあまりありませんでしたが、一緒にこの作品を製作できてとても嬉しいです。このドラマはサスペンス・アクションで、ロマンスも入っていますが、ジャッカルとビアンカの二人を主軸にした、それぞれのドラマを作っているような気分でした。
――エディは作中でドイツ語、フランス語も披露していますね。どちらも完璧な発音ですが、レッスンしましたか? それともAIを使ったのですか?
エディ:ありがとうございます。とても嬉しいですが、ドイツ語は全然できません。ミュンヘン出身のコーチが、ドイツ語のセリフだけを音で徹底的に教えてくれました。でも、どれくらい完璧なのか、自分では分かりませんからね。(ドイツ語を話すシーンでは老人に変装しているので)70歳過ぎのミュンヘン出身のヘビースモーカーの人に吹き替えしてほしいと言ったくらいです(笑) 結局、吹き替え版には今のところなっていないようですけど(笑) フランス語は僕自身も少し話しますが、ウルスラの英語のようには完璧じゃありません。
ウルスラ:何それ!(笑)
エディ:(ウルスラに向かって)本当だよ。でも、ウルスラともこれは話したことがあるんですが、普段演技をしている時は、自分がどう聞こえているかを客観的に見ている別の自分がいるものなんですが、外国語を話すシーンでは、自分がどう聞こえているのか、ちゃんとできているのかの判断がつきません。そういう意味では、(ドイツ語やフランス語を話すシーンでは)自由に演技していたんだと思います。
――最初のエピソードのシーンは、ウィーンで撮影されたのですか?
エディ:そうです。高層ビルからジャンプするシーンはウィーンで撮りました。同地で最初に連れて行かれたのは、KNIZEという有名な仕立て屋でした。ヨーロッパ的な感覚を得るためにということで、そこで衣装のフィッティングをしました。マリリン・モンローやジェームズ・ディーンも顧客だった有名な店ですね。
――原作が発表されたのは1970年代ですが、今回のドラマ版ではどのような点がアップデートされていると思われますか?
ラシャーナ:率直に言いますね。1970年代の作品では黒人女性を見ることがありませんでした。ですので、本作はとてもモダンです。私やウルスラと同じようなバックグラウンドを持つ女性が視聴したら、ロンドンで捜査官をやっている黒人女性、スペインで暮らす女性、といろいろなキャラクターがいるので感情移入できるところがあると思います。
ウルスラ:本作は私の意見もいろいろ聞いてくれて、これまで参加したインターナショナルの作品の中でも、とても大切なものになりました。
――最後は、エディに質問です。ジャッカルは変装が得意ですが、俳優として彼との共通点はあると思われますか?
エディ:変装の達人なので、ジャッカルは俳優ですね。別人になるのですから。そういう意味では、私がジャッカルに近くなるように演じたというよりも、ジャッカルが俳優という私になったという気がします。
『ジャッカルの日』(全10話)はWOWOWにて2月22日(土)より独占日本初放送。WOWOWオンデマンドで2月21日(金)より第1話~第3話先行配信。第1話は期間限定<2月21日(金)~3月6日(木)>で無料配信。
(翻訳/Erina Austen)
Photo:『ジャッカルの日』©Carnival Film & Television Limited 2024.