「オリエント急行の殺人」はシリーズ分岐点!『名探偵ポワロ』レビュー

“ミステリーの女王”ことアガサ・クリスティーの小説をもとにした人気の英国ミステリー『名探偵ポワロ』。クリスティーが生み出した数々の名作の中でも特に知られた「オリエント急行の殺人」が、BS11にて2月24日(月)18:00から放送される(※日本語字幕版/2話連続放送)。この殺人事件は過去に何度も映像化されてきたが、デヴィッド・スーシェが主演する本作バージョンは中でも必見の出来と言える。その理由をご説明しよう。

デヴィッド・スーシェら名優たちが演技で激突!

「オリエント急行の殺人」は、パリからイスタンブールまでをつなぐ長距離列車を舞台にした殺人事件。ポワロも乗り込んでいたオリエント急行が大雪によって立ち往生となる中、乗客の一人が刺殺体で発見される。列車の関係者から事件の捜査を依頼されたポワロは、ロシアの公爵夫人、ハンガリーの外交官夫妻、イギリスの軍人など多種多様な乗客たちに話を聞いていくが…。

名探偵ポワロ

この作品の特徴の一つは、ポワロが大雪で閉じ込められた列車におり、通信手段もないことから、安楽椅子探偵の真骨頂――関係者の話を聞いただけで真相に辿り着く――を発揮していることだろう。安楽椅子探偵というとクリスティーが生んだ別の探偵、ミス・マープルの印象が強いが、ポワロも人間心理に対する深い理解や関係者から聞いた話、事件前後に見聞きしたものを総合し、裏付けなどがなくても真相を導き出す。

原作が出版されたのは1934年。ポワロの長編小説としては全33作のうち8作目とかなり初期に執筆されたが、『名探偵ポワロ』の該当エピソードは全70話のうち64話目と順番が大きく異なる。有名な作品で豪華キャストが集うことから満を持したという意味合いもあるのかもしれないが、シリーズフィナーレに向けてこのタイミングに盛り込まれた意図もあるのではないか。

64話目ということで、ポワロもすっかり年を重ね、若者に名前を名乗っても必ずしも知られていない状況に陥っている。そんな人生の斜陽を迎えつつあるポワロだが、身分の高い人も多く関わるこの殺人事件を見事に解くことで能力の高さを改めて証明。しかし、その後に推理よりも難しい問題に直面することになる。この思い悩むポワロという構図は原作ではほぼ描かれず、アルバート・フィニーがポワロを演じた1974年の映画版でも短い描写にとどまっていた。一方『名探偵ポワロ』では、原作にもともとあった要素を掘り下げたり加筆したりしながら、ポワロが悩んだ末にどんな決断を下すかをじっくりと映し出す。ポワロは最終的に出した答えに決して納得したわけでなく、この事件をきっかけに司法に対する信頼や信仰心が揺らぐことになる。ケネス・ブラナーが監督・主演を務めた2017年の映画版もポワロの葛藤に重きを置いていたが、それより5年以上前に放送された本作のデヴィッド・スーシェの演技や演出が少なからず影響を与えているだろう。

『名探偵ポワロ』のポワロは「オリエント急行の殺人」以降も様々な事件に挑むが、ここからは犯人を司法の手に委ねなかったり、自責の念にかられたりと、それまでとはやや異なる顔を見せるようになる。シリーズフィナーレ「カーテン〜ポワロ最後の事件〜」に向けたポワロの最後の歩みが、「オリエント急行の殺人」から始まったと言っていいのではないだろうか。

そんな「オリエント急行の殺人」は、ポワロにとっての分岐点という意味合いを持つだけでなく、名優たちの演技合戦も見どころ。ほかの映像化作品では、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、アンソニー・パーキンス、ジョニー・デップ、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、ミシェル・ファイファーといった面々が参加しているが、本作もジェシカ・チャステイン、デヴィッド・モリッシー、ヒュー・ボネヴィル、トビー・ジョーンズなどの実力派が顔を揃える。原作に比べて登場人物たちの台詞が大きく減る一方、ちょっとした言葉や仕草がニュアンスに富んだものとなっており、可能なら録画などをして繰り返して視聴すると、最初に見た時とは異なる印象を受けるはずだ。

名探偵ポワロ

『名探偵ポワロ』はBS11にて毎週月曜日18:00より放送中。「オリエント急行の殺人」は2月24日(月)18:00から放送される(※2話連続放送)。

(海外ドラマNAVI)

Photo:『名探偵ポワロ』シーズン12 ©Company A Chorion