【独占インタビュー】名優ジョン・マルコヴィッチが傑作シリーズ『ニュールック』を語る!

Apple TV+にて2月14日(水)より全世界で配信開始となるクリスチャン・ディオールの伝記ドラマ『ニュールック』

実話からインスピレーションを得ている本作では、第二次世界大戦のナチス占領下のパリを舞台に、若き天才デザイナー、クリスチャン・ディオールの葛藤とその躍進、そして同じフランス人デザイナーでディオールを敵視していたココ・シャネルの激動の人生が、複雑に絡み合って描かれている。

その中で、ディオールのメンターであり、親しい友人でもあった上司、ルシアン・ルロンを演じた名優ジョン・マルコヴィッチに独占インタビューを行った。

ジョン・マルコヴィッチ インタビュー全文

【役柄について】ディオール、バレンシアガ、ジバンシーたちをサポート

――まずは、演じられた役柄について伺います。ルシアン・ルロン役は、オーディションを受けましたか。それともオファーされましたか。そしてこの役を演じることが決まった時の感想を教えてください。

ジョン:オーディションではありませんでした。昔からの付き合いのプロデューサー、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラと、脚本・ショーランナー・監督を務めているトッド・ケスラーから声がかかりました。ルシアン・ルロンという人物は非常に興味深いと感じました。

それに、私の敬愛する俳優、ベン・メンデルソーン(クリスチャン・ディオール役)が出演することもわかっていましたし、素晴らしい俳優であるジュリエット・ビノシュ(ココ・シャネル役)も参加予定だと聞いていたので、迷うことなく出演を決めました。

ジョン・マルコヴィッチ(ルシアン・ルロン役)

――マルコヴィッチさんは、ご自身もファッションデザイナーでいらっしゃいますね。(ブランドのドキュメンタリーフィルム)『Flipping Uncle Kimono(原題)』はとても面白かったです。私は日本人なので、ファッションショーを柔道と混ぜ合わせたのはとても斬新なアイディアだと思いました。素晴らしかったです。

ジョン:ありがとう。

今回ご自身が演じるルシアンは、デザインをしませんね。その代わりに、ディオールのような有能なデザイナーたちに作らせています。ファッションデザイナーの一人として、ルシアンのことをどう思いますか。

ジョン:そうですね。ルシアンのことはデザイナーだとは思っていません。ですが、才能を発見することに長けている人だと思います。デザイナーの才能を開花させ、支援する素晴らしいアイディアを持っていました。自分のメゾンでディオールをはじめ、バルマン、バレンシアガ、ジバンシー、ピエール・カルダンなど数多くのタレントを育てました。これは素晴らしい経歴ですし、十分な功績です。

シリーズを通して、彼自身はデザインをしませんが、ずっとデザイナーをサポートしていました。そしてディオールの最大のサポーターであり、彼のことを信じていた人間だと思います。

ベン・メンデルソーン(クリスチャン・ディオール役)

【演技について】打ち合わせは“しない派”

――これまでにも、映画『ジャンヌ・ダルク』(1999年)のシャルル7世、『リバティーン』(2004年)のチャールズ2世、『クリムト』(2006年)のグスタフ・クリムトなど、多くの実在する人物を演じられてきました。今回のルシアンも実在する人物ですが、そのような役柄を演じる上で、気をつけていることなどはありますか。

ジョン:ないですね。世の中のほとんどの人が、歴史上の人物がどのような人間だったかは知りません。オーストリア人の画家、グスタフ・クリムトは日本でも知名度があると思いますが、日本の方も彼がどういう外見でどういう人生を送ったかということは、あまり知らないと思います。もっとも、彼の出身のオーストリアよりも日本での方が彼は有名かとは思いますが…。

チャールズ2世も、『危険な関係』(1988年)の(私が演じた)ヴァルモン子爵も同じで、どのような人物だったか、いつの時代の人かなど知られていません。ですので、実在する人物がどのような人間かということはあまり気にかけていません。脚本に書かれていること、物語の中でこのキャラクターが何を言うか、何をするかを重要視しています。ドキュメンタリーなどに出てくる人も、その人間の一部の側面が描かれているだけで、我々はその人の全てはわかりませんから。

――一般的な質問になりますが、脚本を読んだ後、通常どのように役作りをしますか。

ジョン:全てのシーンを綿密に研究します。自分がこのキャラクターのセリフの意図を理解しているか、この会話の意図は、行動はどうか。本来こうであるべきという形になっているか…。例外もありますが、普通は映画やドラマの脚本は青写真のときが多く、最終的な完成品ではないのです。

その中で、どうしてこのようなセリフを自分は言っているのか、そのセリフに自分は納得しているか、最高の形で表現できているか、そのようなことに集中して役作りをしていきます。

――ベン・メンデルソーンが演じるクリスチャン・ディオールとのシーンが多くありますね。お二人は撮影の前に、どのように二人の関係を演じるかなど打ち合わせされましたか。

ジョン:いいえ。ベンも私も、“打ち合わせしない派”なんです。(それぞれの役を)演じて、(演技の)決断を下し、互いに刺激して、(相手の演技に)反応する。そのようなやり方が好きです。ライターとは、脚本については話をする場合もあります。

私は舞台出身ですから、ほぼ全ての作品で演技についてディスカッションをしたことはありません。舞台という場は、話し合うことはできず、お互いの演技に刺激され、それに反応し演じていくものです。ですので、この作品でも、自分のキャラクターをただただ演じただけでした。

――作中の二人の関係は素晴らしかったので、それはすごいですね。二人(クリスチャン・ディオールとルシアン・ルロン)のシーンは全話通して大好きでした。

ジョン:私も大好きでした。ベンは本当に素晴らしい俳優ですから。

ベン・メンデルソーン&ジョン・マルコヴィッチ

【作品について】激動の時代を生き抜いたデザイナーたちの背景に注目

――それでは作品についてお伺いします。本作は、世界的に有名なデザイナーたちの話ですが、ファッションを主題にしたものではありません。個人的には、彼らにこのような背景があるとは全く知りませんでした。衝撃的でしたがエンターテイメント性もあり、さらに学びの多い作品だと感じました。映像も美しく、素晴らしい物語でした。

ジョン:それはよかった。ありがとうございます。そうですね、私自身も登場する人物たち、ディオールたちのバックグラウンドや人生については全く知りませんでした。

このシリーズは、モラルや妥協、困難や錯綜ということを世の人々に伝えられる、非常に興味深い物語を綴っていると思います。当時はディオールのような人でさえも、抑圧された状況下で、自分の思うように生きられませんでした。第一次世界大戦、第二次世界大戦などが続き、不況がヨーロッパを襲い、ハプスブルグ帝国やオスマン帝国といった数百年にわたる帝国が消滅するなど、激動の時代でした。そんな時を彼らは生き抜いたのです。

――そうですね。非常に興味深かったです。一気に見てしまいたいような作品でした。これからは、ディオールやシャネルというブランドを見ても、そのような困難を乗り越えた彼らの数奇な人生を思い出さずにはいられないです。たとえちょっとした化粧品を買うときだとしても。

ジョン:そうですね(笑)

ジュリエット・ビノシュ(ココ・シャネル役)

――私が今まで視聴した作品の中でも、傑作の一つと言える作品でした。ご自身は、どのような点がこの作品の魅力だと思われますか。

ジョン:ありがとう。そうですね。実はまだジュリエットのパートは見ていないのですが、きっと素晴らしい演技だと思っています。(ショーランナーの)トッドは素晴らしい仕事をしました。

ですが、やはり本作の核となるのは、ベン・メンデルソーンです。彼の演技ですね。トッドはこのような素晴らしいキャストを揃え、同じ部屋に集まらせ、私たちが演じるキャラクターたちの人間関係を想像し、制作しました。100年のうちの三分の一が動乱というひどい時代でしたが、舞台となるその時代設定も興味深いでしょう。また、ファッションが生まれた経緯、それをデザインしていた数多くのデザイナーたちの背景も見どころだと思います。

――本日は本当にありがとうございました。

ジョン:ありがとう。さようなら。

(取材・文/Erina Austen

『ニュールック』

Photo:Apple TV+『ニュールック』 2月14日(水)より全世界配信開始。毎週水曜日、新エピソード配信。 画像提供 Apple TV+