12シーズン続いた大人気シットコム『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』。(以下『ビッグバン★セオリー』)だが、海外では放送禁止になっていた国もあるようだ。その興味深い理由を米Colliderが報じている。
中国での放送が禁止に
『ビッグバン★セオリー』は、2014年、中国での放送が禁止された。中国人はアメリカのテレビシリーズが大好きで、『プリズン・ブレイク』、『エージェント・オブ・シールド』、『フレンズ』などが人気だ。中国のシットコム『Ipartment(原題)』は、『フレンズ』や他のアメリカのコメディをパクったとして非難されたこともあるほどだ。
中国では『ビッグバン★セオリー』も大人気で、同番組の再生回数は13億回を超えている。本作や他のアメリカの番組は、中国のオンライン・ビデオ・プロバイダーによって提供され、楽しまれていた。中国では、プロバイダーは、番組が公式に放送を許可されなくても、世界中の権利者とコンテンツ契約を交渉することが許されていた。
それが2014年4月、中国政府のメディア監視機関である国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局(SARFT)が突然、『ビッグバン★セオリー』だけでなく、法廷ドラマ『グッド・ワイフ』、犯罪ドラマ『NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班』、『ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル』を放送禁止にし、Sohu TV、iQiyi、Youkuなどの中国ストリーミングサイトから作品を削除した。
SARFTはこの措置の理由を曖昧に説明し、これらの番組が「著作権に違反しているか、オンライン放送規則の第16条に違反している」と述べた。第16条とは、ポルノ、暴力、中国の憲法に違反し、国の主権と領土保全を危険にさらし、社会問題を誘発し、違法な宗教を助長し、民族憎悪を誘発する内容を禁止する条項だ。明確な答えがないため、禁止された理由についての憶測が飛び交った。
西洋の影響力を制限?
多くの人は、中国は西洋の影響力を制限しようとしているだけだと見ていた。『ビッグバン★セオリー』の放送禁止に関しては、中国政府が、オタク、ギーク(あるいは "負け犬")が流行になるのを嫌がったためだと主張する人々もいた。この説は滑稽に見えるかもしれないが、実はそれなりの論理もありそうだ。
Sofuが2013年に実施した調査によると、24歳から34歳までの調査対象者の80%以上が、自分を"diaosi"と認識していた。"diaosi"とは、いわゆる "負け犬"という意味で、貧乏でガールフレンドのいないオタクを指す言葉だ。
この割合は、『ビッグバン★セオリー』の最大の視聴者である中国の大学生の間ではさらに高く、なんと90%にものぼる。かつては否定されていたこの言葉が受け入れられたことで、中国社会で失敗した人々に、団結できる場を与えた。
真相ははっきりしていないが、本作の登場人物がdiaosiの心に強く響いたことは間違いないだろう。
禁止令は2015年に解除
だが、中国国民からの大規模な反発も相まって、この禁止令は2015年に解除された。現在、SARFTは、外国の番組の全シーズンを放送する前に提出し、審査を受けなければならないと定めている。これによって政府は、国民からのコンテンツに対する反発を封じ込めながら、自国のソープオペラや共産主義革命に関するありふれたドラマよりもはるかに人気のある外国のコンテンツに対する支配力を強めることができるようになった。
このため、2015年5月に終了した『ビッグバン★セオリー』のシーズン8は、検閲官が全24話を承認した後、7月まで中国で放送されなかった。中国のストリーミングサイトもハリウッドのテレビ・映画業界も、この検閲ルールに従うしかない。中国の視聴者にコンテンツを届ける唯一の方法は、海賊版になるため、「合法的な」コンテンツに対して対価が支払われることは、海賊版から何も得られないよりははるかに歓迎すべきことなのだ。
たとえ検閲された『ビッグバン★セオリー』であっても、まったく放送されないよりはマシなのかもしれない。(海外ドラマNAVI)
Photo:『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』© Warner Bros. Entertainment Inc.