女性の肉体と心理に迫る!カルト映画『戦慄の絆』をエンタメに昇華させたドラマ版が熱い

Amazonドラマ『戦慄の絆』がついにスタートした。個人的にヘソの緒が絡みつくような歪んだ倒錯世界に衝撃を受けた鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督(最新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』8/18公開)の同名映画のドラマ化ということで良くも悪しくも楽しみにしていたのだが、主人公の名前や双子の産婦人科医、恋愛のもつれなど、おおまかな流れは受け継いでいるものの、作品自体はまるで別物、別世界だった。

『戦慄の絆』レビュー

あらすじ

今回は一卵性双生児の“姉妹”(エリオットとビヴァリー)が主人公となるが、演じるのは30年ぶりのドラマ出演となるオスカー俳優のレイチェル・ワイズ(『ナイロビの蜂』『女王陛下のお気に入り』)。女性のヘルスケアを最前線に改革しようと目論む姉妹は、産婦人科医としての仕事はもとより、ドラッグ、パーティー、アバンチュール…どんなことでも二人で共有する“絆”で結ばれている。だが、レズビアンのビヴァリーが女優のジュヌヴィエーヴ(ブリトニー・オールドフォード『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』)に心奪われ、真剣交際に発展してから、不穏な空気が流れ始める…。

映画版には病的な恐ろしさが…

クローネンバーグ監督は、実際にあった事件をもとにイマジネーションを膨らませ、幼い頃から女体の神秘やセックスに興味を持つ風変りな双子の兄弟を主人公に据えた。それゆえに常に変態ムードがつきまとう中、こちらもオスカー俳優ジェレミー・アイアンズ(『運命の逆転』『ウォッチメン』)がなんとも不気味に一人二役を演じ分けていたが、片割れがある女優を愛したことから、共有と均衡が崩れ落ち、心引き裂かれた二人の感情は、内側に向かってどんどん堕ちていく…まさに“戦慄の絆”というべき病的な恐ろしさがあった。

ドラマ版の圧倒的な違い

ところが今回のドラマシリーズは、主人公の双子を“姉妹”に置き換えたことで、圧倒的な違いを生み出した。男性の奇妙な嗜好ではなく、女性が女性の視点で妊娠に関する環境改善に言及し、強欲な投資家を巻き込みながら野心的に事業展開していく、という物語は至極真っ当だ。それをしっかりと縦軸に据え、ビヴァリーの恋愛によって巻き起こる姉妹の激しい感情の激突は、むしろドラマをダイナミックに動かしていく推進力として生かしているところが実に巧みなのだ。

レイチェルの魅力に酔いしれて

映画版であれほどゾクっとした真っ赤な手術着が、ドラマ版ではファッショナブルな産婦人科の未来像のように見えるのも不思議な感じだが、作家性の強い作品ゆえに『ジャック・ライアン』シリーズのように行かないのは当然だ。もし、過度にクローネンバーグ監督の世界観を嗅ぎ取ろうとする人がいるとしたら、それは危険だし、もったいない。双子の産婦人科医によるドロドロ劇、という表層的な共通点だけ認識し、あとは新作として受け止めて、一人二役のレイチェル(名演!)の魅力に酔いしれながら、ドラマならではのダイナミックな展開に身を委ねれば、最高のエンタメ作品として楽しめるはず。とは言っても、吐く言葉も、欲にまみれた行為も、ええ!そこ映します?という描写も、人によっては十分過ぎるほど過激なので、多少心して鑑賞することをオススメする。

(文/坂田正樹)

Photo:『戦慄の絆』©Amazon Studios