2019年の映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』に続くシリーズ第2弾『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』が、Netflixにて配信を開始した。前作に続き監督・脚本を『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)のライアン・ジョンソン、主人公の探偵ブノワ・ブランを『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)をもって6代目ジェームズ・ボンドを引退したダニエル・クレイグが再び務めている。これはあくまでも私見だが、本作を観ていると、二人とも伝統ある超大作シリーズの重責からしばし解き放たれ、本来あるべき「映画作りの面白さ」を心からエンジョイしているように感じられる。とにかく、作品も、俳優も、実にゴキゲンなのだ。
孤島で起こるゲームと殺人
風変わりな紳士探偵ブノワが新たに挑むのは、ギリシャの孤島で巻き起こる殺人事件。IT業界で成功を収めた大富豪マイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)は、壮大なミステリーショーを楽しもうと、友人たちを孤島の大邸宅に招いた。そこには長年マイルズに恨みを持つ元相棒のアンディ(ジャネール・モネイ)、そして何かの間違いで呼ばれたのか縁もゆかりもないブノワの姿も。ノリノリのマイルズは遊び心たっぷりのトリックゲームで“自分が矢で殺される”という仕掛けを施すが、誰かに邪魔され失敗に。ところが、宴が深まりだした頃、本当に殺人事件が起きてしまう。ここから壮大な物語が始まるのだが、それは観てのお楽しみ。
前作とはガラリ雰囲気を変えて、ギリシャのエキゾチックな孤島が舞台。選ばれし人々を招き入れて事件が起こるという展開は、先月公開され話題を呼んだアニャ・テイラー=ジョイ主演の『ザ・メニュー』にも似たシチュエーションだが、『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』では犯人探しというより、ここに呼ばれた友人たちそれぞれの心情に重きが置かれ、彼らの“破壊的人生”を紐解きながら、過去と現在を往復しつつ事件の核心に近づいていくという構成が実に巧みだ。ただ、これは進化なのか、血迷ったのか、冒頭こそ招待状を奇妙なカラクリ箱に仕込んで謎解きを強いるあたりは凝り性のジョンソン監督ならではの真骨頂が見られるが、今回はその緻密さが途中からこんがらがってカオスとなり、現場は大混乱! それこそ『007』並みの破壊的暴走クライマックスが観る者の度肝を抜く。やってくれたな、ライアン!
名曲にちなんだタイトルの意味とは?
タイトルにある「グラス・オニオン」は、ザ・ビートルズ ファンなら誰もが知っているジョン・レノンの名曲(「The Beatles《通称:ホワイトアルバム》」に収録)。この曲からインスピレーションを得たと監督は公言しているが、ザ・ビートルズのナンバーをモチーフにした言葉遊びのような楽曲から、なぜこんな奇想天外な物語が思いついたのか? 「歌詞には必ず何かメッセージが隠されている」というファンの思い込みをジョンが揶揄した曲とも言われているが、「何でもかんでも理由があるわけじゃない」「ミステリーの伏線だって時には無意味なことだってあるんだぜ」みたいなことを監督は言いたかったのか?
…なんてことを勘ぐっていること自体がこれまた滑稽なのかもしれないが、孤島の大邸宅のシンボルとなっている“グラス・オニオン”(タマネギ型のガラスの建物)が最初から最後まで、この映画の“主”として存在しているところを観ると、監督はジョンが生きていたらクスッと笑ってくれるようなミステリーのさらに向こう側に行きたかったのかもしれないな。ま、これもきっと、拡大解釈なんだろうけどね(笑)
映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』はNetflixで独占配信中。
(文/坂田正樹)
Photo:Netflix 映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』独占配信中