独特の怪奇趣味はむしろ味付け!ギレルモ・デル・トロ監督が挑んだノワール映画はビターな大人の味

作品賞・監督賞を含むアカデミー賞4部門を受賞した映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)に続き、異才ギレルモ・デル・トロ監督がまたしても新境地を拓いた。最新作『ナイトメア・アリー』は、ややチープな言い方だが、「デル・トロ少年が大人になった!」(私より年下なのでお許しを)というのが率直な感想。大物俳優を自身の世界にしっかり溶け込ませ、色気や人生の機微さえ感じさせるノワールな世界観は、来日するたびに中野ブロードウェイに通っていたオタク少年には作れない領域。もちろんデル・トロらしさは随所に観られるが、それが実にビターな味付けとなって映画を包んでいるのだ。【映画レビュー】

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野心溢れる青年スタン(ブラッドリー・クーパー)がたどり着いたのは、人間か獣か正体不明な"獣人"を見世物にする怪しげなカーニバル一座。そこで出会った読心術の達人から技を伝授された彼は、"感電ショー"で人気者だったモリー(ルーニー・マーラ)を誘って大都会へと旅立つ。

やがてスタンは人を惹きつける才能と天性のカリスマ性を武器に、高級ホテルのステージで上流階級の人々から拍手喝采を浴びる一流ショーマンに成り上がる。だが、心理学博士のリリス・リッター(ケイト・ブランシェット)との出会いが、スタンの運命を大きく変えていく。

過去、筆者はデル・トロに2度インタビューしているが、『パシフィック・リム』(2013)で来日した時は、「中野ブロードウェイでキャラクターグッズを買いだめするために、空のトランクを2個持ってきたんだ!」と満面の笑顔で語っていたが、4年後、オスカーを獲得した『シェイプ・オブ・ウォーター』で再会した時は、「中野ブロードウェイには行かない、僕はもう(キャラクター収集を)卒業したんだ」と衝撃の告白。

確かにこの辺りから作風に大きな変化が見られたのも事実で、半魚人と人間の女性が恋に落ちるという"究極のロミジュリ"映画でオタクの殻を自ら打ち破ったのは、グッズ収集では得られない、何か大きな"心の体験"があったのかなと推察する。

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そして、久々に挑んだ新作『ナイトメア・アリー』。蓋を開けてみれば、人間の暗部を描く見事なノアール映画。原作はウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説で、タイロン・パワー主演によって1度映画化(『悪魔の往く町』/1947)もされているが、若い頃からいつかは撮りたいと思っていた題材だったと、デル・トロは語っている。

ただ、人間的として、あるいは監督として、器が一回りも二回りも大きくなった今だからこそ、この映画にトライする意味があったと思う。なぜなら、ブラッドリーやケイト、ルーニーら名優たちの表現力を巧みに引き出しながら、極端なヒエラルキー(怪しげな芸人一座と耽美的な社交界)のジレンマに落とし込んでいく手腕は、人間の機微を経験していなければ、絵空事になってしまうからだ。

ブラッドリーとケイトが腹を探り合うスリリングなシーンは、まさにローレン・バコールとハンフリー・ボガートの世界。ハリウッド黄金期を思わせるシチュエーションだが、どこか人間臭く、泥臭いく、華麗な駆け引きで終わらないところが、デル・トロ自身の成長だと思っている。

物語は、いくつかの山場はあるが、後半のたたみかけは、さすがの演出! アールデコ風の回転木馬や電光石火(致死量オーバーでしょ!)の感電ショー、さらにはおぞましい獣人見物など、カーニバルシーンも偏愛に満ちた怪奇趣味全開! これまでメインだったデル・トロらしさは、上質な大人の作品にオリジナリティをもたらす最高の味付けになった。

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映画『ナイトメア・アリー』は、3月25日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開中。

(文/坂田正樹)

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『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.