映画『ファースト・マン』デイミアン・チャゼル監督直撃!「ニール役はライアン以外考えられなかった」

2016年に全米公開され、第89回アカデミー賞で最多6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』に続き、人類初の月面着陸に成功したアポロ11号船長ニール・アームストロングの人生を描き、2月8日(金)より全国公開となる最新作『ファースト・マン』。人類が初めて月面着陸してから50年という記念すべき年に公開される本作でメガホンを取ったデイミアン・チャゼル監督と主演のライアン・ゴズリングが共に来日。チャゼル監督が本作の映画化を決意したきっかけや、キャスティングの経緯、撮影の裏話など、作品に込めた想いを熱く語った。

――『ファースト・マン』がどのような作品か教えてください。

『ファースト・マン』は宇宙飛行士ニール・アームストロングの月面着陸までの活躍を本人の視点で描いた作品だよ。

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――映画化の案はどこから来たのですか? 脚本が書かれる前の段階から、監督に話が来ていたそうですが...。

この作品との関わりが始まったのは、『セッション』(2014年)の仕事が終わった直後だった。ウィク・ゴッドフリーらといった本作のプロデューサーが、ニールの自伝映画化の権利を手に入れていて、タイトルは「ファースト・マン」だ。僕は監督の打診を受けても躊躇していたんだ。宇宙に強い思い入れはなかったからね...。子どもの頃、宇宙飛行士に憧れたりはしたけど、ニール・アームストロングもアポロ計画もよく知らない。でもある時、原作の本を眺めていたら、突然作品のイメージが湧いたんだ。当時のロケットや宇宙船は本当に壊れやすく、月面着陸は無謀な挑戦だった。だからこそ国を挙げて取り組んだんだ。ニールはその重荷をたった一人で背負い、第一歩を踏み出した。その勇気に僕は感銘を受けた。そこで生涯を描く伝記映画ではなく、彼の目線で描くことにしたんだ。1962年にNASAに入ってから、1969年に月を訪れ生還するまでの物語だ。彼と家族がどんな思いで過ごしたかを描いたよ。

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――ニールは謎に包まれた人でした。初めて月面を歩き、歴史に名を残しましたが、私生活や家族についてあまり話さなかったそうですね。これもリサーチを行う上で、初めて知った意外な一面でしたか?

謎に包まれているからこそ魅力を感じたんだ。世界的な有名人であるニールの素顔が知られていないのは驚くべきことだが、だからこそ観客は自分自身を重ねやすい。ニールはあの時代を象徴する人物だ。だが、生身の人間として見るならば、父親、夫、息子であり、一人の男だ。そう考えて調べてみると、予想外の人物像が浮かんでくる。彼は宇宙開発レースの立て役者だが、決して熱血タイプのパイロットではない。彼は元々エンジニアで、飛行機を理解するためパイロットになったんだ。命知らずの冒険家というイメージだったが、実際には月面着陸のミッションも、仕事の一環だった。問題を解決するのが彼の仕事で、月面着陸は単に大きな問題の1つなんだ。性格も謙虚で物静かだったらしい。僕にとっては、そこが魅力だ。ライアンならうまく演じられると思ったよ。

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――ライアンにニール役を打診したのは、『ラ・ラ・ランド』製作の前ですよね。彼にはニールに似た部分があるから、うまく演じられると思ったのですか? ライアンは、今回の役をどう捉えていましたか?

『ラ・ラ・ランド』の時とはまったく違う演技を見せてくれたね。実は『ラ・ラ・ランド』の前にライアンと会い、ニール役を打診したんだ。まだ、ジョシュ・シンガーも脚本の執筆を始めたばかりだったが、僕はライアンしかいないと思っていた。彼以外で撮るなんて、想像もできなかったよ。ライアンはニール役に興味を持ってくれたが、なぜか話が脇道にそれて、ジーン・ケリーの話になった。それがきっかけで先に『ラ・ラ・ランド』を撮り、彼への信頼がさらに厚くなった。彼ならニールをうまく演じてくれると確信したよ。

そして『ラ・ラ・ランド』の後、すぐに準備を始めたんだ。脚本家と共にストーリーを練り上げ、彼以外の出演者も決めた。ライアンと僕にとって充実した準備期間だったと言える。ニールの家族にも会うことができたし、ヒューストンやフロリダの基地なども訪問した。あらゆるディテールをできる限り取り入れ、ドキュメンタリーに近づけた。まるで1960年代のヒューストンを訪れて、撮ってきたような映像にしたよ。過去を美化するような映像ではなく、ニールの身になって観客に体感してもらいたい。狭いカプセルの中まで入ってもらうよ。

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――最初の妻ジャネット役ですが、『ザ・クラウン』のクレア・フォイを選んだ理由は何ですか? 夫婦役の二人にはどんな指示をしましたか? ライアンによるとお互いを信頼して、夫婦を演じたとのことでしたが...。

僕はクレアのことはよく知らなかった。もちろん「ザ・クラウン」の演技は見事だったが、ニールの妻役に適しているかは未知数だ。1960年代の話で、アメリカ中西部で育った女性という設定だ。だが、クレアと会ってみたら彼女なら大丈夫だと確信を持てた。演技力もあるし、人柄もすばらしいんだ。彼女に決まると約3週間のスケジュールを組み、家族役のリハーサル期間を設けた。ライアンとクレアと子役の二人を呼び、ロケ地で過ごしてもらった。その映像は完成版でも使っているよ。彼ら4人に家族ごっこを命じたんだ。一緒に公園に行き、食事やケンカをして...、口論して仲直りする姿などを全部撮った。映画初出演の子役はカメラに慣れることができたし、夫婦役の二人は役がなじんできた。クランクインの頃には4人は家族の顔になり、しっかりとした絆を感じられたよ。準備期間のおかげで、撮影がすんなりと進んだんだ。

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――『ラ・ラ・ランド』でも多少CGが使われましたが、今回はかなりの部分をCGに頼ることになりましたね。月面着陸のシーンなどです。心構えとしてはかなり違ったと思いますが、どう取り組まれましたか?

『ラ・ラ・ランド』に比べ、CGが多いが、撮影監督はどちらもリヌス・サンドグレンだ。彼と意見が一致していたのは"なるべくCGを減らす"ということだった。特殊効果を最大限使うようにして、CG合成のみに頼るシーンは少なくした。セットの窓からは宇宙が見えたんだ。巨大なLEDスクリーンで背景を映し出した。宇宙船などのセットは実物大で"X-15"や訓練用の装置も作った。ジェミニ宇宙船やアポロ宇宙船もだ。俳優たちは宇宙服を着て、コンピューター制御のセットに乗り込み、前後左右に揺さぶられていた。3Dシミュレーターと同じで、小型カメラを仕込み、乗組員の目線で撮影している。彼らの心情まで捉えたかった。それが、本作の宇宙空間の表現だ。宇宙飛行士の主観的な視点で撮った。彼らと同じ光景を見て、宇宙船の狭さを体感してほしい。宇宙に飛び出し、月に着陸した時の感動もね。限りない開放感を味わったと思う。それまで恐ろしいほど狭苦しく、頼りない宇宙船に乗ってきたんだ。

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――ライアンとクレア以外の出演者もすばらしいですね。カイル・チャンドラーコリン・ストールジム・ラヴェルなど...。キャスティングの経緯を教えてください。適した俳優がすぐ浮かびましたか?

本作に出演した俳優の顔ぶれは、映画監督にとって夢のようだよ。豪華な俳優陣と仕事ができて幸せだった。これにはキャスティング担当のF・マイスラーの功績も大きい。僕らは俳優たちを慎重に選択していった。実力のある俳優を集めたいのはもちろんだが、ドキュメンタリー風の映像で目立ちすぎる人は避けた。たとえばNASAの管制室のシーンには、実際にNASAで働く管制官やエンジニアが出演した。なるべく本物の職員に出てもらうことで、俳優たちに実際の現場の空気を感じてもらった。徹底的にリアリティーを追求した環境の中で、俳優と職員の共演は驚きの効果を生み、ドキュメンタリー風に撮影が進んだ。カメラのフレームの外でもいろんなことが起きていたが、本当に優秀な俳優たちがそろっていたので、すべてを演技に生かしてくれた。最近では珍しい撮影方法だが、勇気を抱いて挑戦した甲斐があったよ。

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一方、ニールの妻ジャネットに扮したクレア・フォイはチャゼル監督との仕事について「デイミアン(・チャゼル)はしっかりとしたビジョンを持っていて、周りにも彼の熱意が伝染していくの。映画作りに対する彼の情熱を本当に強く感じるわ。こっちも全力で彼に協力したくなるのよ。そしてデイミアンほど自由に演じさせてくれる監督はいないわ。登場人物の役作りを俳優に任せてくれるの。試行錯誤することも許してくれるし、俳優に何かを強制することもないのよ。だからこそいい作品ができるの」とチャゼル監督との信頼関係の深さをインタビューで語っている。

人類史上最も危険なミッションである月面着陸を果たし、歴史上に名を残す栄光を手に入れた宇宙飛行士ニール・アームストロングの人生を、臨場感たっぷりの映像や、登場人物の苦悩や葛藤を交えながら、まるでドキュメンタリーのようにリアルに描き出す若きチャゼル監督入魂の最新作『ファースト・マン』は、東宝東和配給にて2019年2月8日(金)全国ロードショー。
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映画『ファースト・マン』
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