第91回アカデミー賞主演女優賞は、『女王陛下のお気に入り』で18世紀のイギリスの君主、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンが獲得した。その受賞スピーチでは随所に笑いを誘うジョークを挟み、聴衆を魅了。地方の平凡な少女が、オスカーを手にするまでの軌跡を追ってみよう。
初めて見つけた情熱、演劇に開眼した16歳
サラ・コールマン(オリヴィアの本名)は、1974年にイギリスのノーフォーク州で生まれた。私立の女子校から進学校のグレシャムズ・スクールに進んだが、これといって得意なことが何もない少女だったと、本人が米Hollywood Reporter誌のインタビューで語っている。
そんな彼女は16歳の時、初めて情熱を感じるものに出会う。校内演劇に出演し、自分が好きなものはこれだと確信したのだ。女優となるきっかけを与えた母校グレシャムズは、オリヴィアのオスカー受賞後、「グレシャムズがなければ、きっと役者にはなっていなかった」という彼女の言葉を誇らしげにツイートしている。
しかし女優になることは高校生のオリヴィアにとって不可能な夢に思えた。そこで教師を目指してケンブリッジのホマートン・カレッジに入学するが、勉強についていけず退学。そのまま町に残って清掃員として働きながらレクチャーを受け、多くの演劇に参加した。そこで自分には役者以外になりたいものはないと気づいたという。
清掃員からコメディ女優、そしてシリアスな作品へ
ケンブリッジでのちの夫となるエド・シンクレアと出会い、二人でブリストル・オールド・ヴィク演劇学校に入学する。卒業後エージェントは決まったものの、仕事のオファーはほとんどなく、臨時社員や清掃員として働いた。それでも演技をやめることは考えなかったと回想している。エドの方は役者でなくライターの道を選んでいる。
オリヴィアにチャンスをもたらしたのは、ケンブリッジ大学の演劇クラブのオーディションで知り合ったデヴィッド・ミッチェルとロバート・ウェッブ。二人が出演するコント・ショーのオーディションに招かれて合格し、以後彼らの番組に参加することになる。日本でも放映されたコメディ番組『ピープ・ショー ボクたち妄想族』には、2003年から2015年まで出演。それと並行して仕事も増えていき、2010年の映画『思秋期』では虐待される妻を熱演。翌年にはメリル・ストリープ主演の映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』に出演と、次第に業界で知られるようになっていく。
エージェントの「役者としての幅を広げるべき」というアドバイスに従い、シリアスな作品を増やしていた彼女は、2013年から3シーズン続いた英ITVのドラマ『ブロードチャーチ~殺意の町~』でブレイク。本国イギリスで毎回900万人以上が視聴したという大ヒットドラマで殺人事件を追う刑事エリー・ミラーを演じたオリヴィアは、外出にも困るほどの人気者となり、英国アカデミー賞テレビ部門主演女優賞も獲得している。
『女王陛下~』でつかんだ栄冠、夢は叶っても平常運転
オリヴィアと『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督の出会いは2015年の映画『ロブスター』で、彼女を気に入った監督がアン女王にと希望した。その時は『ブロードチャーチ』新シーズンの撮影があり無理だと答えたものの、監督は待ってくれたという。
役作りのため15キロ増量し、孤独と悲哀と混乱を秘めた気分屋の女王という複雑なキャラクターに扮したオリヴィアの演技は高く評価され、本命視されていなかったオスカーまで手にした。アカデミー賞授賞式で名前が読み上げられると、ユーモアたっぷりのスピーチで会場を大いに沸かせた。米Cosmopolitan誌などは、驚きと喜びを隠さず前面に押し出した彼女の受賞スピーチをその夜で一番のものだったと評している。ちなみに彼女が着ていたのはプラダのドレス。米New York Times紙によれば、オリヴィアは貧乏時代に飛び込んだプラダのブティックで、「いつか成功したら、ここのドレスを着よう」と誓っていたそうだ。
現在オリヴィアはNetflixのドラマ『ザ・クラウン』のシーズン3と4を収録中。同作ではクレア・フォイに代わって中年期のエリザベス2世を演じる。米Forbes誌によれば、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞獲得により、これまで稼いだギャラの総額を上回る超高額オファーが今後は舞い込むことを予想する声もあるという。
もっとも本人はオスカー女優になった今もいたって庶民的。家で夫と過ごすのが大好きで3児の母でもある彼女は、「とりあえず次の2年間は仕事(『ザ・クラウン』)があるのでとてもいい気持ち。養う家族もいるし、家のローンやいろんな支払いもあるから」とHollywood Reporter誌に語っている。(海外ドラマNAVI)
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オリヴィア・コールマン
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