「カトリーヌ・ドヌーヴを挑発してみたの」『真実』ジュリエット・ビノシュ直撃インタビュー

『万引き家族』『誰も知らない』の是枝裕和監督にとって初となる国際共同製作作品『真実』が、10月11日(金)より公開となる。フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版したことから、彼女の家族の間で複雑な感情が呼び覚まされる。自伝に綴られた<嘘>と、綴られなかった<真実>が、次第にファビエンヌと娘リュミールの間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていき...というストーリーだ。本作で大女優を母に持つ脚本家リュミールを演じたジュリエット・ビノシュを直撃! 三大国際映画祭(ヴェネチア、カンヌ、ベルリン)とアカデミー賞でそろって演技賞を受賞しているのは世界で4人しか存在しないが、その一人であるジュリエット。そんな彼女に、ファビエンヌ役のカトリーヌ・ドヌーヴと初共演した感想、念願だった是枝監督作出演の思い出などを語ってもらった。

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――撮影当日に脚本の修正版を渡すスタイルを止めてほしいと是枝監督にお願いしていたものの、結局その約束は叶わなかったそうですね。そういう慌ただしいスケジュールの中、是枝監督と一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

小さい変更ならいいの。でも大きく変えられると個人的には大変だったわ(笑) あまりにも大きく脚本を変えられてしまうと、俳優としてはそれにばかり捉われてしまって集中できなくなるから。私のモットーは「創造とは、演技であることを忘れることである」なの。要は、その役をどれだけ自然に生きられるかが勝負なのよね。でも脚本の大幅な変更によってシーンの内容が完全に頭に入っていない状態で撮影に臨むと、間違えないようにやらないと、という考えに囚われてしまう。それでは役を生きることができないのよ。

でも、脚本家・映画監督である是枝さんの「いいものを作り上げたい」という気持ちは理解できるわ。それってまるで、展示会が迫っているのにギリギリまで筆を入れたくなる画家のようなものなのよね。

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――おっしゃるように是枝監督は撮影中にかなり脚本に変更を加えたようですが、当初受け取っていた脚本から完成版の映画で変わった箇所で印象的なものを教えてください。

とにかく彼はずっと書いていたわね。撮影中も書いていたの。思い出すのは、あるシーンを書いた翌日の是枝さんが「シーンが見つかった」と子どものように喜んでいたことね。それは、本作の終盤でファビエンヌの孫娘シャルロットが祖母にあることを言った後、母親であるリュミールのところに戻ってくるシーンなの。あのシーンが描いているのは、私が演じるリュミールは脚本家なんだけど、脚本家はすべてを操る魔法使いなんだってことなのよね。多分脚本家でもある是枝さんがこの魔法使いに自分を重ねているんだと思うわ。

でも、撮影当時の私自身はこのシーンの重要性が分かっていなかったの。自分の出ているパートしか知らなかったから、完成した映画でファビエンヌとシャルロットのパートを見てようやく合点がいったのよね。とても素晴らしいシーンだと思うわ。

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――カトリーヌ・ドヌーヴとは初共演かと思いますが、彼女と複雑な親子役を演じてみていかがでしたか?

一緒に仕事ができて幸せだったし楽しかったわ。カトリーヌと親しくなろうとして頑張ったの。というのも、彼女のことはよく知らなかったし、カトリーヌは人から距離を置くタイプだから。多分、習慣もあるし、そうすることで身を守っているんでしょうね。そんな彼女と仲良くなりたかったからいろいろやってみたわ。フランス語では「you」に当たる表現が親しい間柄で使うものと形式ばったものの2種類あるんだけど、周囲に対して形式ばった方の表現を使う彼女にあえて私は親しい方の表現を使って挑発してみたの。あと、私は本当はタバコを止めていたんだけど、彼女が吸うから「タバコくれない?」って頼んでみたりもしたわ。時間はかかったけど、最終的には親しくなれた。でも言っておくと、カトリーヌはファビエンヌよりもずっと寛大な人よ(笑)

――ファビエンヌはカトリーヌ本人のようにフランスを代表する女優ですが、あなた自身も35年以上のキャリアがあり、三大国際映画祭のほか、アカデミー賞でも演技賞を受賞しています。20年後にはあなたがフランスを代表する存在と言われるようになるのではと個人的には思っているのですが、ご自身ではどう思われますか? ご自身の今後のキャリアをどう思い描いていますか?

そんな先まで生きると、誰が言いきれるかしら? 言えないわよね。今の目標というかやりたいことは、是枝作品の後で立て続けに2本の作品に出演したから、とりあえず何もしないことかしら。でもそれって私には難しいことなの。というのは常に忙しく仕事をしているのが習慣になっているから。ただ、そういう風に何も目標を持たない時期も必要だと思う。無の時間があることがね。子どもがいれば忙しいものだけど、子どもが大きくなってしまうと、女優としては自分自身を見つめて、同じことを繰り返すのではなく新しいことをやっていくためには、ただ波の音を聴いて、本を読んでという風に時間を過ごすことも必要だと考えているわ。

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――ファビエンヌやリュミールは仕事で成功を収めるために努力したと思いますが、実際に成功を収めているあなたから仕事に頑張る女性たちへのアドバイスをいただけますか?

仕事で成功するためには自分の道を信じて、地に足を着けて努力することが必要だと思うわ。真摯に努力することによって初めて、他人に何かを与えることができ、この世界の一員になれるの。そこから始めることが、いわば自分の家を作るために最初の石を積み上げるという行為になると思う。だから自分の道を信じて、辛抱強くきちんと仕事をしていくことが肝心で、結果はすぐには表れないかもしれないけれど、自分の感情、直感を信じること。たとえそれが周りの人や家族の望んだものとは違ってもね。最終的には自分自身を信じることが重要だと思うわ。

そして自分がその道で成功できるかどうかの最初のサインは、実際にやってみた時に充実感や幸せを感じるかでしょうね。あと、疲れを感じないことも重要よ(笑)

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――本作は日本人が監督・脚本を手掛け、フランスを舞台にスタッフとキャストの大半はフランス人で、アメリカ人俳優も出演と、様々な文化が混じり合っていますが、それがどんな効果をもたらしたと思われますか?

ヒューマニティの意味で影響があればいいわね。人間は一つである、というね。

――本作であなたは是枝監督からどんなことを求められていたと思われますか?

それはまさに私が自問自答していたことよ。「私に何を期待しているの?」と聞いたら、彼は驚いていたわ。そして「君がどのように仕事をするのか、観察して学びたいんだ」と言われたの。

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――リュミールと夫のハンクはかなりタイプが違う印象を受けましたが、恋愛においては違うタイプの相手の方がうまくいくと思われますか?

似た者同士ってカップルは存在しないんじゃないかしら。人間は一人ひとり違うものだから。似てくるとしたら、何らかの感情を一緒に経験することを通して、それぞれの感じ方が変わってきた結果だと思うの。だから、二人の人が出会った時点では二極として存在するのだと思うわ。女性は相手に近づこうとする欲求があるものだけど、それと同じくらい男性側には反発する傾向があるわよね。そういう二極関係が男女だと思うの。

――この『真実』という映画はあなたにとってどんな作品ですか?

人生におけるある種の柔軟さ、本作の場合は親との関係になるわけだけど、年を重ねて弱くなってきた親を受け入れる、愛することが必要だということじゃないかしら。

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『真実』(配給:ギャガ)は10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。
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Photo:

ジュリエット・ビノシュ
(C)Yoshiko Yoda
『真実』
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3