「とにかくヌードルをたくさん食べたわ」『アースクエイクバード』アリシア・ヴィキャンデル直撃インタビュー

11月5日(金)より全世界同時配信となり、8日(金)より一部劇場で公開中のNetflix映画『アースクエイクバード』。原作は、英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞した同名ミステリー小説。東京で通訳として暮らす女性ルーシーが、カメラが趣味の男性、禎司と知り合ったことをきっかけに、知人女性の失踪事件に巻き込まれていくというストーリーだ。主人公ルーシーを演じるアリシア・ヴィキャンデル(『リリーのすべて』『コードネーム U.N.C.L.E.』)を直撃! 日本での撮影やアジア作品への愛、役作りについて語ってもらった。

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――本作に出演した理由は? 脚本を読んでみていかがでしたか?

まず、日本が舞台の作品というのが出演したかった理由の一つよ。この国に関心があったから、現地で撮影し、自分にとって新しい文化や言語を体感できるというのは魅力だったわ。スリラー仕立てのフィルム・ノワールというジャンルにも惹きつけられた。そして、ルーシーのように、頭の中でいろいろと考えていて、過去を受け入れることができていない複雑なキャラクターを演じることにも興味を引かれたの。あとは、ウォッシュ(・ウェストモアランド監督)とも仕事がしたかった。彼の過去の作品での女優の描き方が素敵だったから。そうしたいろんな理由から、出演することにしたのよ。

――あなたは台詞をあまり言わずに表情で語るという演技が多くてそれが実に素晴らしいと思うのですが、これは脚本がもともとそうなっている役を選んでいるからなのでしょうか? それともご自身が極力言葉を発さない形で演技されていらっしゃるのですか?

このルーシー役は結構台詞があるけどね(笑) ただ、これまでに演じた役、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』のララ・クロフトや『エクス・マキナ』のエヴァの場合もそうだけど、映像作品の素晴らしい点の一つは、カメラが俳優の顔に寄ってその表情をしっかりと捉えることができるところにあると思う。そうやって近くに寄ることでキャラクターの素顔が見えてきて、その人とつながりを感じられるようになり、ストーリーに入り込めるようになるの。たとえアクション映画であっても、表情を通していろんなことを伝えられると考えているわ。

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――先程少しおっしゃっていましたが、ルーシーは秘密がある上、内面に怒りを抱えており、さらに話が進むにつれて現実と幻想の境目が分からなくなっていくという複雑な人物です。そんな人を演じる上でどんなことを意識されましたか?

彼女の悲劇的な過去をベースにして、どんな気持ちでこれまで生きていたのかをイメージしながら掘り下げていったわ。ルーシーほどではないかもしれないけれど、人は誰でも人生の中で様々な経験をしているものよね。そうした彼女と似た種類の経験を元に、自分を見つめ直しながら、新しい人格を作り上げていったの。

どの役でもそうなんだけど、脚本を読んだ時には、自分が持っているクレイジーでファンタジー要素たっぷりの想像力を生かして、その役がどんな人物なのかを思い描いていくのよ(笑) そうしたイメージを抱いた状態で撮影に臨み、実際に演じ始めると役に命が吹き込まれていく。時には、そうやって変化していくキャラクターを通して、自分や知人の別の一面を発見して驚くこともあるわ。

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――ルーシーを演じたことで何か発見がありましたか?

このキャラクターを通して教わったのは、決して諦めないことね。ルーシーは自分の身が危険だと感じると、そこから抜け出して別のところへ移ることを繰り返してきた。そんな彼女の行動を「逃避」と考える人もいるかもしれないけど、私は「サバイバル」だと解釈しているわ。ルーシーは生き延びるためにそうするしかなかったの。当初はそんな彼女の言動に戸惑うかもしれないけれど、時間をかけて考えてみれば、彼女の行動は正しいことが分かるはずよ。

――ルーシーの目にするもののうちどれが現実でどれが幻想なのか、観ているうちに分からなくなりそうだったのですが、あなたはすべて理解した上で演じていたのですか?

いくつかは理解した上で演じていたけど、全部じゃないわ。私は昔からアジアの作品が好きなんだけど、その魅力の一つが、キャラクター描写やストーリーが自然で、シンプルかつシュールレアリズムであることなの。それと同じよ。私たちの記憶というのは、ある出来事を自分の視点から描いたものでしょ? でも、その人が見聞きしたもの、感じたことがそのまま事実とは限らない。

ルーシーはこれまで何度も自分の人生を作り直してきた。一人で過ごすことが多くて、頭の中でいろんな映画を観ているような状態なんでしょうね。だから、彼女が見聞きしたと考えているものは、実際に起きたものかもしれないし、"映画"の一つかもしれないの。

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――日本で撮影した本作では佐渡島をはじめとした様々な土地を訪れただけでなく、お蕎麦を食べたり振袖を着たり華道をやったりされていましたが、特に印象に残ったものは?

日本には4カ月間滞在したの。いろんなお茶屋さんに行ったし、とにかくヌードルをたくさん食べたわ(笑) 実は日本人の友達が二人いるの。そのうち一人は日本生まれで今はサンフランシスコ在住なんだけど、私の日本での撮影中に彼女もちょうどこっちにいたから、いろんな友達に紹介してもらったわ。それで私も東京にたくさん友達ができたの。実は昨日の夜、彼らに会ったのよ。スナックで楽しく過ごしたわ。そのうち一部の人とは、今年の初めにパリでも会ったの。本当に仲が良いのよ。

――アリシアさんはスウェーデン語と英語、そしてデンマーク語を話されますが、日本語の通訳を演じるにあたってどのくらい勉強されましたか?

言語の違いというのは、単に言葉が違うというだけでなく、文化的な違いも関わってくるのよね。それぞれの言葉に合った言い方やニュアンスがあるから。だから、日本語を8週間かけて勉強したけど、たとえ響き的には合っていても、それでは十分じゃないの。特にその言葉を使って演技をする上ではね。だから、日本語の台詞はまず英語に訳したわ。そうやって内容を理解したんだけど、愛の言葉や皮肉も、日本語は英語と全然違っていて驚いたわ。こうしてキャラクターの心情を理解した上で演じたのだけど、日本語の台詞を言う時にはすごくナーバスになってしまった。うまく言えているのかが自分では分からなかったから。でも周りの人を信じて、助けてもらいながらやり遂げたの。

――あなたの演技、日本語でもしっかり感情が伝わってきました。

ありがとう。そう言ってもらえて本当に嬉しいわ。

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――共演者についても聞かせてください。禎司役の小林直己やリリー役のライリー・キーオ、奈津子役の祐真キキら、キャラクターにぴったりなキャスティングが実現したと思うのですが、彼らとの共演はいかがでしたか?

実はライリーの作品をいろいろ見ていて、彼女の大ファンだったの。本作への出演が決まった後、ウォッシュからリリー役にライリーを考えていると聞かされて、ぜひ共演したいと伝えたわ。そんな風に尊敬している人と一緒に仕事ができて、すごく楽しかった。そして直己にはビックリしたわ。とてもハードワーカーで、たくさんの時間や努力を役に注ぎ込んでいた。役をしっかり研究していることが、最初のリハーサルの時に分かったの。禎司に合わせて、ずっとカメラを首からぶら下げてたから(笑) 彼とは、英語で演技することの大変さについていろいろ話したりもしたわ。今もいい友達よ。

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女性の揺れ動く心理を繊細な描写で描くサスペンス・ミステリー映画『アースクエイクバード』は、11月15日(金)Netflixにて全世界同時配信スタート。

Photo:

アリシア・ヴィキャンデル
Netflix映画『アースクエイクバード』
(C)Murray Close/Netflix