「落ち込んだトゥースは僕の愛犬そっくり」『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』ディーン・デュボア監督インタビュー

2010年から始まった人気アニメシリーズ『ヒックとドラゴン』がついに完結する。シリーズ1作目と2作目がともにアカデミー賞長編アニメーション映画部門の候補になり、フィナーレとなる3作目『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』も、2020年1月に受賞者が発表される第47回アニー賞で多数ノミネートを果たし、アカデミー賞の前哨戦と言われる第77回ゴールデン・グローブ賞でもアニメーション作品賞候補となっている。そんなシリーズ3作すべてでメガホンを取るとともに脚本も担当してきたディーン・デュボア監督を直撃! ドラゴンたちに命を吹き込む上での工夫やシリーズ完結を受けての想いについて語ってもらった。

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――本シリーズの特徴の一つが、原作ではドラゴン語を介して会話をしているヒックとトゥースが、映画では言葉なしで通じ合っている点です。表情や仕草でちゃんとトゥースたちの心情が分かるように描かれていて素晴らしいのですが、この3作目でドラゴンの心情を描く上で特に工夫したシーンなどがあれば教えてください。

言葉なしでドラゴンたちの感情を伝えようという試みは大きな挑戦ではあったけど、報われるものでもあったよ。アニメーターにとって言葉を持たないキャラクターの心情を絵で表現することはやり甲斐があることだからね。実はちょっとしたズルもしていて、僕が書いた脚本にはドラゴンが何を言いたいのか、ちゃんと台詞があるんだ。それをサウンドデザイナーのランディ・トムに渡して、そういう彼らの気持ちに合うような音を作ってもらっているんだよ。

そうしたシーンの中で特に印象的なのは、僕たちが「ファーストデート」と呼んでいた、トゥースが恋のお相手であるライト・フューリーにいいところを見せようとするところだね。彼は踊った後、砂の上に木の棒でライト・フューリーの似顔絵を描くんだ。その絵の上にライト・フューリーが立つとトゥースは思わずうなるんだけど、彼女にうなり返される。するとトゥースは反省したように目をそらしてしょんぼりとするんだよね。あの時のトゥースは、僕の飼っているフレンチブルドッグがトラブルに陥った時にそっくりだったよ(笑) (ここで愛犬の画像を見せてくれて)アンガスという名前なんだ。

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――可愛いですね。本作で私が特に好きなのは求愛のシーンなのですが、監督が特に注目してほしい場面を教えてください。

僕のお気に入りのシーンは、残念ながらネタばれになってしまうので言えないんだ。でも、求愛のシーンも気に入ってるよ。あれは、特にアニメーションの良さが出た場面だと思う。パントマイムと音楽がうまく融合しているよね。僕は常日頃から、台詞なしで表現できるものを探しているんだ。そういうものこそが観客の印象に残るからね。あのシーンは実は1作目の、ヒックとトゥースが初めて心を通わす詩的な場面の対になるように作ったものなんだ。ジョン・パウエルの美しい音楽のおかげもあって、とてもアイコン的なシーンになったと思うよ。

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――本作を作り終えてのお気持ちは?

誇らしいしホッとしているよ。続編を作ることになった時から思い描いていた物語の通りに最後まで駆け抜けることができたからね。一方、『ヒックとドラゴン』の世界やキャラクター、そしてこのシリーズを通じて知り合い家族となったアーティストたちともお別れだと思うと寂しい気もする。とはいえ、これから新しいものに取り掛かることができるのは健全と言えるかもしれないね。

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――この3作目はこれまでに比べてもう少し大人向けのテーマも含まれているように思ったのですが、本作で特に伝えたかったものを教えてもらえますか?

過去2作にわたって人間とドラゴンの共存を描いてきたから、この3作目で彼らが別れていくという展開にするのは大きな挑戦だった。でも、そのアイディアに対しては譲れなかったんだ。今のこの変わりゆく世界にあって、「そして彼らはずっと一緒に幸せに暮らしました」という童話的なエンディングにするのは正しくないと思った。人間というものが移行期にある中、破壊を繰り返すという問題をきちんと解決しないことには、ドラゴンたちが象徴している自然という魔法のように美しいものが繁栄することはないと伝えたかったんだ。

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――シリーズ1作目で一緒に監督を務めていたクリス・サンダースが2作目からは製作総指揮に回りましたが、映画3作をほぼ一人で監督してみていかがでしたか?

誰かパートナーがいることの利点は、自分のアイディアを支持してくれたりサポートしてくれるし、スタジオのボスに自分のアイディアを伝える時には心強い味方になってくれる。でも監督が自分一人だと、自分がやっていることは正しいのか自問自答しなければならない。あることにこだわるのは、それが正しいからか、それとも自分が単に気に入っているからなのか、とね。だから、一人で監督する時は自分にもっと正直にならなければならないし、自分のしていることに対してより強い信念を持つことが求められる。ただしありがたいことに、僕の周りにいるのは同じような感性を持ち、才能にあふれる人たちだから、実際はそういう側面を心配する必要はなくてストーリー作りに集中できたよ。

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――本作には、『ゲーム・オブ・スローンズ』でジョン・スノウとしてドラゴンに乗っていたキット・ハリントン(エレット役)をはじめ、アメリカ・フェレーラ(アスティ役)、ケイト・ブランシェット(ヴァルカ役)、ジェラルド・バトラー(ストイック役)、ジョナ・ヒル(スノット役)、クリステン・ウィグ(ラフ役)、今回初参加のF・マーレイ・エイブラハム(グリメル役)など、映画やドラマで活躍する人々が声優として参加していますが、本シリーズを通じての彼らに関する思い出を何か教えていただけますか?

お気に入りのエピソードはケイト・ブランシェットにまつわるものだね。2作目から登場する強くて複雑な女性キャラクター、ヒックの母のヴァルカを演じてもらう役として思い浮かんだのが、『エリザベス』シリーズのケイトだった。彼女の声を思い浮かべながら2作目の脚本を書いた後、1作目がノミネートされたアカデミー賞授賞式で本人に会った。僕は自己紹介した後、「2作目にあなたの役を用意しました」と伝えた。どんな反応を示すかまったく分からなかったけど、ケイトは「あら。うちの3人の息子たちは1作目が大好きなのよ。どんなものなのか聞かせてくれる?」と答えてくれた。そこで僕がヴァルカというキャラクターはずっとドラゴンと一緒に暮らしてきたと説明したら、彼女は美しいドレス姿で髪も綺麗にアップにしているのに、突然ドラゴンのような動きを始めた。そして「スケジュールは空いているから、脚本を送って」と言ってくれたんだ。まさにハリウッド的なストーリーだよね(笑)


アフレコ収録に来たケイト・ブランシェットと。「いつものように素晴らしく一緒に仕事をするのが楽しいケイト! 僕らとともにこの旅路を歩んでくれてありがとう」

――声優の話が出ましたが、日本語版はご覧になりましたか?

グリメル(松重豊)のクリップ映像は観て、素晴らしい仕事ぶりだと思ったよ。彼(松重)自身が痩せ型の長身ということでグリメルと見た目が似ているし、声も悪役らしく尊大さも怖さもユーモアも兼ね備えていた。まだ全編は観ていないけど、吹替版もぜひ観てみたいね。

――本シリーズのように世界中で愛される作品に大事なものとは何だと思われますか?

一人の観客としての視点で言わせてもらえば、ビジュアル的にビックリするようなものが描かれていることかな。どこか別の世界に誘ってくれたり、国の垣根を越えて楽しめるような普遍的な作品でありつつもキャラクターがどこか自分や知り合いに似た親近感のある存在であったり、人生を肯定するようなものであれば、個人的には観た後もずっと心に残っているよ。笑った映画はしばらく覚えているけど、泣いた映画は年月が経っても忘れないものだね。

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――『AKIRA』やジブリ作品といった日本のアニメーションがお好きだそうですが、それらについてどういう風に考えていらっしゃいますか?

とても勇敢でイマジネーションにあふれていると思う。先駆けだよね。日本のアニメーションでは、観客が作品に対してとても敬意を払っていて、様々なテーマが存在する。でも北米ではいまだにアニメーションは子ども向けのエンターテイメントだと考えられているんだ。日本のアニメーションは大人向けのテーマも描いており、世界中のクリエイターにインスピレーションを与えている。『となりのトトロ』から『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』『AKIRA』『火垂るの墓』に至るまで、とても力強くて感動的なストーリーばかりで、素晴らしいよ。

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――10年以上関わってきた作品が完結したわけですが、今後はどんなことに挑戦されたいですか? 愛犬のアンガスを元にした企画はあったりするのでしょうか?

新しいプロジェクトに取り組んでいるところで、ずっとそのために脚本を書いているよ。今、開発中の企画が6~7個、個人的なアイディアは20個くらいあるんだ。ここ数ヶ月間は毎日いろんなプロジェクトを進めていて、すごく刺激的に過ごしているよ。残念ながらアンガスに関するものはないけどね(笑) ミクロマンの実写版に取り組んだりもしているんだ。

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『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は12月20日(金)より全国ロードショー。
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ディーン・デュボア監督
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
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