『ユーフォリア』ゼンデイヤ&『TENET』J・D・ワシントンが激しい愛の"舌戦"を繰り広げる究極の二人芝居

注目の2大スター、ゼンデイヤ(『ユーフォリア/EUPHORIA』)とジョン・デヴィッド・ワシントン(『TENET テネット』)が恋人同士に扮し、激しい愛の舌戦を繰り広げるNetflixオリジナル映画『マルコム&マリー』が2月5日より配信スタート! 登場人物は、険悪な1組のカップルのみ。この二人芝居、いつもの派手な痴話喧嘩なのか、それとも真実の愛が試される試練なのか...?【映画レビュー】(※本記事は多少のネタバレがありますのでご注意ください)

豪邸に向かって1台の車が帰ってくる。ジョン・デヴィッド演じるマルコムは、新進気鋭の映画監督。スマホの音楽に合わせて踊りながら、「今日のプレミアで、俺の映画が客を圧倒したぜ!」と歓喜の声を上げている。一方、ゼンデイヤ演じる恋人マリーは、スレンダーなモデル体型の元女優。トイレで用を足し、タバコを吸い、ドレスのまま仏頂面で、なぜかマカロニ&チーズを黙々と作り出す。このとてつもない温度差に気付いたマルコムは、「何に怒っているんだ?」としつこく問いただすと、マリーはポツリと心情を吐露する。 

「スピーチで、私への"感謝"の言葉がなかったわ!」

かくして二人の壮絶なトークバトルが勃発する。取って取られてのマウント合戦、最初は重箱の隅を細かく突つき、相手の黒歴史をほじくり返す「なんて面倒臭いカップル!」と呆れていたが、舌戦が過激さを増すにつれて、二人の世界にどんどん引き込まれていく。常軌を逸した長ゼリフ、震える唇、動揺する目、そしてあふれ出る悲喜こもごもの涙...俳優としてのスキルを全て持ち込み、画面に叩きつける二人の熱演は、本作の"唯一"の見どころだけに気合いがとにかく凄まじい。

これを演出したのは、『ユーフォリア/EUPHORIA』でゼンデイヤに史上最年少のエミー賞主演女優賞をもたらしたサム・レヴィンソン監督。コロナ禍により同ドラマのシーズン2の撮影が中断したことから、ゼンデイヤが彼に依頼したことで始動した企画だそうだが、レヴィンソンは1週間足らずで脚本を書き上げ、出演者は二人、撮影期間は約2週間、撮影地は米カリフォルニア州にある一軒家のみで完成させ、映画製作の新たな可能性を指し示した。

最後に、マルツェル・レーヴ撮影監督(『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』など)が手掛けた美しいモノクロ映像も特筆しておきたい。レヴィンソン監督の意図はさまざまあったと思うが、おそらくオールカラーでこのトークバトルを描いていたら、情報量があまりに多すぎて、視聴者の心は「ああ、もう、うるせぇ!」とパンクしていた恐れがある。舌戦のオフェンスとディフェンスが切り替わる時、一瞬訪れる不思議な静寂...そこに映し出されるゴージャスな家の外観、オシャレなテラス、シンメトリーのベッドルームなど、まるでアートのような幕間ショットも、緩和剤として実に効果的だった。「なんだかんだ、いい感じの二人じゃないか」という読後感は、モノクロ映像の魔力のおかげもあるような気がする。

(文/坂田正樹)

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Netflix『マルコム&マリー』