ドラマにおいて衣装は、その時代背景を示すものであると同時に、キャラクターの個性や印象を表現する重要な役割を担うもの。1800年代から1980年代を舞台にした作品を取り上げ、その衣装のこだわりについて米The Hollywood Reporterが紹介している。
1813年 『ブリジャートン家』
衣装部門には230名以上のメンバーが所属し、多額の予算にも恵まれていた本作は、下着からガウン、靴に至るまで、19世紀初頭の本格的なシルエットをすべてオーダーメイドで制作。また、担当デザイナーは、ヴィクトリア朝時代のデティール、1920年代から60年代までの生地、3Dプリントに至るまで、何世紀分もの要素や技術を取り入れたという。
社交界デビューで、ダフネ・ブリジャートン(フィービー・ディネヴァー)はヘイスティング公爵ことサイモン・バセット(レゲ=ジャン・ペイジ)に出会うが、この時に彼女が纏っているのは、袖にロマンティックな花の刺繍が施されたキャップスリーブのブルーのドレス。スカート部分の、目を奪う色合いと煌めくようなたなびきは、生地を幾重にも重ねて作られている。また、柔らかな滝が地面に流れ落ちるようなイメージで仕立てられたシルエットも相まって、二人の初めてのダンスのシーンを情熱的かつ魅力的に演出している。
ダフネのドレスは、当時の女性がどのように見られ、どれだけ限られた選択肢しか与えられていなかったかを表しているといえるだろう。しかし、『ブリジャートン家』の醍醐味は官能的なロマンスである。デザイナーのエレン・ミロイニック氏は、「これは恋に落ちるためのドレスだったの」と語っている。
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1947年 『ラチェッド』
衣装デザインを担当したルー・アイリッヒ氏とレベッカ・グッツィ氏が、本作が着想を得た1975年の映画『カッコーの巣の上で』そのもののように見えてしまわないようにするためのカギとしたのが、主人公ラチェッドが着用するナース服。暴力や欲望を象徴しつつも、リハビリセンターの牧歌的な海辺の環境と調和する完璧な色を求め、2週間にわたる見本の作成や染色テストの末に辿り着いたのが"サージカルグリーン"だった。さらに、看護師たちが廊下を歩いているときに、光や動作をよく捉えられるように、通常のナース服よりも柔らかい素材を求め、生地選びにもこだわったのだとか。
また二人は、第二次世界大戦中と戦後のナース服、スカートのシルエットや裾が進化した40年代後半から50年代のファッションを綿密に調査。特別に塗装されたバックルと、"サージカルグリーン"に染色された生地で覆われたボタンなどでシックな印象を大切にしたデザインで、さらにそれらは3Dプリンターによって正確に仕立てられている。
主任ナースのベッツィー・バケット(ジュディ・デイビス)には長いパフスリーブのものを、ジュニアスタッフには、半袖のナース服に水色のエプロンをつけるなど、それぞれのキャラクターの差別化も図られている。これらのナース服の衣装は、女性らしさと同時に強さを表現することで、看護師という仕事の威厳を強調している。
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1960年代 『クイーンズ・ギャンビット』
シリーズを通して主人公ベスの自己発見の道を描くために、担当デザイナーはバレンシアガやピエールカルダン、スタイルアイコンのジーン・セバーグ、オードリー・ヘプバーン、イーディ・セジウィックなど、50年代後半から60年代のさまざまなファッションからインスピレーションを集めたという。
担当の衣装デザイナーのガブリエレ・ビンダー氏は、物語の中で一貫してベス(アニャ・テイラー=ジョイ)が、純粋に彼女のチェススキルが評価されるのを望んでいることに注目。脚を見せたり胸の谷間を見せたりするのは簡単だが、ただ最高の勝者になりたかった彼女は、そうしなかった。それこそがベスの特別な力と解放なのである。
モスクワの街を歩くラストシーンでベスが纏っているのは全身ホワイトの衣装。彼女のエフォートレスなモチーフを保ちつつインパクトを与えることが重要な課題だったそうだ。ポンポン付きのベレー帽は、見た目から分かりやすくチェスの駒の形をイメージさせる。さらに、60年代風の白のパンツは、椅子張りに適した非常に硬い生地で特注したもので着心地のいいものではないそうだが、このシーンにおいては完璧なデザインで作られている。ビンダー氏は「この衣装では、彼女が自力で安全な場所へ到達したこと、そしてチェス盤の上で彼女が感じる安心感こそが、彼女が今生きているということだというのを伝えなければいけない」と語っている。
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1973年 『HALSTON/ホルストン』
「ヴェルサイユの戦い」(1973年に行われたヴェルサイユ宮殿の復元・修繕費を集めるためのチャリティを目的としたファッションショー。フランス人デザイナーとアメリカ人デザイナーが各5名ずつ参加)の間に起ったドラマやハイファッションのランウェイをいくつものエピソードで描いたこの作品においては、当時のスタンスやスタイルの波の変化をピンポイントで挙げるのはなかなか難しい。
ヴェルサイユ宮殿に足を踏み入れるシーンで、ホルストン(ユアン・マクレガー)が纏っているのは、パテントレザーのトレンチコート。それは、当時のフランス人クチュリエたちの伝統的なクチュール、息苦しいファッションとは対照的に、彼の滑らかでセクシーかつモダンな感性を表現している。いまや、黒のタートルネックとサイドシームのないパンツ、ダスタートレンチはホルストン独自のスタイルの代名詞となった。
衣装デザイナーのJeriana San Juan氏は、このファッションショーのシーンで、ヴェルサイユ宮殿の落ち着いた雰囲気とは対照的な、センセーショナルでありながらエレガントな光沢を放つ生地やデザインを色々と試したという。また、ホルストンの側近であるライザ・ミネリ(クリスタ・ロドリゲス)などのキャラクターを、ニュートラルでマットな質感と豪華な毛皮で着飾ることで、彼らをクールなニューヨークの派閥に見せる狙いがあったのだとか。
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1983年 『ザ・クラウン』
シーズン4で描かれるダイアナ妃(エマ・コリン)とチャールズ皇太子(ジョシュ・オコナー)のオーストラリア外遊の衣装製作だけでも、コレクションを用意しているかのごとく大変な作業だったという。それらの衣装には、市場や生地屋の隅々にまで目を光らせて買い付けた80年代半ばの生地が使われている。中でも、二人が一緒にダンスをするシーンでダイアナが着ている、英国のファッションデザイナー、ブルース・オールドフィールドのデザインに着想を得たブルーの夜会服はひと際美しい。
『ザ・クラウン』はドキュメンタリーではなくドラマシリーズだ。実際にダイアナが着用していたドレスの本質やシルエットは残しつつも、より刺激的な輝きを加えている。稲妻のような模様の銀のスパンコールと刺繍で飾られたドレスは、二人がダンスで動くたびに、きらきらと魔法のように光を放っている。
そのドレスは、チャールズがダイアナの人気の高まりの陰で嫉妬に狂う前、そして彼女の精神的健康が悪化する前の、軽さと希望の瞬間を表現している。衣装担当のエイミー・ロバーツ氏は、「ロマンティックであり、同時にセクシー。そして"彼らはこれからも大丈夫だろう"と思うはず。私はオーストラリア外遊のダイアナを小さな人形のようなものだと思っているの。突然、彼女の人間らしさが見え、そこにロマンスがあると感じる。それからすべておかしくなっていくの」と語っている。
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(海外ドラマNAVI)
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