レン・デイトン原作の人気スパイ小説シリーズを映像化した新作ドラマ『The Ipcress File(原題)』が、いよいよイギリスで放送される。放送スタートを前に、第1話の試写イベントに参加してきたので、今回はこの話題作をどこよりも早く紹介していこう。
『The Ipcress File(原題)』は、レン・デイトンのスパイ小説「ハリー・パーマー」シリーズの一作目である『イプクレス・ファイル』をもとにした全6話のサスペンス・ドラマ。
主人公ハリー・パーマー役に抜擢されたのは、『ピーキー・ブラインダーズ』と『ギャング・オブ・ロンドン』で強烈なインパクトを残した英俳優のジョー・コール。ほかに、ルーシー・ボーイントン(『ボヘミアン・ラプソディ』『シング・ストリート 未来へのうた)、トム・ホランダー(『ナイト・マネージャー』『キングスマン:ファースト・エージェント』)が共演。
『トレインスポッティング』のジョン・ホッジによる脚本で、『McMafia - マクマフィア』のジェームズ・ワトキンスが監督を手がける。撮影は、英北部のリヴァプールとクロアチアを中心に、コロナ禍のなかで行われたという。
ハリー・パーマーといえば、まず思い出すのが、マイケル・ケイン主演のスパイ映画『国際諜報局』(1965年)だろう。マイケル・ケインが着用した黒縁眼鏡はアイコニックなスタイルになり、映画『オースティン・パワーズ』で引用されたり、『キングスマン』シリーズに引き継がれたりなど、その後のスパイ作品に多大な影響を与えている。
『国際諜報局』の成功により、『国際諜報局/パーマーの危機脱出』(1966年)、『国際諜報局/10億ドルの頭脳』(1967年)というハリー・パーマー三部作とTVシリーズ二作が製作された。
そのハリー・パーマー・シリーズのTV版リメイクに乗り出したのが、英民放「ITV」局である。これまでも『ダウントン・アビー』や『名探偵ポワロ』などの人気シリーズを生み出してきた同局だが、近年は Netflixやアマゾン・プライムなどの有料会員制動画配信サービスとの競争を余儀なくされており、これらライバルに対抗すべく、鳴り物入りで登場するのがITVスタジオ製作の本作というわけだ。放送に先駆け、いち早くメディア向けの会見も現地で行われており、2022年一番の話題作といえるだろう。
物語の舞台は、西側と東側が対立する冷戦下の1963年。西ベルリンに駐屯する英陸軍軍曹のハリー・パーマー(ジョン・コール)は、持ち前の行動力と頭脳、人脈を活かして、軍の物資を横流しして東ベルリンで密売するなどで金を儲けていた。しかし犯罪が発覚して逮捕され、本国の軍事刑務所で8年間の服役となる。そんなパーマーを英情報部のダルビー少佐(トム・ホランダー)が訪れ、釈放と引き換えに、組織に誘拐された原爆研究の第一人者ラドクリフ博士の救出を命じる。MI5 諜報員としての活動を開始するパーマーだが、物語は意外な方向へと発展していく。
ジョー・コール扮するハリー・パーマーは、おなじみの黒眼鏡スタイルを引き継いでいるが、マイケル・ケイン版と比較して、如才なく打算的ながらもどこか憎めないキャラクターが強調されていると感じた。また、映画版では割愛されていた、ハリー・パーマーがスパイになる経緯が描かれているのも面白い。ダルビーの部下で才色兼備のジーン(ルーシー・ボーイントン)との絡みがどのように発展していくかも期待したいところ。
ひょんなことからスパイ活動を行うはめになるも、とりあえず業務をこなして、いつかはもっとマシな仕事をしようと夢見るサラリーマン気質のスパイ、ハリー・パーマー。地に足がついたリアルなスパイ・サスペンスの今後の展開が楽しみだ。
(取材・文/Yoshie Natori)
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