2010年の1月ほど、米のエンタメ界が揺れたことも、ここ数年なかったのではないでしょうか? NBCのナイトショー騒動のことです。
思い返せば、昨年春、NBCが、ジェイ・レノ司会のトークショーを平日夜10時の時間帯に移動させると発表したとき、米のエンタメ界からは大きな反応がありました。大半は、NBCが歴史に残るドラマ(『ER緊急救命室』『ロー&オーダー』)を次々生み出していた夜10時枠を、バラエティ番組に譲ったことに対する批判でした。
NBCはドラマのイメージも強いですが、近年、政治ネタ等でパワーアップしている『サタデー・ナイト・ライブ』や夜のトークショーの老舗的番組『The Tonight Show』をかかえていることもあり、バラエティ番組製作にも自信を持っていたのでしょう。夜のトークショーの中でも一番人気のジェイ・レノを、夜11時35分の時間帯から10時台に昇格させて手っ取り早く視聴率を稼ぐというアイデアは、このごろドラマ作りが絶不調のNBCには悪くないアイデアと思えたのだと思います。
そして、ジェイの後釜、夜11時35分の時間帯には、これまで翌0時35分からのナイトショー司会を担当していたコナン・オブライエンが昇格という、定石どおりの人事編成となりました。
ところが、昨年9月、ジェイの10時枠『The Jay Leno Show』の発進は初回こそ1700万人という、『CSI:科学捜査班』や『グレイズ・アナトミー』を超える視聴者数を獲得しましたが、その後ジリ貧。500~600万人まで視聴者は落ち込みました。
視聴率が悪い→広告が集まらない→何とかしてくれ!という地方局の苦情もNBCを悩ませましたが、もう1つの問題はゲスト集めの苦心。映画界のスターたちは今まで通り、新作映画が出るたびゲスト出演を続けましたが、他ネットワークのTVスターたちからは総スカン、「ジェイには出演しないように」というお達しが出たネットワークもあったといわれています。
CBSのシットコムに主演しているジュリア・ルイス=ドレイファスは数少ない他ネットからのゲスト出演派。ジュリアは「ジェイは長年の友だちだから...」と、"上司(CBS)"の意向を無視して、窮地に立つ友人を救ったのでした。
さらに悪いことに、11時35分に昇格したコナン・オブライエン司会のトークショー『The Tonight Show With Conan O"Brien』の視聴率が低空飛行。一方、ライバルのCBSのトークショー司会、デビッド・レターマンは、スキャンダルを次々打ち出し?どんどん差をつけました。若い世代にはコナンの方が若干人気がありましたが、NBCはそれを「幅広い層へのアピール力に欠ける」ととらえていました。
いつまでもつか...、という大勢の見方通り、今年に入ってNBCはギブアップ。ジェイ・レノを夜11時35分の時間帯に戻すと発表したのです。しかし、収まらないのはコナンでした。コナンは昨年の昇格時に、NBCの意向で本拠地をニューヨークからLAに移していたのです。200人のスタッフ+その家族全員も一緒。そこまでの覚悟で望んだ『Tonight Show』がたった7カ月で三行半をつきつけられ、深夜0時05分の時間に移動させるという、NBCの行き当たりばったりな新編成を飲むことはできませんでした。
契約違反だ!というコナンの訴えは通り、NBCは3300万ドル(約30億円!)の違約金をコナンに支払い、契約解除しました。7カ月は他ネットワークに出演することはできませんが、秋にはF○○あたりで、コナンの新トークショーが始まるかもしれません。
今回の騒動で「ジェイが自ら降板すれば良かった」という声もあります。けれど、ジェイは10時枠を始める前に、体調を崩し入院するなど、プレッシャーの大きさではコナン以上だったと思います。昨年9月からのたった5カ月でクビに追い込むのはかわいそうだし、第一、ジェイはナイトショーで一番視聴率を稼げるスターであることに変わりはないのです。(そして他ネットワークのナイトショー司会者たちは、そのジェイを潰したくて必死に叩いたのです。コナンの方が組み易しとみて...)
そもそも問題は、NBCがヒット・ドラマを生み出せないことあります。子ネットワークのSyFyは『バトルスター・ギャラクティカ』、USAは『名探偵モンク』『バーン・ノーティス~元スパイの逆襲』『White Collar~天才詐欺師は捜査官』とヒットを立て続けに飛ばす優等生なのですが、肝心の親が...。
けれど前途は有望。今秋のNBCは大物製作の新ドラマを数多く発注予定なのです。プロデューサー陣はなんと、J・J・エイブラムス、デヴィッド・E・ケリー、ジェリー・ブラッカイマー...。海外ドラマ好きなら飛びついてしまうビッグネームですね。
NBCは苦しい立場に立っていますが、ハタから見れば、それほど大騒ぎすることでもなかったのでは?と思わずにいられません。ケーブル局をはじめ、これだけドラマの本数が増えているのだから、NBCの夜10時のドラマがなくなったからってどうだ?というのでしょう。もちろん問題は他にもあるのでしょうが、この騒動には視聴者が不在だったと思います。一体誰のために騒いでいるのか? ハリウッドのとりあえず大勢に乗るというムラ意識を改めて浮かび上がらせた一件に思えてなりません。
コナンは1月22日をもって、16年間仕事をしてきたNBCに別れを告げました。ジェイは3月1日から夜11時35分の時間帯で『The Tonight Show With Jay Leno』を9カ月ぶりに再開させます。
そして注目の10時台には、3月以降、新ドラマ(ローレン・グレアムらTVスター競演の『Parenthood』)や『ロー&オーダー』シリーズといった大人ドラマが夜10時台向けに戻ってくることになります。ジェイの復帰&10時台ドラマは成功するのか? ハリウッドの内輪もめはこれでおしまい。これからは視聴者に判断をゆだねることになります。