海外ドラマは"宇宙船が飛んでなんぼ"――過去に『スタートレック』『スペース1999』『宇宙空母ギャラクティカ』などの洗礼を浴びた私は、今でも心密かにそう思っています(密かでもないか)。地上の色恋沙汰や犯罪捜査よりは、漆黒の宇宙に待ち受ける危険や冒険に胸が踊ってしまうのですね。とくに今の日本では"宇宙を舞台にした大人向けの実写ドラマ"なんて本当に望むべくもないので、アメリカを主とする海外のドラマにはよけいにそういうものを期待してしまうのかもしれません。
でも最近はアメリカでも、全盛期の90年代と比べて宇宙SFドラマはめっきり少なくなっています。一昨年に『バトルスター・ギャラクティカ』が完結して寂しい思いをしていたところに加えて、昨年は『Caprica』と『Stargate: Universe』の打ち切り決定という2大パンチが私の心を震撼させました。
『Caprica』は、SFドラマの枠を超えて高い評価を受けた、あの『バトルスター・ギャラクティカ』のスピンオフ作品。人類を絶滅のふちにまで追い詰めた機械生命体サイロンがそもそもどうして生まれたのか、その秘話を軸にした硬派な群像ドラマです(物語の主な舞台は、情報テクノロジーが進歩した現代の地球のような惑星なので、厳密には宇宙SFとは言えないかも)。『ギャラクティカ』では描ききれなかった宗教問題や人種差別など、現代社会の暗部にも深く切り込む内容で、俳優の演技や視覚効果も含めてクオリティは非常に高い作品でした。物語の展開は緩慢だったので視聴者の食いつきが悪かったのかもしれません。
それでも打ち切りの発表後、今年の1月初旬にまとめて放送された最終5話は展開がぐんと速まり、クライマックスにふさわしい仕上がりとなっていました。とくに最終話ではギャラクティカのファンにとって驚愕の事実が明かされたほか、以後に待ち受けるサイロン戦争への布石も打たれており、満足のいく終わり方になっています。わずか1シーズンで幕を閉じたのは残念ですが、本作はとりあえずは役割を全うしたといえるでしょう。
でも、『Stargate: Universe』(以下、SGU)の打ち切り決定には納得がいかない! 私の周辺でも「えー! せっかく面白くなってきたところだったのに。うそだ......」というアメリカ人の嘆きの声が多数上がっています。
SGUは、映画「スターゲイト」、TVシリーズの『スターゲイト』(10シーズン)、『スターゲイト:アトランティス』(5シーズン)というように、連綿と続いてきたスターゲイトシリーズの最新作。長寿シリーズを背景にしているとはいえ、過去作を知らない初心者も意識した作りになっており、「宇宙のいろんな所に古代人が遺した"どこでもドア"があるんだよ」という基本設定さえ押さえていれば、一応ついていけるお話になっています。
太陽系外の惑星で新たに発見されたスターゲイト。その研究のため同惑星を訪れていた人々は突如異星人の攻撃を受け、稼動したスターゲイトを通って命からがら逃げ延びた。彼らが行き着いた先は、なんと巨大な宇宙船の中。「デスティニー」と呼ばれるこの船は、スターゲイトと同じく古代人の手によって建造されたが、いまは無人となっている。地球から何十億光年も離れた宇宙で、超光速ドライブにより自動航行をし続けるデスティニー。軍人や科学者、一般の民間人からなる生存者グループは、船内に隠された秘密をひとつひとつ解明しながら、いつか地球に戻れると信じて放浪の旅を続ける......。
過去作と違い、本作のスターゲイトはプロトタイプで有効範囲が限られるため、地球にひとっ飛びで帰るというわけにはいきません。しかも、デスティニーは老朽化によりあちこちにガタが来ており、食料や水、空気の供給もままならない有様。そこで登場人物たちはデスティニーが超光速航行を停止したときを見計らい、スターゲイトを通って近隣の惑星に降り立ち(この使い方はスタートレックの転送装置に似ていますね)、必要物資を探そうとしますが、行く先々で危険に出会います。
「宇宙の果てに飛ばされた人々が、故郷の地球を探し求めて旅をする」という設定は、『スタートレック:ヴォイジャー』に似ていると放送前には指摘されていましたが、実際見ると、過去作の軽快なトーンとは一変してリアリティを重視した作風や登場人物の背景を小出しにする描き方などは、最近のヒット作である『バトルスター・ギャラクティカ』や『LOST』の影響を受けているのは明らか。一方、さまざまな異星生命体がCGで登場するほか(英語は話さない)、デスティニーの陰鬱な船内とは対照的に、砂漠やジャングルなどバラエティに富んだ惑星が登場するというように、娯楽性にも重きをおいた作りとなっています。
キャストも豪華ですね。映画「フル・モンティ」や「トレインスポッティング」などで有名で、最近では『24 リデンプション』でジャック・バウアーの旧友役を演じたのが記憶に新しいスコットランド出身の俳優ロバート・カーライルが、癖のある天才科学者を好演。映画「戦火の勇気」「ペンタグラム」のルー・ダイヤモンド・フィリップスや、『ER』のミン・ナも出演しています。
彼らのほかに重要なキャラクターとなっているのが、翼を広げた大鷲のような形状をした得体の知れない宇宙船デスティニー。古代人がこの船を造った目的は不明で、未知の機能が多数隠されているらしく、回を重ねるごとに驚くべき発見が待ち受けています。
そして、SGUの最大の魅力たらしめているのが、作中に見え隠れする、シンプルながらも骨太なSFマインド。たとえば、荒野の惑星にたった1人で取り残された登場人物が、地球とはまるで異なる星空を仰ぎ見るときの途方もない孤独感。太陽への突入コースをまっしぐらに突き進む宇宙船の中で、もう逃げられないと知った人々がそれぞれの時間を過ごす諦念に満ちた空気。あるいは、前方に突如現れた未知の宇宙船からメッセージを受信するときの衝撃。こんなふうに、私たちと同じ現代人の視点で宇宙の出来事に遭遇する純粋な驚きや感動を、過去作以上に素直に描き出しており、まるでSFの原点に立ち戻ったような気さえします。視覚効果も素晴らしく、昨年のエミー賞では2エピソードがノミネートされています。
......と、魅力いっぱいのSGUですが、残念なことに視聴率では苦戦していました。過去作とはガラリと異なる雰囲気に従来のスターゲイト・ファンがついてきていないのか、それとも、シーズン1の中盤がやや地味だったからか......シーズン2の序盤からは緊迫した展開を迎え、せっかく面白くなってきたところだっただけに、打ち切り決定はなんとも残念なニュースです。
とはいえ、製作総指揮を務めるブラッド・ライトはまだあきらめておらず、水面下で新たな出資元・放送局を探している模様。また、ファンの間でも救済運動が盛んなのはうれしいことです(ちなみに、私の隣に住んでる大学の先生は「スターゲイトシリーズの中ではSGUが一番だよ!」と熱弁していました(笑))。シーズン2の後半となる残り10話分の放映が3月7日からスタートするので、その最終話までにシーズン3への継続が決まるといいのですが、さてどうなることやら。
なお、両作品を放映していたケーブル局のSyfyが打ち切りを決めたのは、『ギャラクティカ』の新たなスピンオフ作品『Battlestar Galactica: Blood & Chrome』の影響があったのかもしれません。『~Blood & Chrome』は、第1次サイロン戦争が勃発してから10年後を描く作品で、『ギャラクティカ』では威厳あふれる指揮官だったウィリアム・アダマの若くて血気盛んな頃が見られるようです。もちろんギャラクティカも"新鋭艦"として再登場。先日撮影がスタートしたばかりで、ネットではすでにコンセプトアートやスタジオの様子をおさめた写真などが公開されています。
宇宙SFドラマはどうしても予算がかかるので、評判のよかった『ギャラクティカ』に内容が近く、最も集客が見込めそうな『~Blood & Chrome』にリソースを集中しようという判断が働いたのでしょうか。
それはともかく宇宙船好きとしては、SGUの継続と『~Blood & Chrome』の成功、この2つともに実現してほしいところ。『スタートレック』の新シリーズなどが全盛だった90年代ほどとまでは言いませんが、宇宙SFドラマに暖かな春が訪れることを願ってやみません。
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