【お先見!海外ドラマ日記】ジュリアン・ムーアが前副大統領候補サラ・ペイリンをパーペキに演じた『Game Change』

全国の海ドラファンの皆さん、こんにちは。秋の始まりですね。こちらは11月の大統領選を控え、関連ニュースがTVやネットを賑わせています。とくに8月にフロリダ州で開催された共和党の全国大会での、クリント・イーストウッドの演説は、いろんな意味で興味深いものでした。でも、そのおかげでミット・ロムニーの指名受諾演説はすっかり印象が薄くなった感が...。

さて、今回ご紹介するのは、HBOのテレビ映画『Game Change』。2008年の大統領選で、サラ・ペイリンが共和党の大統領候補ジョン・マケインの指名を受けて副大統領候補となるところから、大統領選の結果が出るまでの約3か月を追ったポリティカルドラマです。2010年始めに出版された同名のベストセラー・ノンフィクションの一部と、ライターによるさらなるインタビュー取材の内容から脚色。今年3月に初放映されたとき、HBO製作のTV映画としては、過去4年で最も多くの人に視聴されました。批評家受けもよく、今度のエミー賞でTV映画またはミニシリーズ部門の作品賞や監督賞を始め、7つの部門でノミネートされています。

サラ・ペイリンに扮するのは、ジュリアン・ムーア。予告編をみて、その完コピぶりにびっくり! 『Saturday Night Live』でペイリンをパロッたティナ・フェイ(『30 Rock/サーティロック』)もよく似ていたけど、ジュリアンは本当にクリソツ。これは必ずや本編を見ねば、と思いました。彼女はこの役が決まるやいなや、ヴォーカルコーチについてサラ・ペイリン独特の話し方を2カ月間猛練習したそうです。そして顔の造形やヘアスタイルをペイリンにするために、撮影前のメーキャップに毎回2時間要したのだとか。おかげで、撮影現場にたまたま居合わせた一般人に、「サラ・ペイリンがここに!?」と間違えられたほどだといいます。

もう一人の主役は、ジョン・マケイン(エド・ハリス)の選挙参謀であり、副大統領候補にサラ・ペイリンを抜擢する張本人のスティーブ・シュミット(ウディ・ハレルソン)。映画は、当時アラスカ州知事で州外ではまったく無名だったサラ・ペイリンが、いかにして副大統領候補へと白羽の矢を立てられたか、そして一夜にしてスターとなり、当初は女性の人気と多くの寄付を集めたものの、どのように選挙戦に敗北してしまうのかをシュミットの視点で描いています。ウディ・ハレルソンは、「悪役」や「気のいいバカ」といった彼の役柄イメージとは大きくかけ離れた知的な役を、抑えた演技でクールにこなしていて、好感を持ちました。

ジュリアン・ムーア自身は2008年の大統領選の際にはオバマ支持者でした。その政治的な思想もサラ・ペイリンのそれとは対極のようですが、それでもペイリンの持つカリスマ性に敬意を払い、彼女の魅力や弱点をなんとも繊細に演じています。その演技は、サラ・ペイリンを支持したことのない私でも、ジュリアン扮するペイリンの苦悩する姿に同情をしてしまうほど迫真に迫っていて、まるで心理サスペンスをみているような気になりました。この主演二人のエミー賞受賞は堅いでしょう。

『Game Change』の初放映時、批評家たちの大きな論点は、「サラ・ペイリンに対してフェアであるか」でした。多勢がフェアであるという論調でしたが、本当のところは当事者にしかわからないことだと思います。選挙参謀を務めたスティーブ・シュミットは、映画について「10週間の選挙運動が2時間の映画に要約されているが、真実を伝えている。あれが実際に起きたことです」とコメントしています。

一方で、サラ・ペイリンは「映画をみるつもりはない。他の人も時間を無駄にするからみない方がいい。『Game Change』は虚偽の物語を下敷きにしている」と語っています。でも私は、おそらくペイリンは同映画をみたのではないか、とふんでいます。というのも、自分への評価を過剰なまでに気にするという、彼女の人となりを映画の中にみたからです。

大統領選のある今年に、この映画が放送された意義は何だったのでしょう? 手痛い失敗から教訓を学ぶ? サラ・ペイリンは、先の共和党大会には招待されませんでした。また前大統領のブッシュとその陣営も、ほとんど招待されていません。でも共和党支持者及び共和党員は、今の人選から察するところ、そんなに学んでいないような気がします。

Photo:ジュリアン・ムーア(c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net (左から)エド・ハリス、ウディ・ハレルソン(c)Izumi Hasegawa/www.HollywoodNewsWire.net