ジョン・リースはコスチュームを着ないバットマン!? 空前のアメコミ人気を巧みに取り込んだドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』

アメリカでは『バットマン』シリーズの最新作『ダークナイト・ライジング』が話題を集め、アメコミ・ヒーロー大集合な『アベンジャーズ』が大ヒットし、『Xメン』シリーズから派生した『ウルヴァリン』の最新作が撮影中などなど、アメコミの映画化は相変わらず大人気。もちろんTVドラマでもスーパーマンの若き頃を描いた『ヤング・スーパーマン』やアメコミテイストを取り入れた『HEROES』がヒットし、この秋からは『ヤンスパ』にも登場したDCコミックのヒーロー、グリーン・アローを主人公にしたその名もズバリな『ARROW』がスタートするなど、昔からアメコミテイストの作品は人気ジャンルのひとつと言える。

とはいえこのジャンル、アピールするのはやはり若い年齢層がメインでコアなテイストになりがち。そんな中、気になる作品が『パーソン・オブ・インタレスト』だ。犯罪を予知するシステムを利用して、未来に起こる事件を阻止しようとする2人の男の姿を描いたこの犯罪ドラマ。犯罪予知システムなどと言えばSF的に聞こえるが、実際にはSF的アプローチは皆無。一見するとアメコミのテイストなど見られないこの作品こそ、新しいアメコミテイスト・ドラマの形を現しているのだ。

主人公のジョン・リースは特殊部隊出身の元CIAエージェント。愛する者を失った事から浮浪者同然の生活を送っていたところ、謎の大富豪ハロルド・フィンチから犯罪抑止の協力を求められる。このリース、記録上はすでに死亡扱いでこの世には存在しない事になっている。そんな影の存在である彼が大都会ニューヨークの雑踏に紛れ、法を無視して人知れず悪と闘う姿はまさしくダークヒーローであり、闘わせればほぼ無敵、ピンチの時もとっさの判断で素早く切り抜けていくリースはまるでコスチュームを着ていないバットマンのようだ。そんな彼をプログラミングの腕を生かしてサポートしていくフィンチは、いわばルーシャスとロビンを足して2で割ったようなもの。

そもそもこのドラマを製作しているのは『ダークナイト』シリーズの脚本家であるジョナサン・ノーランなのだから、これはもう確信犯。『ダークナイト』シリーズでジョナサンは、これまであくまで架空の街として作り上げられていたゴッサムシティを現代のニューヨークと酷似した街に変貌させた。それによって今までの『バットマン』シリーズにはないリアルな感触を作品に生み出してきたわけだが、『パーソン・オブ・インタレスト』では"ニューヨークで暗躍するコスチュームを着ていないヒーロー"という逆のアプローチをする事で、現代にリアルに息づくダークヒーローを誕生させたのだ。

アメリカで『パーソン・オブ・インタレスト』を放送しているCBSは、『NCIS』や『CSI』シリーズ、『メンタリスト』など、高視聴率番組を数多く有する局として知られているが、同時にメイン視聴者の年齢層が高いことでも知られている。THE CWなどはティーン向けのドラマを量産しているが、その対極にあるのがCBSなのだ。あまり大きな変化を求めない視聴者がターゲットなので、CBSのドラマは1話完結型の犯罪ドラマが鉄板。『パーソン・オブ・インタレスト』はそのフォーマットをきちんと押さえながら、コアになりすぎない形でアメコミテイストを盛り込んだ。『ダークナイト』シリーズのファンであれば、このドラマに流れる同じ空気を感じ取れるだろうし、『ダークナイト』を知らない層も普通に犯罪ドラマとして楽しめる。この微妙なバランスを取るのは簡単そうで難しいが、平均視聴者数1300万人超えという数字が、このアプローチの成功を物語っている。特定層にアピールしがちだったアメコミ系ドラマにおいて、この『パーソン・オブ・インタレスト』の成功は、実はとても画期的な事なのだ。

■『パーソン・オブ・インタレスト』
2012年10月10日ブルーレイ&DVDリリース!