【お先見!海外ドラマ日記】マフィア系医療ドラマ『The Mob Doctor』面白いのに視聴率がふるわず、ドラマ自体が危篤状態

ふと気づけば、10月。ネットワークに秋の新作ドラマがたわわに実る季節。今年は豊作でしょ?と言わんばかりに、 新ドラのポスターが街のあちこちに色付いている。

でも実際には、毎年のことだが、 新ドラの 大半は「不作」なのだ。「ちょいとそこの奥さん、これ大きいでしょ? 手に取ってみてよ」と大々的に宣伝する大作ドラマも、フタをあけてみればキャラやプロットが生焼けだったり、あるいは以前どっかで見たような使い古しの腐りかけだったりで、消化不良や胸焼けを起こすことも少なくない。

だがその一方で、いかにも不格好でまずそうなドラマが、口に入れてみると「旨っ!」ということが、ごく稀にある。今回ご紹介するFOX系列の『The Mob Doctor』も、そんな「見かけによらない」ドラマのひとつだ。

まず、タイトルからしておかしい。「Mob Doctor」とは、当サイトでもおなじみ、TAKO社長(このペンネームもかなりおかしい。寅さんファンか?)による「直訳」を借りるなら、「マフィアの医者」ということになる。え? マフィアと医者の兼業農家? それもシュールで面白そうだが、ここでは「マフィア付きの医者」というくらいの意味で使われている。

切った張ったが日常のデンジャラスな世界で生きるマフィアさんは、ケガが絶えない。でも悪いことしてるから、ケガをしても下手に病院に行けない。あぶない凶器が使用されていた場合、医者は警察に報告する義務があるし、報告されるとマフィアさんはお縄になっちゃう。だから、こっそり診察してくれる医者がいれば、マフィアさんには重宝なのだ。

そこでお目見えするのが『The Mob Doctor』の主役グレイス嬢(ジョーダナ・スパイロ『My Boys』)。ケガした悪い奴らを治療してあげる、白衣の天使。とはいえ、医学部に「マフィア科」などというものがあるはずもなく、グレイスもなりたくてMob Doctorになったわけではない。マフィアに借金を返せない残念な弟くんを救うため、しかたなくやっているのだ。

ふだんは病院で外科医として働きながら、その合間をぬって、せっせとマフィアを治療する。ただでさえ忙しいのに、時には死亡した患者の部屋に、こっそりマフィアを連れ込んだりしながら。

しかし、このようなヒロインの涙ぐましい努力にも関わらず、上記のような概要を読んでこのドラマを観たいと思う読者はそんなにいないのではないだろうか? はっきり言って「なんじゃそら」な設定だし、病院もマフィアも血なまぐさいし、そんなに愉快な話になるとは思えない。

ところが、意外にも『The Mob Doctor』は観る者を退屈させないのだ。医療ドラマと犯罪ドラマの配分バランスが絶妙で、「病院が息苦しいなぁ」と感じたころにマフィアのおじさんが暴れてスカッとさせてくれ、また「マフィアが鬱陶しいなぁ」と思ったころに医者と患者のヒューマンドラマで心が洗われる。薩長同盟並みの、あるいは、いちご大福並みのサプライズ・マッチングなのだ。

もちろん、魅力的な役者陣の功績も大きい。グレイスの理解ある上司に、『ダメージ』での怪演でエミー賞を獲得したジェリコ・イヴァネク。そしてグレイスの二重生活に振り回される繊細な彼氏に、『Friday Night Lights』でシャイなクォーターバックを演じて人気を博したザック・ギルフォード。いずれのキャラも、知性と芯の強さとを兼ね備えており、「ああ、こんな上司/彼氏がほしい」と思わせる。

また、ドラマの要となるマフィアのボスには、古くは映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984)』から、近年の『ボードウォーク・エンパイア』に至るまで、数々のマフィア役をこなしてきたウィリアム・フォーサイス。マフィア・キャラ歴ほぼ30年の彼は、まさに百戦錬磨。アダルト女優ならぬ、マフィア男優だ。そのポーカーフェイスと重厚な演技でボスの人柄に、ひいてはドラマ自体に深みを与えている。

にも関わらず、というべきか、やはり、というべきなのか、『The Mob Doctor』の視聴率は、第一話からいきなりの低空飛行。第二話以降も着実に降下を続け、もはやネットワークでは許されない数字をマーク。ほとんど危篤状態に陥っている。やはり、マフィア系医療ドラマというアヴァンギャルドな設定が、一般視聴者には受け入れがたかったのだろうか。

無理もない、正直に言えば私も、この記事を書くという目的がなければ観なかったかもしれない。だって医療にマフィアって、どっちに転がっても流血必至だし。しかし、ネットワーク系の新ドラの中では、今のところ同ドラマと『Made in Jersey』が一番面白そうなので、なんとか踏ん張ってほしいところ。三途の川からの奇跡の生還を祈りつつ、クリエイター陣によるドラマの心臓マッサージに期待したい。

Photo:ジョーダナ・スパイロ (c)Kazuki Hirata/www.HollywoodNewsWire.net ジェリコ・イヴァネク、ウィリアム・フォーサイス (c)Ima Kuroda / www.HollywoodNewsWire.net